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「短編小説」さよならの前の神様。

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ある日、神社の階段横で見つけられ、ばっちゃに拾われたキナコ。大事に育てられスクスク育っていたある日、お尻に小さな尻尾が生えてきた。それからのキナコの一生を全15話完結の物語。 … もっと読む
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「短編」さよならの前の神様。①

「短編」さよならの前の神様。①

「ばっちゃ。ばっちゃ。今日からウチ幼稚園児や」

「これ、キナコ、走ったら危なかよ」

「危なくなかもん。今日から大人やし、転んでも泣かんよ」

そう言うと、キナコは背中に手を伸ばしお婆ちゃんに問いかけた。

「なー。ばっちゃ。やっぱり尻尾は隠さんといかのかな?服の中に入れてるからモゾモゾして痒いんよ」

「キナコの尻尾は特別やから隠しとかんとお友達がびっくりしてしまうやろ?お友達がびっくりするの

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「短編」さよならの前の神様。②

「短編」さよならの前の神様。②

「ばっちゃ。ばっちゃ。今日からキナコは大人じゃね。」

鏡の前に立ち色んなポーズをとりながらばっちゃんにそう言っていた。

「キナコももう大きくなって、もうばっちゃはキナコをおんぶする事もできんくなったよ」

「じゃろ。ウチは毎日ばっちゃのご飯を食べよるけ、大きくなるとも走るとも早かとよ」

キナコはランドセルを背負ったまま円卓に着くとご飯を食べ始めた。

「ばっちゃ。今日のキュウリの漬物もうまか

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「短編」さよならの前の神様。③

「短編」さよならの前の神様。③

「ばっちゃ。小学校今日で終わりやな。大人になるって何か寂しいな」

「キナコ。手の平見せてみ」

「キナコの指は細くてまだ、ばっちゃんの方が大きかね」

ばっちゃんはキナコの手のひらに自分の手の平を重ねて続けた。

「大人になる時は手も大きくなるんよ。その手で川の水掬いあげたら、溢れてしまうじゃろ?」

「そうやな。裏山の川の水をウチは全部掬いあげれんわ」

「溢れる水は別れてしまう人達や」

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「短編」さよならの前の神様。④

「短編」さよならの前の神様。④

「あやのちゃん、あんな、ウチ謝らないといかんのよ」

「キナコちゃんどうしたん?私に謝るなんて珍しいよ?」

「前、あやのちゃんが優希くんを見るとドキドキするって言うてたやん。あの時、あやのちゃんの言いよる事分からんくて、何をいっとるんやろか?って思っとったけど、今よく分かるんよ。あの時は少しばかり馬鹿にしとったけど、ごめんね」

「キナコちゃん。ひどかね。あん時は私は優希君に本気やったとに。でも

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「短編」さよならの前の神様。⑤

「短編」さよならの前の神様。⑤

「あやのちゃん、ごめんちょっと待たせたかね?」

「いや、10分前に来たくらいよ」

「それにしても、キナコちゃんは私服も色っぽいんじゃね。これに好かれる白川先輩の羨ましい事よ」

「んな、事ないよ。ブスやもん」

「ブスやったら、胸元に花のシルバーアクセとかつけて来んよ」

「これは、ばっちゃから貰った大切なものやもけ、お守りで付けとるんよ」

「キナコちゃんとこのおばあちゃん本当にキナコちゃん

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「短編」さよならの前の神様。⑥

「短編」さよならの前の神様。⑥

「なー。ばっちゃ、最近ウチよう見る夢のあるんよ。」

「どんな夢かね?」

ばっちゃんは乾いた洗濯物を畳みながら答えた。

「ほらー、ばっちゃと時々行く神社のあるたい。あそこの神様の祭ってる横からずっと見てるんやけど、知らん人が私の前に来て話かけてくるんよ。でも、何て言うてるかはよくわからんのさ。」

「そっか。そっか。なら、今度は耳を澄ませて聞いてみたらよかたい。もしかしたら、キナコに何か相談し

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「短編」さよならの前の神様。⑦

「短編」さよならの前の神様。⑦

夢を見た。
何だか妙にリアルで体が動かない感じにヒンヤリと冷たいところに触れたそんな感じ。
また、誰かが私を覗き込んでくる。
そして話しかけて来る。

「今年もあと少し。クリスマスも過ぎてしまったけれど、もう3回あの人を振ってしまいました。決して嫌いなわけじゃないけれど、どうしても素直になれない私に嫌気をさします。少しだけでいいので、どうか彼を信じる力をください…」

ロングヘアの彼女は私にしか聞

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「短編」さよならの前の神様。⑧

「短編」さよならの前の神様。⑧

キナコは少しだけまた大きくなった。
でも、少しだけ切ない様な物足りない様なそんな日々を過ごしていた。

キナコはもう中学3年生である。

でも、少し寂しい。
学校についても淡々と授業に取り組むそんな5月だった。ゴールデンウィークが終わったから?違う。古典がどうしてもわからないから?違う。好きなお菓子が販売停止になったから?それも違う。

キナコはこの虚無感を実は知っていた。

「白川先輩今頃何しよ

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「短編」さよならの前の神様。⑨

「短編」さよならの前の神様。⑨

梅雨も過ぎ、中学生活最後の夏休み。

キナコは高校受験に向けて毎日勉強の毎日を過ごしていた。
下心が無いと言えば嘘になるが、白川先輩の通う高校に行くためだ。

白川先輩がいるからと言うのは嘘になるが、進学校である点と、家から近く早く帰ってばっちゃの手伝いをするためにキナコはその学校を選んだ。

「キナコそんな気張ってたら、頭から煙が吹いてヤカンみたいになってしまうぞ」

ばっちゃはお盆にキンキンに

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「短編」さよならの前の神様。⑩

「短編」さよならの前の神様。⑩

「んじゃ、行こうか。家の近くまで送って行くから心配しないでね」

白川先輩はそう言うとゆっくりと歩き出した。
時間はどれくらいだろう。20時は過ぎてるかな。

こんな時間に外を歩くのもドキドキしているのに前には白川先輩がいる。1年に1度のドキドキはこの日全てに集約されてるかもしれない。特別な時間。

キナコは白川先輩の一歩後ろを歩いた。
靴の音と下駄の音。トコトコとカタカタが時々交わる時度にドキド

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「短編」さよならの前の神様。11

「短編」さよならの前の神様。11

夢を見た。

あの時見た神社の景色。
境内側から見る鳥居。

小さな男の子が私の前に立ち止まって見ている。
手を合わせて、「お父さんとお母さんがいつまでも元気でありますように。いつまでもいつもみたいに仲良くいてくれますように」小さな手を合わせて私にお願い事をしていた。

そして、ソウタっと男の人の声が聞こえる。
聞いたことのある優しい声。

なーに。今キツネの神様にお願い事しているんだけど。っと返

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「短編」さよならの前の神様。12

「短編」さよならの前の神様。12

新しい一年を迎えた。

うちは特に親戚もおらず、ばっちゃが作ってくれたおせち料理を食べて、ばっちゃがお年玉をくれそのお年玉を持ってお守りを買うって言うのがいつものお正月。

そして、いつものように私はお年玉を持って神社に向かっていた。

畦道を通り、神社の階段下につく。
周りは家族連れやらはたまた私みたいに1人で来ていたり、カップルらしい人が神様にお願いをする目的を持って登っている。

キナコちゃ

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「短編」さよならの前の神様。13

「短編」さよならの前の神様。13

2月中旬。
明日は高校受験。自分なりにやる事はやったし、最後は神頼みだなっと神社にお参りに行った。

この日は珍しく晴れていて、天気予報では春日の気温だそうだ。

こんな日は服には困る。
キナコはロングTシャツとコートを羽織り家を出た。

畦道を歩き、階段を登り、神社の広場につく。
朝の神社は寒いけど、草木の匂いがとても好き。

手水舎で手を清めると山水の冷たさに目が覚める。

ジャリジャリっと踏

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「短編」さよならの前の神様。14

「短編」さよならの前の神様。14

キツネの嫁入り。
キナコは目を覚ますと神社へ向かった。
息を切らせながら階段を駆け登るとふーっと大きく息を整え境内を進んだ。

見ている光景は白のキツネの方。
キナコは恐る恐る近づいた。

自然と目があう白いキツネ。
キナコはキツネの左側にある桜の木を見た。
老木。どれくらいここにいるのだろうか。
桜の木にしては幹が太い。

桜の花びらは弾けそうなくらいの蕾や、少し開きかけているものもあり、平均し

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