よかぜ

山口県下関市出身。最終学歴中央大学法学部法律学科、65歳 、考古学調査員、横浜市在住。…

よかぜ

山口県下関市出身。最終学歴中央大学法学部法律学科、65歳 、考古学調査員、横浜市在住。 やりたいこと~ぼくを含む世界の成り立ちと行方を知ること。人間という生物を知ること。 詩や短歌、小説、批評文、様々な文章媒体を駆使して「今」に肉薄してみたい。ここで本気でやれるといいな。

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  • 現代詩

    現代詩をまとめています。

記事一覧

〈皐月夢想〉

名残の桜が散って 遠山(えんざん)から なだれる 青葉の裾を 五月の風がわたる 朝晩は まだ冷える 列島の春の ゴールデンの 市井の四井から 匂いたつ フェミニン…

よかぜ
2週間前
5

詩 〈水彩  壱〉

青色インクを 零したら 夜になった 晴朗な 西の国の 砂浜に 南風(はえ)が吹いて 今宵の星空は きっと 世界の果てまで 広がっている たとえば? たとえば 誰も…

よかぜ
1か月前
5

書評【市川沙央〈ハンチバック〉再読】

 本日、障害者の安楽死問題に関わるニュースを観ていて、以前、読んだ市川沙央の芥川賞受賞作 〈ハンチバック〉を再読してみた。ひょっとしたら読み違えているかと危惧し…

よかぜ
2か月前
7

詩 〈泳人 壱〉

アフリカから Asiaへの十万里 黎明の沖を 泳ぐひと 抜手を切って マゼランの 喜望峰を 回りこむ 彼女の滑らかな 水をはじく 背中から 昇る朝陽 広大なブルーグ…

よかぜ
2か月前
5

詩 〈往 還〉

すぅーっと降りてったら 足がついた その時から すべての 生き物に 気を配った 濡れたり乾いたりする きなりの膚を 彩る 赤や緑や黄色の カビさえ 愛しかった …

よかぜ
2か月前
4

詩 〈風 野〉

春が来る前に もう若い色がついている 陶器の白い肌には 緑の葉脈が透けてみえる 谷をわたる 風の天涯は 真っ青 いやむしろ 眩む群青か 宿命のように 生きてきた…

よかぜ
2か月前
3

詩 〈25番目の春〉

夏に向かって 開く その肌への ぬるさ 曖昧な季節の 領域を 容認する時間 新助坂を 女の 足だけが 下ってゆく 地から沸いてくる 野太い読経の声に 唱和しなが…

よかぜ
2か月前
2

詩 〈後朝 壱〉

まだ 乱れたままの 床の上で 先の御門に 召還された 未明 起き上がった 女と男の その身体の先触れ 国学に 偏向する 明治の亀裂に 向かう 中心の穂先は まだ柔く ゆ…

よかぜ
2か月前
2

詩〈せいじん 壱〉

うずくのは 胸の奥所なのか それとも 鳩尾の切れ目なのか 下腹からせり上がってくる ものは押さえずともよい いずれ後継もなく 枯れ草のように 燃え落ちる身体なのだ …

よかぜ
2か月前
2

レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」

 チャンドラーの最後の作品であり、翻訳の刊行を待たずに、訃報が出された。プレイバックとは、「再生」と言う意味だが、何の再生なのか、訳者も後書きで不思議がっている…

よかぜ
2か月前
6

詩 〈詩 人 壱 〉

何が不満なのか 書きすぎて 円環の亜細亜に 欧風の伸展が 鮮やかな毒色に 滲んでいる 石に漱ぐ と書いた 棗形の 骨壷 その 薄暗い奈落から 国の扉に手をかけた 髑髏…

よかぜ
3か月前
8

詩 〈繚 乱〉

真っ青な空の端から 堕ちてくる 背中のショウセキは 長い怠惰と 稀にみる 狭い了見の報い それでも 人並みに 身過ぎ世過ぎの 間には 幻の女の 幾体かに 美しい手技を…

よかぜ
3か月前
3

〈鎌倉〉

長い坂を上り この切通を越える 空へ登るように 心が軽くなる なだれる 木々の 緑の その匂いが濃い 幾つもの影と 石の路を踏んで 下ってゆく いきなり 白い砂…

よかぜ
3か月前
6

〈冬の旅 2024〉

晴れ上がる この青さを超えて 北へ向かう 数万の翼 風を切り 白い雲を蹴散らし 実に数億年の 旅の記憶が 彼らを正しく導くのだろう いちじるしいもの 溢れ出すもの …

よかぜ
3か月前
3

〈聖夜〉

美しいものが 見当たらない地上 漆黒の闇夜が イブの空を覆う 星の光よりも早く きみの想いは あのひとに 届くだろう うねる銀河の 星間の風は 一際凄いが まだ…

よかぜ
4か月前
2

〈これがぼくらの冬の悲歌〉

〈これがぼくらの冬の悲歌〉 冬がくる その朝 われらの列島の 銀杏の葉は いっせいに きらきら光る 高層ビル街の 濡れた石の ペイブメント に響く靴音が 低く霧の這…

よかぜ
5か月前
2
〈皐月夢想〉

〈皐月夢想〉

名残の桜が散って

遠山(えんざん)から

なだれる

青葉の裾を

五月の風がわたる

朝晩は

まだ冷える

列島の春の

ゴールデンの

市井の四井から

匂いたつ

フェミニンと

ジューシーな

若草色の夢を

もう一度

なぞってみたい

 

君のやるせない

熱望は

いつも九時の方向から

組み上げられ

一万ヘクタールの

獄(ひとや)のように

押し黙った部屋の

三時の方向

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詩 〈水彩  壱〉

詩 〈水彩  壱〉

青色インクを

零したら

夜になった

晴朗な

西の国の

砂浜に

南風(はえ)が吹いて

今宵の星空は

きっと

世界の果てまで

広がっている

たとえば?

たとえば

誰も

叩いたことのない

木製の扉の

内側で

咳をする

痩せた人の

乾いた胸の

空洞にも

静かな

夜が満ちるのだ

その頃

玲瓏な

東の国の

青く

透き通るような

春の森に

優しい風が

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書評【市川沙央〈ハンチバック〉再読】

書評【市川沙央〈ハンチバック〉再読】

 本日、障害者の安楽死問題に関わるニュースを観ていて、以前、読んだ市川沙央の芥川賞受賞作 〈ハンチバック〉を再読してみた。ひょっとしたら読み違えているかと危惧したからだ。だが、再読しても根底的な部分でのわたしの感じ方や考えは、以下に再掲する〔   〕内の短評を揺るがすものはどこにもなかった。

文学作品の評価の原則は、ただ1つだ。それはどんな政治的、社会的な価値観をも退けた地点でなされるもので、こ

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詩 〈泳人 壱〉

詩 〈泳人 壱〉

アフリカから

Asiaへの十万里

黎明の沖を

泳ぐひと

抜手を切って

マゼランの

喜望峰を

回りこむ

彼女の滑らかな

水をはじく

背中から

昇る朝陽

広大なブルーグレーの

塩辛い水を

湛える陸の窪みから

聳え立つ

巨岩に滴る

緑と緑とさ緑の

樹木たちの

数えきれない

祝祭の日々

蠕動と褶曲の

地の皺

斜面に

穿たれた

参道を歩む

ああ

数万の白

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詩 〈往 還〉

詩 〈往 還〉

すぅーっと降りてったら

足がついた

その時から

すべての

生き物に

気を配った

濡れたり乾いたりする

きなりの膚を

彩る

赤や緑や黄色の

カビさえ

愛しかった

400年が経てば

美男美女も

あらゆる

余計な肉や皮を

そぎおとして

綺麗になる

髑髏の愛人に

優しく

袖を引かれ

口説かれるたびに

第七肋骨の疼く春が

今年も

もうすぐ訪れる

だが

この

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詩 〈風 野〉

詩 〈風 野〉

春が来る前に

もう若い色がついている

陶器の白い肌には

緑の葉脈が透けてみえる

谷をわたる

風の天涯は

真っ青

いやむしろ

眩む群青か

宿命のように

生きてきた途上の

幾つもの

有り様が

暗い頭蓋の

透明な結節の

内部に

点々と灯る

下って行く人と

すれ違いざまに

短い挨拶も交わす

この峠を越えたら

なだらかな

眉間のような

小さな平原(ひらば)に

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詩 〈25番目の春〉

詩 〈25番目の春〉

夏に向かって

開く

その肌への

ぬるさ

曖昧な季節の

領域を

容認する時間

新助坂を

女の

足だけが

下ってゆく

地から沸いてくる

野太い読経の声に

唱和しながら

坂下の

南元町に

ゆっくりと

沈んでゆく

ゆるやかに

雁行する

風の手になぶられ

縷々

縷々と

ほどけていく

硬直した

身体の節目

もうすぐ

茜色に

やがて

紅(くれない)に

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詩 〈後朝 壱〉

詩 〈後朝 壱〉

まだ
乱れたままの
床の上で

先の御門に
召還された
未明

起き上がった
女と男の
その身体の先触れ

国学に
偏向する

明治の亀裂に
向かう

中心の穂先は
まだ柔く

ゆっくり
練り上げられていく
朝の白い粘りには

江戸の西端
かの大木戸を
囲繞する
みるく色の
霧を溶かし混む

虹色に
染まる

想い人との
逢瀬まで

吹き抜ける風と
歌う観覧車の
回る

黒々とした
影の下で
待つ

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詩〈せいじん 壱〉

詩〈せいじん 壱〉

うずくのは
胸の奥所なのか

それとも
鳩尾の切れ目なのか

下腹からせり上がってくる
ものは押さえずともよい

いずれ後継もなく
枯れ草のように
燃え落ちる身体なのだ

夢の廃墟に続く道の
黒ずんだ石畳を踏む

甲高の白い足

踵に入る
融雪期のあかぎれのように

遥か足下の
武蔵野ロームを
迷走する

姶良火山の
光る灰を

〈蹴散らし〉

固い生活を版築した
2万4千年の
いま

その先端で

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レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」

レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」

 チャンドラーの最後の作品であり、翻訳の刊行を待たずに、訃報が出された。プレイバックとは、「再生」と言う意味だが、何の再生なのか、訳者も後書きで不思議がっている、のちにハードボイルドの古典と呼ばれた名作「長いお別れ」の後に、4年半待たされたにしては、泰山鳴動鼠一匹の感があると、ニューヨークタイムズの批評家に言わしめている不思議な作品。
 読んでいる当方もなんというか、さびぬきだが、ちゃんと味わえる

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詩 〈詩 人 壱 〉

詩 〈詩 人 壱 〉

何が不満なのか
書きすぎて

円環の亜細亜に
欧風の伸展が

鮮やかな毒色に
滲んでいる

石に漱ぐ
と書いた

棗形の
骨壷

その
薄暗い奈落から

国の扉に手をかけた
髑髏の人

あの日
背後で音もなく

迸るもの

やがて
滴るものを

目で追い

落ちる首に

影色に
軋むこの体を

なお

この世紀も
いまだ

受けとめかねている

詩 〈繚 乱〉

詩 〈繚 乱〉

真っ青な空の端から
堕ちてくる

背中のショウセキは

長い怠惰と

稀にみる
狭い了見の報い

それでも
人並みに
身過ぎ世過ぎの
間には

幻の女の
幾体かに

美しい手技を
披露するひとときも
あったのだ

岩棚を吹きすぎる
ゆるい風が

つゆの寝覚めを
うながす

もう幾万年
眠ったら

あの水色の
夢の端に
たどり着くのか

果てしない思いに
茫々とした時を刻み

涼やかな目元の
凛とし

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〈鎌倉〉

〈鎌倉〉

長い坂を上り

この切通を越える

空へ登るように

心が軽くなる

なだれる

木々の

緑の

その匂いが濃い

幾つもの影と

石の路を踏んで

下ってゆく

いきなり

白い砂浜が

見えたら極楽寺

思い出の

スクリーンに

碧い風が巻いて

白い波濤が

上がる

遠いフォーカスで

昨日の君の

愛しい面影が

溶けてゆく

ああ

この海での

この後悔

夕闇の

稲村ヶ崎から

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〈冬の旅 2024〉

〈冬の旅 2024〉

晴れ上がる
この青さを超えて

北へ向かう
数万の翼

風を切り
白い雲を蹴散らし

実に数億年の
旅の記憶が

彼らを正しく導くのだろう

いちじるしいもの
溢れ出すもの

なべて過剰なものが
命の別名

優しさは
墨のように
宇宙に流してきた

氷の息遣いで
あと数万年の
飛翔は軽い

温めあう
小さな胸を
ピタリと合わせ

幾つもの
暗い奈落を
越え

遥かきみの
上空を走る
純白の
スカイ

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〈聖夜〉

〈聖夜〉

美しいものが

見当たらない地上

漆黒の闇夜が

イブの空を覆う

星の光よりも早く

きみの想いは

あのひとに

届くだろう

うねる銀河の

星間の風は

一際凄いが

まだ間に合う

なけなしの

未来をはたいて

手に入れた

約束の日に

アジアの

歴史的な

夕陽が

黄昏のローマの

あの磨かれた

大理石の

エンタシス

を照射する

輝く翠の

星と

花の

恋人たちよ

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〈これがぼくらの冬の悲歌〉

〈これがぼくらの冬の悲歌〉

〈これがぼくらの冬の悲歌〉

冬がくる

その朝

われらの列島の
銀杏の葉は

いっせいに
きらきら光る

高層ビル街の
濡れた石の
ペイブメント
に響く靴音が

低く霧の這う
あの街角を
曲がってゆく

白い息を吐き
やがて目覚める

高い窓を探しても

巡りあうはずの愛は
どこにもみえない

数千キロを
隔てた
この地の

死の日

死の月

血の河を
魚がゆく日

黒煙の覆う
空へ
鳥が還

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