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書評

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[書評]『喧嘩両成敗の誕生』

[書評]『喧嘩両成敗の誕生』

さていきなりですが質問です。以下の特徴を見てみなさんは「どこの国の人」を思い浮かべるでしょうか?

プライドが高く、キレやすい。都市部では些細なことですぐに衝突が起きる。しまいには路上で殺人が横行し、これをきっかけにした暴動がしょっちゅう勃発する。こうした紛争はバックに有力者がついている方が有利になるので、商人でさえも有力者の傘下に入ることが常態化していた。

南米や東南アジアのギャングの姿を思い

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[書評]『戦国武将、虚像と実像』

[書評]『戦国武将、虚像と実像』

戦国武将と聞けばこんなイメージを思い浮かべないだろうか。

などなど。一度はどこかで耳にしたこともあるフレーズもあるはずだ。

だがこのような戦国武将イメージは、ほとんど作家によって形作られた虚像である!といったらみなさんはどう思うだろうか?

もしかしたらそこまで言い切ってしまったら語弊を招くが、世間一般に流布する「歴史とはこういうものである」という素朴な歴史観は、往々にして人物史を核に、小説・

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[書評]『室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』

[書評]『室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』

タイトルといいい表紙といい、とてもじゃないが真面目な歴史本とは思えない。が、日本中世史が専門の歴史学者が書いた一冊。とはいえ、タイトルの雰囲気通り、とても読みやすい。何より惹きつけられる面白さがある。著者は『喧嘩両成敗の誕生』『大飢饉、室町社会を襲う!』などの名著で知られる清水克行さん。

「中世社会」と聞いても普通はあんまりイメージがピンとこない。最近で言えばNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の

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[書評]『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』

[書評]『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』

「応仁の乱」といえば人生で一度は習ったことのあるワード。「戦国時代の幕開けとなった」なんてフレーズは教科書で読んだことがある人も多いかと。

ただこの11年にもわたる戦い、ともかく複雑なのだ。例えば東西両軍の顔ぶれを教科書などで見てみるとこの通り。

応仁の乱の対立関係図 (出典元:世界の歴史まっぷ)

斯波家の家督争いで西軍についたのが「義廉(よしかど)」で東軍側が「義敏(よしとし)」。受験生泣

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【書評】『上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩』

【書評】『上杉謙信 「義の武将」の激情と苦悩』

上杉謙信といえば現代でも数多くのファンがいる戦国屈指の人気武将の一人だ。そして謙信について問われれば「武田信玄の好敵手」「毘沙門天のごとき戦の天才」「利ではなく義を貫く武将」といったイメージが思い浮かぶ。

だが本書冒頭にもある通り謙信のイメージの大半は、江戸時代に彼を流祖にいただいて創始された越後流軍学の影響だ。さらに越後流軍学を積極的に採用した紀州藩が江戸時代前期に作らせた『川中島合戦図屏風』

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【書評】『感染症の日本史』

【書評】『感染症の日本史』

昨日clubhouseで「疫病と日本史」というテーマでトークイベントをした。その時のネタ集めとして読んだのがこの『感染症の日本史』。著者は『武士の家計簿』『無私の日本人』などの著作やNHK「英雄たちの選択」の司会などでおなじみ、日本近世史が専門の磯田道史先生。

感染症とは何か?歴史を眺めると、人類は幾度にもわたり感染症の流行を経験し、多くの人が命を落とした。天然痘、ペスト、コレラ、麻疹、梅毒、チ

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【書評】『軍事戦略入門 (シリーズ戦争学入門)』

【書評】『軍事戦略入門 (シリーズ戦争学入門)』

昔からアクション映画が好きだ。敵と格闘したり、銃をぶっ放したり、ド派手になんでもかんでも爆発させたり。中でも好きなシリーズは『ジョン・ウィック』だ。キアヌ・リーブス演じる主人公のガンアクションはここしばらくのアクション映画で一二を争うハイクオリティだと思う(ガンアクション×カンフーでガンフーと呼ばれる)。

そんなジョン・ウィックシリーズの最新作は『パラベラム』という副題がついている。銃器に詳しい

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【書評】『新解釈 関ヶ原合戦の真実 脚色された天下分け目の戦い』

【書評】『新解釈 関ヶ原合戦の真実 脚色された天下分け目の戦い』

本日の一冊は「天下分け目の戦い」と呼ばれ誰もが一度は必ず学んだことのある関ヶ原の戦いについて、一次史料を丹念に探索しながらその実像を描いた『新解釈 関ヶ原合戦の真実 脚色された天下分け目の戦い』。著者は近世城郭が専門の白峰旬先生。

「西軍勝利」と断言したメッケル少佐僕が小学生のころだからもう十数年前の話だが、テレビの歴史系特番で関ヶ原の戦いを特集していた。その冒頭にこんな逸話が出てきた。明治時代

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【書評】『日本中世への招待』

【書評】『日本中世への招待』

本日の一冊は「中世」(だいたい平安時代末期から戦国時代あたり)の様々な人々の日常生活や価値観・世界観を様々なテーマで一般の人にもわかりやすく解説した入門書。著者は『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』の大ヒットでおなじみ呉座勇一さん。余談だが、僕の母校(中高)の大先輩にあたる方だ。

最近SNS上での発言が炎上し大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証も降板となってしまった。無論Twitterという空間

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【書評】『長篠合戦と武田勝頼』

【書評】『長篠合戦と武田勝頼』

前回に引き続き戦国歴史本。戦国関係の授業づくりの一環で読み始めて、あっという間に読み終えてしまうぐらいの面白さだった。著者は戦国大名の武田氏研究で知られる歴史学者の平山優先生。

敗者に冷たい歴史学

(武田勝頼肖像画:Wikipediaより)

学校の教科書でも一度は学んだことのある武田勝頼。しかし彼に対する人々のイメージは「自身の力を盲信し長篠の戦いで織田信長に無謀な戦いを仕掛けて敗れ武田家を

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【書評】『織田信長』

【書評】『織田信長』

今回は久しぶりにゴリゴリの歴史本。今でも日本人の間に根強い人気を誇る戦国大名・織田信長。「革命児」「天下取りの野心家」「常識破りの天才」などなど様々なイメージが定着している信長の本当の姿を、丹念に先行研究や史料を紐解きながら明らかにしていこうとする一冊。著者は中世後期の宗教社会史を専門にされている神田千里さん。

「好きなに歴史上の偉人投票」で常に上位に入る信長。その人気の裏には、よくドラマや映画

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【書評】『新説の日本史 古代から 古代から近現代まで』

【書評】『新説の日本史 古代から 古代から近現代まで』

みなさんこんにちは。「定期的にnoteで文章を書くのだ!」と宣言しては長続きしないという生活を続けてはや2年近く。いったいなぜこうなのか?その理由は「何かのテーマについて内省して言語化するのが遅い!」というのに尽きる。

だったら本を読むたびにその内容をまとめて紹介すれば、内容も頭に定着するし、文章力も上がるし、記事も定期的に書ける。一石三鳥ではないか!と例のごとく単細胞的に思いついたので、まずは

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【書評】『すみません、金利ってなんですか?』

【書評】『すみません、金利ってなんですか?』

みなさんこんにちは。最近は仕事がひと段落したこともあり、猛烈に読書欲求が高まり、いつも以上に本を読むのがはかどっている。とても嬉しい限りだ。

今日は経済金融におけるめちゃくちゃ初歩的な入門書をご紹介。『すみません、金利ってなんですか?』。

(AmazonHPより)

本書冒頭にも書かれているのだが「本づくりと称して自分のために、「世界一ハードルの低いお金の本」をコンセプトにした企画」から生まれ

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【書評】『世界は贈与でできている』

【書評】『世界は贈与でできている』

今日はここしばらくで一番学びが多く、知的感動を刺激された一冊を。タイトルは『世界は贈与でできている』。著者は弊社でもお世話になることの多い、リベラルアーツを主軸にした統合型学習塾「知窓学舎」で講師をされている近内悠太さん。

(AmazonHPより)

市場経済の中の贈与贈与と聞いても普通あまりピンとこない(正直にいうと僕も贈与税とか近代以前の社会慣習ぐらいしか思い当たらない)。一般的に「何かを無

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