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📖夏目漱石『夢十夜』第五夜

第五夜は悲恋の物語である。

神代の戦争にて、〈語り手〉の男は敵将に捕らわれてしまう。命わずか、という状況だ。こうなると、想っている女の顔を一目見たい。そう思うのが人情である。敵の目をかいくぐり、想い人との逢瀬を果たす。機会は鶏鳴けいめいの一度のみ。鳴き声を合図に女と逢うと誓うのだが、男はしてやられた。天探女あまのじゃくが偽の鳴き声を発したのだ。罠だった。男はついぞ女に逢うことはなく、夢は終わる。

突然の天探女

あらすじはおおむね上の通りだろう。気になるのは天探女あまのじゃくである。突然出てきて、男の恋路を邪魔する。実に不気味だ。靴に入りこんだ小石のように、物語の調和を乱しているようにも感じられる。悲恋の物語と言いつつも、全くドラマチックではない。呆気ない幕切れは、読者を不安へと誘う。

ただ一つ気になるのは、天邪鬼あまのじゃくではなく、天探女あまのじゃくであることだ。いわゆる天邪鬼とは漢字が異なる。天探女の場合、普通はアマノサグメと読むところだろう。つまり、天探女は天邪鬼ではない。舞台設定も神代の戦争となっていることから、天探女はアマノサグメだと考えた方が良さそうだ。

とは言いつつも、私は日本神話に明るいわけではない。これ以上のことは書けなさそうなので、ここで筆をおくことにする。

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