杉山博亮

弁護士(東京弁護士会所属)/日本刑法学会会員/1990年司法試験合格/著書:『論文答案…

杉山博亮

弁護士(東京弁護士会所属)/日本刑法学会会員/1990年司法試験合格/著書:『論文答案作成教室ー法律的文章を書くコツ』(第4版・2016年・法学書院)、『刑法への誘い』(2014年・右文書院)、『ユーブング刑法』(2003年・現代法律出版)他

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  • 【学ぼう‼刑法】入門編/刑法総論

    刑法を初めて学ぶ人を対象にした刑法総論の入門講座です。 かつて私が大学の法学部で刑法総論の講義をしていたときのパワーポイントをベースにしています。 大学の法学部にいてこれから司法試験を目指そうかと考えている方、法科大学院の未修者コースにいる方、また、興味から大学の法学部レベルの刑法学を学びたいと考えている方などにオススメです。

  • 【学ぼう‼刑法】

    大学2年のときに初めて刑法学と出会い、司法試験合格後、弁護士となってからも、受験指導をしたり、大学の法学部や法科大学院で教えたり、実務家として刑事弁護をしたりしながら、刑法について考え続けて40年が経ちました。そろそろ、人生の残りも少なくなってきたので、あの世に行く前に、刑法の論点について日頃から感じていた疑問や、思うこと、理解のためのヒント、新たな視点の提案などを書き残しておこうと思い始めました。 そんな動機で始めたこともあり、刑法総論、刑法各論の範囲から話題を取り上げますが、順序等はなく、ランダムです。 各記事では、一応、前提となる知識の確認から書き起こしますが、レベルとしては、司法試験受験生や法科大学院の院生くらいが対象となると思います。初めて刑法を学ぶ方や、法学部の学生などは「【学ぼう‼刑法】入門編」から入っていただくほうがよいでしょう。 更新は不定期です。

最近の記事

【学ぼう‼刑法】入門編/総論26/共同正犯(2)/共同正犯の錯誤/過失犯の共同正犯

第1 はじめに前回は「共謀共同正犯」と「承継的共同正犯」について扱いました。 共謀共同正犯は、共同実行の事実の「内容」の問題、 承継的共同正犯は、共同実行の意思が「形成される時期」の問題でしたが、今回扱うのは、共同実行の意思の「内容」に関わる問題です。 第2 共同正犯の錯誤1 共同実行の意思は「故意の共同」か? 共同正犯の成立要件として、主観的要件である「共同実行の意思」と、客観的要件である「共同実行の事実」とが必要であるということは、古くから言われてきたことです。も

    • 【学ぼう‼刑法】入門編/総論25/共同正犯(1)/共同実行の事実と共謀共同正犯/共同実行の意思と承継的共同正犯

      第1 はじめにこれは、共犯に関する条文です。 前回は、教唆犯、従犯をやりました。今回は「共同正犯」です。 第2 共同正犯の成立要件と効果1 共同正犯の存在意義 共同正犯について定めた刑法60条は、次のように規定しています。 これが「共同正犯」です。 まずは、事例を見てみましょう。 この【事例1】において、まずは「共同正犯」という共犯形態がなかったら、甲・乙がそれぞれどのような罪になるかを考えてみましょう。 この事例では、甲・乙は、共に、殺意をもってAに向かって

      • 【学ぼう‼刑法】入門編/総論24/教唆犯と従犯の構成要件/共犯の従属性/共犯の処罰根拠

        第1 はじめに今回のテーマは「共犯」です。 その中でも、特に、狭義の共犯と呼ばれる「教唆犯」と「従犯」を取り上げます。 共犯には、これらの他に「共同正犯」というものがあり、教唆犯、従犯にこれを加えた3つが、広義の共犯と呼ばれています。 まず、共犯について定めた条文を示せば、次のとおりです。これから3回で詳しく見てゆくので、今はサッと目を通す程度で大丈夫です。 第2 正犯と共犯犯罪事実に対する行為者の関与の仕方には、2種類のものがあります。 これが「正犯」と「共犯」

        • 【学ぼう‼刑法】入門編/総論23/違法性阻却事由の錯誤/誤想防衛とその周辺/違法性の錯誤と違法性の意識

          第1 はじめに今回のテーマは「違法性に関する錯誤」です。 まず、この問題が、犯罪論体系上のどこに位置づけられるのか、という確認をしましょう。 故意は、現在では、犯罪論体系上、構成要件段階と有責性の2箇所に位置づけられ、機能しています(故意の二重的機能)。 そして、構成要件段階にある故意は「構成要件的故意」と呼ばれ、有責性の段階にある故意は、単に「故意」または「責任故意」と呼ばれています。 構成要件的故意は、構成要件に該当する客観的事実を認識(認容)するというもので、

        【学ぼう‼刑法】入門編/総論26/共同正犯(2)/共同正犯の錯誤/過失犯の共同正犯

        • 【学ぼう‼刑法】入門編/総論25/共同正犯(1)/共同実行の事実と共謀共同正犯/共同実行の意思と承継的共同正犯

        • 【学ぼう‼刑法】入門編/総論24/教唆犯と従犯の構成要件/共犯の従属性/共犯の処罰根拠

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        • 【学ぼう‼刑法】入門編/刑法総論
          26本
        • 【学ぼう‼刑法】
          12本

        記事

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論22/構成要件的事実の錯誤(2)/抽象的事実の錯誤

          第1 はじめに前回は、構成要件的事実の錯誤のうち、具体的事実の錯誤(同一構成要件内で生じた錯誤)のお話をしました。 今回は、構成要件的事実の錯誤のうち、抽象的事実の錯誤(異なる構成要件にまたがって生じた錯誤)のお話をします。 ……が、その前に、前回の復習を軽くしておきましょうか。 まずは、用語の意味を確認しましょう。 次に、具体的符合説と抽象的符合説の内容を確認しましょう。 具体的符合説と法定的符合説では、錯誤が客体の錯誤か方法の錯誤かによって処理が変わります。ま

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論22/構成要件的事実の錯誤(2)/抽象的事実の錯誤

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論21/構成要件的事実の錯誤(1)/具体的事実の錯誤/予定外事実の併発

          第1 はじめに前回の終わりに、今回使用する事例を紹介しておきました。 今回使うのは、以下の事例です。 今回のテーマは、具体的事実の錯誤です。 では、早速、始めましょうか? 第2 具体的事実の錯誤1【設例91】客体の錯誤 以上が【設例91】の事実関係です。早速、Aに何罪が成立するかを考えてみましょう。 犯罪は、構成要件に該当する違法かつ有責な行為なので、まず、このAの行為が何罪の構成要件に該当しそうか、という見当を付けましょう。 これは、難しくないですね。人を殺そう

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論21/構成要件的事実の錯誤(1)/具体的事実の錯誤/予定外事実の併発

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論20/刑法における錯誤の分類/事実の錯誤と違法性の錯誤

          第1 はじめに前回は、故意のお話をしました。 そして、前回の終わりに「故意」にまつわる一種の病理現象としての「錯誤」のお話をして、課題を出しておきました。 今回は、このお話です。 第2 事実の錯誤と違法性の錯誤1 錯誤の意味 「錯誤」について国語辞典で意味を調べると、 などという説明が出てきます。 ここで問題となる「錯誤」は、②の意味です。 つまり、それは、外界に存在する「客観的なもの」と、人の内心に存在する「主観的なもの」との不一致(齟齬、ズレ、食い違い)で

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論20/刑法における錯誤の分類/事実の錯誤と違法性の錯誤

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論19/故意と過失/故意の犯罪論体系上の地位

          第1 はじめに責任能力と故意・過失が、基本的な責任要素であることは、前回までに学びました。 その一方で、現在では「構成要件的故意」や「構成要件的過失」というものが当然のように存在するものとされていて、これらは構成要件要素とされ、構成要件該当性判断の段階で検討されています。 では、これらの「構成要件的故意」「構成要件的過失」と責任要素としての「故意」や「過失」とはどのような関係に立つのでしょうか? また、そもそも「故意」や「過失」とは、どのようなものなのでしょうか?

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論19/故意と過失/故意の犯罪論体系上の地位

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論18/責任能力とその周辺/原因において自由な行為の理論

          第1 はじめに前回までに学んだことによれば、責任能力と故意または過失は、行為者に対して行為責任を問ううえでの必須の責任要素です。 しかし、刑法は、責任能力について正面から規定していません。 けれども、刑法は「心神喪失者」と「14歳に満たない者」の行為について「罰しない」と規定しており、これは、責任能力を欠くために、有責性が阻却され、犯罪が成立しない場合であると理解されています。 第2 心神喪失刑法第39条1項は「心神喪失者の行為」について、罰しないとしており、これは責

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論18/責任能力とその周辺/原因において自由な行為の理論

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論17/有責性とその理論的根拠/責任要素と責任阻却事由

          第1 はじめに犯罪は、構成要件に該当する違法かつ有責な行為と定義されます。 そこで、犯罪の成否は、構成要件該当性、違法性、有責性の有無を順に判断することによって判断されます。 ここまでで、構成要件該当性と違法性について学びました。 そこで、ここから有責性について学びます。有責性は、行為者の行為について構成要件該当性、違法性の判断がなされ、いずれも「有り」とされた場合の3段階目の判断です。 犯罪の成否を判断するうえでの最後の関門であり、これが肯定され、通過すれば、犯罪

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論17/有責性とその理論的根拠/責任要素と責任阻却事由

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論16/法律科目の答案の書き方(1)/一行問題と事例問題/いろいろな論証表現

          第1 はじめに1 答案の書き方を学ぶ必要性 今回は、いつもとチョット趣を変えて、「法律科目の答案の書き方」というテーマでお話したいと思います。 私の法学部での学生時代を振り返っても「答案の書き方」というものを教えてもらった記憶がありません。 では、どうやって「答案の書き方」を身につけていったかというと、司法試験受験団体で受けた指導であったり、司法試験予備校での答案練習会でした。そういう機会に配られる「優秀答案」などを見て、 「なるほど、答案というのはこんな風に書くの

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論16/法律科目の答案の書き方(1)/一行問題と事例問題/いろいろな論証表現

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論15/被害者の同意

          第1 はじめに今回のテーマは「被害者の同意」です。 被害者の同意は、条文をもたない「超法規的違法性阻却事由」ですが、古くから「同意は違法を作らず」との法諺により、違法性を阻却するものと考えられてきました。違法性阻却事由の分類としては、下の図の左下の領域に位置づけられます。 少し前までは「被害者の承諾」という呼称のほうが一般的でしたが、最近は「被害者の同意」と呼ばれることが多くなっているように感じます。 「承諾」は、法律用語としてもやや多義的に使われる言葉であるため、個

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論15/被害者の同意

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論14/緊急避難/違法性阻却説と責任阻却説/正当防衛と緊急避難との違い

          第1 はじめにだいぶ時間が空いてしまいましたが、前回と前々回は「正当防衛」について学びました。特に、前回扱った「偶然防衛」は、違法性をめぐる学説の対立が鮮明に現れる重要な論点でした。 正当防衛をめぐっては、これ以外にも面白く、難しい論点がたくさんあるのですが、ここは入門編なので、まずは先に進みましょう。 今回扱うのは「緊急避難」です。 上の図は、以前にも示しましたが、違法性阻却事由が、条文があるかないかによって「法規的違法性阻却事由」と「超法規的違法性阻却事由」とに分

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論14/緊急避難/違法性阻却説と責任阻却説/正当防衛と緊急避難との違い

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論13/正当防衛(2)/偶然防衛と防衛の意思

          第1 はじめに今回は、正当防衛の2回目です。 前回の最後に「防衛の意思」の要否は正当防衛における最大の争点であるとお話しました。そして、正当防衛の要件として「防衛の意思」を必要と考えるか不要と考えるかによって結論に大きな差異が現れるのが「偶然防衛」と呼ばれる事例です。 今回は「偶然防衛」の事例を検討しながら、その中で「防衛の意思」の要否の問題がどう現れるのか、そして「防衛の意思」を必要とする説、必要としない説の背後にはどのような考え方の違いがあるのかについて検討します。

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論13/正当防衛(2)/偶然防衛と防衛の意思

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論12/正当防衛(1)/正当防衛の効果と成立要件/対物防衛

          第1 はじめに前回は、違法性に関する最初の回として、違法性の実質と違法性阻却の原理について説明しました。 そして、違法性阻却事由には、明文の規定をもつ「法規的違法性阻却事由」と明文の規定をもたない「超法規的違法性阻却事由」があること、また、緊急事態であることを要件とする「緊急行為」と、そのような事態であることを要しない「正当行為」とがあることを説明しました。 「法規的/超法規的」を縦軸に、「正当行為/緊急行為」を横軸にとって各違法性阻却事由を位置づけると、次の図のとおり

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論12/正当防衛(1)/正当防衛の効果と成立要件/対物防衛

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論11/違法性阻却事由と違法性の実質

          第1 はじめにわが国の刑法学において、犯罪は、構成要件に該当する違法かつ有責な行為と定義されます。 そして、この定義に従い、犯罪の成否の判断も、 構成要件該当性 違法性 有責性 の3段階の判断を経て行われる、という学説が一般的な支持を受けていることはすでにお話しました。 そして、前回までは、このうちの第1段階、構成要件該当性について説明してきましたので、今回からは、第2の違法性判断の段階に進みます。 違法性をめぐっては、 主観的違法性論と客観的違法性論 形

          【学ぼう‼刑法】入門編/総論11/違法性阻却事由と違法性の実質