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“子育てスタートダッシュ”をするための準備

わたしは里帰りをしなかった。ぎりぎりまで仕事もしたかったし、夫と一緒にいるのが一番安らげるのもわかっていたから、東京で産むのは自然な選択だった。地元に住む親友の出産予定日がたまたま11日後だとわかったとき「同じ病院で産もうや~」と言われて、ちょっと揺れたけど。それも結局、彼女のほうが9日も早く産んで、もしそのためだけに里帰りしていたら入院期間はかぶらないところだった。

いろんなひとに「産後は手伝ってくれるひとがいないと無理だよ」と言われまくったけれど、実際問題ひとりで育てているひとだっているわけだし、無理ってことはないだろう。本当にどうしようもなくなったら、徒歩20分のところに住んでいる義母に相談すればいいし、実家から母を呼んだっていい。とりあえず、夫とふたりでやってみたいし、きっとできる、と思った。もちろん、そのための準備は万全に整えた。

子どもが産まれてからの働き方を、夫婦で話し合う

夫の職場は理解があり、2ヵ月の育児休暇を取得した先輩もいる。夫のチームにはまだいなかったけれど、言えば取れない雰囲気ではない。だけど育休は、私が退院してからの1週間だけにした。だって、子どもは産まれたら、ずっといる。最初だけみっちり一緒にいてもらうより、細く長く、ずっと一緒に子育てしたい。だから私たちが選んだのは、有給で済む以上の育休はとらずに、毎日なるべく20時に帰ってくるワークスタイルに切り替えること。夫はその働き方を、産後1年が経ったいまでも続けてくれている。

……という話をすると、だいたい「早く帰れる仕事でいいね」みたいなリアクションをされるんだけど、夫は子どもが産まれるまで毎日のように深夜2時とか3時まで働いていた。「早く帰れる仕事」なんじゃなくて「早く帰れる働き方」に、頑張って変えてくれたのだ。抱えている仕事量が減っているようには、見えない。ただ、私も似たような働き方をしていたわけで、仕事のやり方を変えたのはお互い様。子どもが産まれて生活スタイルが180度変わるなら、それぞれ90度ずつ変えて、うまくやっていこうと思ったのです。

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基本の買い物はAmazonと西友のネットスーパー、赤ちゃん本舗の宅配。産院のベッドから、退院後1週間の夕食はセブンミールからお弁当が届くように手配もしていた。家事ができないほどではなかったけれど、産後の体は休めたほうがいいと聞くし、ゆっくり赤ちゃんの顔でも眺めて過ごそうと思い、まずは食事の支度をアウトソーシングした。お金で解決することをある程度思い切るのは、精神的にプラスだったと思う。

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掃除はルンバ、洗い物は食洗機。洗濯は洗濯乾燥機&浴室乾燥で、干す手間もほとんどない。ついでに言えば、ハンガーのままクローゼットにかけているから、たたむのはタオルくらい。家電をフル活用するために、すべての家具の脚はルンバが入れる高さにしてあるし、なるべく食洗機にかけられる食器を選ぶ。がんがん乾燥して、少しくらい縮んでもへっちゃらなお洋服を着る。家事に時間をとられるなら、産まれたばかりの子どもを見ていたかったし、少しは仕事もしたかった。

全部ふたりでやれるようにする

入院中から少しずつ母乳が出始め、退院して数日経つころには完全母乳でいけるくらいになっていたけれど、たとえば私が少しまとまって寝たいとき、仕事で出かけるとき、ミルクを飲ませることに何の抵抗もなかった。幸い、子どもはミルクも母乳も同じように、ごくごく飲む。乳頭混乱(乳首と哺乳瓶の形状や飲み方が違うことで、赤ちゃんがどちらかを嫌がる)などもなかった。なぜか「完全母乳で育てるのが一番!」みたいな空気が根強くあるけれど、ミルクを混合できたから、いざというときは夫と分担も可能になった。とはいえ、飲んでもらわないと私の胸がぱんぱんに張ってつらいから、基本は授乳。その代わり(?)夫が家にいるときは、だいたいすべてのおむつを替えてくれる。

里帰りをしなかったおかげで、子育てスキルを身につけていく過程が、夫婦でほとんど同じになった。一斉スタートなら、手先が器用な夫のほうがちょっと有利な気さえする。単純に、ふたりで初めてのことにチャレンジするのが久しぶりだったから、まずわくわくがあった。どっちかしかできないタスクが増えるぶんだけ負担は偏るから、なるべくそれを避けたいという思いも強かった。実際、授乳以外で夫にできないことなんて、いまだにひとつもない。

散々「夫婦ふたりじゃ無理だよ」「新生児の子育て甘く見てるよ」とか言われたけれど、里帰りをしなくて困ったことはひとつもなかったし、よかったことは山ほどあった。もちろん人それぞれだけど、私にとって最初の1ヶ月は、3人で暮らす生活に一歩ずつ浸かっていくような、試運転の時間。だからこそ苦労は夫としたかったし、できてよかったと思っている。

たぶん、そのおかげで。息子が生まれた2016年3月のことを振り返ると、リビングに差し込む日射しがとても温かい。やわらかくて甘やかなものに包まれて、ずっとまどろんでいるような、穏やかな空気がよみがえる。

Photo: 取り違え防止のために?わたしの名前を足の裏に殴り書きされている息子

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