前回は、私の小学四年生のころの無邪気な訓練や兄からの日常的な暴力について書きました。今日はその続きです。

兄のその後

兄は、引越しを機にイジメから離れ、自信を取り戻した。本来のお調子者キャラが復活したことで、人気者のモテ男になった。スクールカーストの上層部に身を置き、後輩から慕われ、先輩から可愛がられ、同級生とも楽しく過ごしていた。そのまま順調にイケイケのチャラ男になり、就職も結婚もして出世して友達も多いらしい。

ずるいよな、別にいいんだけど。辛いときを乗り越えて立ち直って本当によかったと思う。もう兄の悔しがって泣く姿を見ることもない。わかっている、良いことだ。楽しそうな兄はイキイキしている。兄が成長するにつれて技をかけられることは無くなった。でも、ずるい。擦り込まれ済みの逆らえない感覚は簡単に外すことはできない。兄は決して謝らない。忘れているのかもしれない。私を見下したまま大人になり、今も私の意見を全面的に鼻で笑う。兄の中で、私はずっと人間以下のままなのだろう。私のことだけは馬鹿にしていいし、見下すことが正しいのだろう。自分がいじめられていた時代、自分よりさらに下の階級に存在し、這ってエロ本を探す妹など、どうやったって同じ身分とは思えないのだろう。

会社では面倒見の良い気さくな上司として慕われているらしい。父母はそんな兄の立派な姿を喜んでいる。

絵に描いたような家族を、兄も父母も生きている。私はその絵の中に入らなかった。私を踏み台にして、絵は完成したのだ。

私のその後

私は、兄に相反して、いばらの道を歩んだ。天真爛漫の可愛らしい愛されスマイル幼少期から、漂うクラゲ宇宙人へ進化したのだから、当然の流れである。

詳しく書くと、悪徳業者から黒い手を差し伸べられるかもしれない。不幸の耐性がついていると悪い人のカモになりやすいのだ。なぜそんなことを知っているかといえば、もちろん経験済みだからだ。今回は、抽象絵画のようにイメージのみで表現しようと思う。

青春をそれなりに楽しんだつもりだが、道のりの途中、何度か精神的大怪我をしている。幸か不幸か麻痺状態が強かったので、怪我していることにも気がつかず無茶を続けた。その後、心が気絶して仮死状態が長く続いたのち、自分がゾンビになっていることに気がついた。

気付いてすぐ「このままゾンビで生きるのは嫌だ」とあがき始めた。組織や社会資源を手当たり次第に頼り、現状から物理的に逃げた。

そして「早く人間になりたい」と呟いたとき、私に転機が訪れた。

たまたま温かい人が隣にいてくれ、気にかけてくれ、魔法のようなチャンスをくれたのだ。私はその人に導かれ、初めてこの世の蜜を吸わせてもらえるようになった。蜘蛛の糸を登りきったかのような世界に見えた。ゾンビの世界とは真逆の明るい場所だった。私は少しずつ夢見る少女の頃の、軽やかな気持ちを取り戻している。

ゾンビ時代を生きる

でも、まだれっきとしたゾンビである。ただし現在は、心の平和を追求するゾンビとして世界に認知され始めている。『ライフ　オブ　ザ　デッド　〜ゾンビのプリンセス〜』というハリウツド映画にも出演した。

『ライフ　オブ　ザ　デッド　〜ゾンビのプリンセス〜』
ゾンビのお姫様が恋をしたのは、なんと人間。彼女は人間の姿に身を包み、人間社会で生きることを計画する。ゾンビの暮らしとは？人間との恋の行方は？ゾンビと人間が織りなすピュアでホラーなラブストーリー。主演　ゾンビたまこ。 

〈ゾンビたまこさんからのコメント〉
息を潜めて３０年。ゾンビでいることを役立てる日が来るとは思いませんでした。この映画がたくさんの人の心に届くことを願っています。
ぜひ劇場でゾンビ達の暮らしを体験してみてください。ラブストーリーですが、人間とゾンビの『分断と共存』という重いテーマがコミカルに描かれています。赤ちゃんからお年寄りまで、人間もゾンビも関係なく、どなたにも楽しめる映画になっています。ぜひ見てね！ゾンビたまこでした！

嘘だよ。嘘ですよ。

信じるわけない？そう。あなたは素晴らしい。よく見抜きましたね。さすがです。でも悪い人の嘘はもっと巧妙だ。悪い人は大抵ズブズブに優しい。心を吸い取られそうな感覚があれば、油断してはいけない。

え？あなたは信じてくれたの？あなたはとても素晴らしい。戸惑いながらも信じようとしてくれるあなたは優しい人だ。優しいから悪い人の格好の餌食になる。安全な場所にいるべきだ。 そして、悪い人の心理を学び、身を守れ。

平和に暮らしたい

ゾンビのような人生を歩んでいる仲間たちよ。わかっていると思うけど、無理を承知で私は伝えたい。

逃げろ、離れろ、声を上げろ。
調べろ、頼れ、記録しろ。 

どれも無理だとしても、どうか自分だけは自分の味方でいてあげてほしい。

具体的に言うと、哀しみの元になりそうなものは、全て録音や録画しておいて。それだけでも幾分か冷静になれる。日記も書くといい。困っていることを細かく書き出しておけば、相談するときの大きな助けになる。全てスマホでできることだ。書いたものをPDF化したら、いざという時はコンビニプリントもできる。記録はすべてあなたの味方になる。味方を引き連れて行動すると、想像以上に心強い。

一人だけど、一人じゃなくなる。 あなたはスパイになり、自分を守る重要なミッションに就いたのだ。

大切にしてもらえない状態に、ずっと入り浸っていてはいけない。大切にできない場所に居続けてはいけない。ぞんざいな扱いは、放置すればどんどんエスカレートするだろう。なるべく早く、話して放して離すのだ。

優先すべきは、安心で安全な場所を見つけることだ。そのためには、社会や組織や制度を頼ること。個人差があるが大抵のばあい、多少の人間不信となっている。だからこそ、人に頼りきったり、任せることはしない方がいい。

頼られた人は、適切な制度や組織への誘導をして、絶対に一人で支えようとしないこと。あなたにできることは、話を聞くこと、心の整理を手伝う質問をすること、助けとなる情報を調べることだ。迷いの相談に乗ったとき、決断は必ず本人の意思とタイミングを待つこと。暗示をかけたり誘導したりしないこと。そして「あなたは悪くない」と言い続けること。生存確認の連絡を細く長く続けること。

逃げたあとの話 

私は、かなり無理をして逃げた。まともな精神状態なら絶対にしない飛躍的な考え方で、無理やり逃げ出した。だから逃げた先でも辛いことが多い。

『悲しくてやりきれない』をよく歌っているくらい、出口の見えない日々を過ごした。この歌をご存知だろうか。現代っ子には多部未華子氏が歌っている動画が可愛くてオススメだ。映画『あやしい彼女』の中で歌ったそうだ。元気になったら見たいと思い続け、まだ見られていない。

逃げる前も逃げてからも、社会や組織や病院にたくさん相談をした。相談先で優しくない対応をされることも多い。担当者の想像力の足りなさと、担当者自身の人生の我慢歴により、相談している時間が全て無意味に感じることもあるだろう。でも「辛い、脱出したい、助けてくれ」という気持ちだけは、どの担当者にもわかりやすくハッキリと伝えてほしい。

話すことが辛くて寝込んでしまったことも数知れない。同じことを繰り返し話して、余計に傷ついたこともある。だけどそれでも、今の方がうんとイイ。弱いことを自覚してこそ、見えるものがある。

私は今の自分が好きだ。ゾンビだけど、悪くない。元気になりたい、人間になりたいと思うけど、ゾンビの自分を愛している。子供の頃の思い出を細かく思い出して書き留めるようになったのも、私を育て直している途中だからだ。私は私の味方で、ゾンビの私を暖かく守り育てる母である。

これから先も、キラキラと眩しい人生に変わることなどないだろう。いいのだ。暮らすために必要なだけの淡い光で充分だ。平和な環境は何物にも変えがたい宝だと思う。

ゾンビの気付き

逃げてから、気がついた事がある。心がツラ過ぎたとき、本当に優しい味方の人を敵のように感じてしまっていたことだ。私の場合は、実母に強くそれが出た。私は一度母を敵とみなすと、人生の哀しみを全てを母のせいにした。

区別がつかなくなるのだ。この優しい人の正体は、味方か、敵か、好きに扱っていい奴隷か。そう、兄もきっとこの精神状態に陥っていた。あの時、ゾンビがゾンビを生んでしまったのだ。

この精神状態になったら、早めに病院やカウンセリングを受けるべきだ。自然に湧き出てしまう心は仕方がないかもしれないが、誰かに直接ぶつけるものではない。

私は母に気持ちをぶつけることはしなかったが、心の中では怒りに震えていたし、母の全てを否定していた。 

スパイになれ、自分を守れ 

社会はいま、変わろうとしている。
声を出した人から、助けを求めた人から少しずつ救われる。

我慢は相当なエネルギーだ。あなたは行動することと同じくらいのエネルギーを、普段から使っている。自分のペースで、まず自分の現状を書き出すところから始めてみて欲しい。

ゾンビのスパイ活動は世界のあちこちで始まっている。気がつかないだけで、水面下に仲間はたくさんいるのだ。

街を見回したとき、無気力に笑う人を見たことはないか。大袈裟に笑う人はいないか。

そのなかに、私のようなゾンビが潜んでいるのだ。リアルなゾンビ体験は、映画など見なくても、今日この後からすぐにでも体験できるのだ。

人間たちへ

人間たちよ。
消したはずの過去をみよ。踏み台にした相手の顔を覚えているか。
無意識に人を見下しているのは、自分だけが助かろうとしている印ではないか。

実はあなたもすでにゾンビではないか。

ようこそ仲間。ハッピーハロウィン。