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「三時の方向に美女警報!」だったあの頃。

思い出補正にまんまと引っかかっていた。

デジモンはタイチたちが主人公だった無印(初代)だよね。
「ミュウツーの逆襲」が歴代ポケモン映画ナンバーワン。
劇場版コナンはベーカー街の亡霊までだろJK。

など、多くの思い出補正の例があるが、
私が言いたいのはそういうことじゃない。

この度題材にしたいのは
「週末、あの飲み屋に行ったら、カワイイ娘がたくさんいた」
というヨコシマな思い出補正のことである。

「三時の方向に美女警報!
いざ出動!プオン、プオン!」
私のレーダーは感度ビンビンで飛び回っている。
脳内サイレンに従い、とある飲み屋に飛び込んでみたところ、案の定やはり女の子たちが酒を飲んでいた。それを求めてやってくるだらしのない男性陣もちらほら見受けられる。
いい感じに破廉恥だ。

「よし、こりゃあ、また行くしかねえ!」

期待を胸いっぱいに膨らませ、鼻息荒くずんずんと航路を進んでゆく。前回のイメージ全開で、新たな女性との出会いに思いを馳せる。
「よいしょおお、こんばんはー!」
意気揚々と飲み屋に足を踏み入れる。旅の始まりに心が躍り、酒と煙草とつまみのにおいが鼻腔をくすぐり犯す。

だが、以前とはなにかちがう。
妙な違和感が瞬時に私を包む。

・・・血よりも赤く焼き付いていた、甘美でエロチシズムな香りが全く漂っていないのだ。

あれ、お、おかしいな、
先週はもっとがちゃがちゃだったぞ。
男はあわよくばワンナイト、女はあわよくばワンドリンク。寄せては返す波のような駆け引きがチャラチャラ行われていたはず。
だが、私の瞳に映っているのは、日本の歴史を己の身体に刻み込んだ勇者の方々が語らう景色。
いや、かつて勇者であった方々というべきか。
戦いの傷は女性に見せるもんじゃねえと、ひっそり固まりあってちびりちびり酒を飲んでいるその背中は荘厳である。しかし、それだけである。

「今日は静かで落ち着いてる日や~」

柔らかい笑顔でマスターは微笑んでいる。私も微笑み返してカウンターに座る。瓶ビールを一本注文すると、小気味いい音を立ててマスターがグラスに注いでくれた。
黄金色に染まりゆくグラス。
その上部に、白銀の雲が漂う。
素敵だ。ビューティホォー。
私はそいつを勢いよく、ごくりと喉へ流し込む。
嗚呼。うん。やっぱり酒は美味い。
それだけは全く変わらない。

思い出補正に支配され、イメージを固めてしまうのは至極危険である。
あの日あの時あの場所で会えたからよかったのであって、もう一度そのような場面に出くわすとは限らない。ラブストーリーは、計画して起こしても粋じゃない、突然起きちゃうから色めくのである。

誤解のないように言っておくが、私はその店が大好きだし、今は猥雑な気持ちで足を運んでなどいない。酒が美味い、たまに知り合いがいて嬉しい。清廉で純粋な飲んだくれとして夜を楽しんでいる。

さらに言うと、最近は思い出補正に囚われることが随分と減ってきた。
成長し、紳士になってきたというのもあるが、
やはり一番の要因は、アルコールによって思い出が消されるようになってきたということだろう。

ああ、今夜も飲むか。
すばらしき夜の記憶に乾杯。

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