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『死刑にいたる病』

MOVIX三郷で白石和彌監督最新作『死刑にいたる病』を見てきました。

『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』、『孤狼の血』など、数々の香ばしい日本映画を量産する白石和彌監督。今回はヤクザ・アウトロー抜きで見事にドス黒い現代日本映画を作り上げた!!

主人公の筧井雅也は三流大学の大学生で、ある日、かつて通っていたパン屋「ロシェル」の元店主で、連続殺人犯として東京拘置所に収監されている榛村大和から手紙を受ける。それは、榛村が立件されている9件の事件のうち1件のみ自分がやった事件ではない、というもの。雅也はその事件の真相を探る。

普通、残虐さやドス黒いサスペンス描くなら犯人である榛村視点や被害者視点で描くパターンが多いが、今回の作品は第三者である大学生の雅也が真相を探る。事件を調べるにあたって、榛村の弁護士の元に訪れ、そこの弁護士事務所のアルバイトとして、事件の関係者に接触を取り、調べていく。

とにかく、メインキャラの榛村大和と筧井雅也の人物像を見事に表している。一見、人当たりが良く、誰の懐にも入り込める「いい人」そうで、裏にとんでもない性癖と暴力性を秘め、さらには妙な計算高さと人物掌握術を持つサイコパスな榛村大和。そして、パッと見のルックスは悪くないが父親からの圧迫的な教育から引っ込み思案になり、大学内でも上手くコミュニケーションが取れない陰キャ気質な筧井雅也。

これらのキャラクターを巧みに使い、絶えず見せる「人とのつながり」と「選択」。パン屋「ロシェル」における店主・榛村大和と、その客であり、また被害者となってしまう中高生との関係もちょっとした「つながり」だし、そこからターゲットを定め、接触を持とうとする榛村のやり方も泥臭い「つながり」。その後榛村が少年・少女らに行う凶行も大半が陰湿で残虐。

『凶悪』や『日本で一番悪い奴ら』、『孤狼の血』においても各登場人物の精神性を描いてはいたが、『死刑にいたる病』はこの精神性が重要さを増す。それは榛村が雅也を手懐けるようなやり口がまさにそう。世間からは大したことがないFラン大学で、しかも他の生徒とコミュニケーションが取れず、孤独で鬱屈とした日々を送る雅也にとって、かつて世話になったパン屋の店主の冤罪を晴らそうとクライマーズハイならぬディクテイターハイになる雅也。

かたや榛村は、一見小綺麗そうなおじさんながらも、ネクタイの付け方が変だったり、雨上がり決死隊の蛍原徹みたいな髪型もちょっと変だったり、裁判での弁論もまともそうでとんでもなくヤバいことをサラッと述べたり。拘置所の面会室からの雅也との会話はまるで『羊たちの沈黙』のレクター博士みたいだし、ヤバい目つきは『ジョーカー』のアーサー(=ジョーカー)のようでもある見事なサイコパス。

他にも意外な形で絡む雅也の母・衿子。これを中山美穂が演じるんだけど、老けながらもやっぱり綺麗な美熟女。それと微妙にカワイイ子である加納灯里、明らかに怪しさ満点な金山一輝などもこの異質なサスペンスとなる要素の一端を担っている。

『凶悪』とはまた違った角度からの人間の残虐さ、陰湿さ、二面性とギスギス、鬱屈した現代日本を見事に描いている。

執拗、執念、コンプレックス、陰湿、泥臭さ、ドロドロ。そんな“陰”“しつ”に包まれた現代日本映画である。

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