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そういえば、ADHD に悩む女の子の為に時間記録アプリ『TIME REC.』を開発したのだった…その思い出|歌謡曲にヘッドバンキングするピアスの女の子

月イチで新たな Flutter アプリをプログラミングするチャレンジの第六弾で、先月末、時間記録アプリ『TIME REC.』の iOS 版をリリースした。

TIME REC.』アプリは(+)ボタンをワンタップするだけで、その瞬間のタイムスタンプが記録されるという、シンプル極まりない仕様なのだが、そもそも Android 版で何故こんなに簡素な仕様にしたのかを、すっかり忘れていた。

最近、どうも ADHD を取り上げた映画などメディアが多い印象だが、それらを観ていたら、自分も過去に関わりがあったことを思い出した。


歌謡曲にヘッドバンキングするピアスの女の子

落ち着いた雰囲気の、老中年が通うスナック…そこに、黒い長髪で、耳にも鼻にも口にもヘソにもピアスをして、ミニワンピースで、客のカラオケ(歌謡曲)に合わせて何故かヘッドバンキングしまくる女の子が居た。当時、二十三くらいの年齢だったと思う。

私は、スナックやキャバクラの類は得るものが無い(経験上)ので嫌いなのだが、この女の子が面白くて、初めて常連客として通うようになった。

酒があまり得意ではないし、口達者でもないから、自分にできる盛り上げ方をするのだと、客がカラオケをするときは、必ず、ヘッドバンキングしまくる彼女。こんな女の子は、この店でも、この界隈でも初めてで、結構、名物になっていた。

面白いというのもあったが、自分にできることを一生懸命やる、という精神に惹かれたし憧れた。社会人を長くやっていくと、若い頃の熱を忘れて、惰性である程度の成果が出てしまう。彼女に対して何も出来ないが、少しでも応援になるようにスナックに通い続けた。

ADHD の多動に悩む日々

ある日の休日、偶然、彼女に街中でばったり会った。特徴的なピアスを特徴的な数しているのですぐに彼女だと分かった。体も細くて気になるくらい華奢だ。目があって、向こうもこちらに気がついて、会釈だけして立ち去ろうとしたが、声を掛けられたので少しだけカフェに付き合った。

私は酔っても自分語りをしないし、彼女とも話をしないので、何しにスナックに来ているのか疑問と興味があったらしい。スナックの類が好きではないのと、彼女がヘッドバンキングしている姿を見ていると元気になると少しだけ伝えた。

遠回しに褒めたつもりだったが、彼女の表情がなくなった(ヘッダー画像は結構、彼女に似ている)。

彼女は、ADHD で多動に悩まされていると話し始めた。本当は、じっと座って接客ができないのだと。

”普通”の仕事

彼女は昼の仕事もやっていて、それは普通の事務職なのだが、じっと座っていられないので、頻繁に席を立つことを上司から怒られているという。彼女は昼の仕事にもスナックにも ADHD を打ち明けていない。これは当事者にしか分からない感情なのだと思うが(私には分からなかった)、ADHD という障害で仕事ができないことを正当化したくないと口にする。悔しいと。

スナックでのヘッドバンキングは、多動を隠すために最適な方法を見つけたと誇らしげだった。だが、昼の仕事では、例えば、お金を数えられない。お札を一枚、二枚、三枚、と数えていくと、最終的に、何枚か分からなくなる。適当に金額を記入して提出すると間違っているので上司に凄く怒鳴られる。でも、出来ないから、そうするしかない。

ADHD には向いていない仕事があるのではないかと無責任に私は思ったが、彼女は、どれだけ怒鳴られても、解雇されるまで続けると語った。少なくとも、同じ給料をもらっている内は、自分は”普通だから”だと語った。

当事者の試行錯誤

私はアプリ屋なので、少しでも助けになるアプリは世の中に無いのだろうかと、彼女に尋ねてみた。例えば、リマインダーのようなアラームは使う、予定を忘れてしまうから。でも、細かくは設定できない。計画を立てている今にも忘れてしまうし、頭が混乱してくるから。

私は迂闊な提案が出来なかった。ADHD の苦しさが分からないし、何も知らないからだ。ADHD 当事者の、生活の試行錯誤は大変なものなんだろう。想像もできない。無力感。その中で、彼女はぽろっと口にした。

時間の記録ができるだけでもいいんだけど…

これが、ADHD にどういう効力に繋がるのか私には分からなかったが、何かを思いついたときに、何かをしたときに、時間だけでも記録できると、そのときに何かがあったな、ということを思い出せるキッカケにはなるらしい。

メモ帳ではダメなのか、と問うと、メモ帳はメモが主体なので、時間を記録することとメモを記録することが、時間で整理できないから混乱する、と彼女は答えた。

じゃあ、その瞬間に、ボタンをタップするだけで、時間が記録されるアプリを作ってみようか。

「幸せな技術」

仕事の合間に、少しずつ考えて、彼女が混乱しないように、極力ミニマムな仕様でアプリを開発した。スナックでは殆ど話をしなかったが、少しずつ出来上がるアプリを見てもらって、早々にアプリを渡して彼女に使ってもらった。

時間だけが記録された、メモの無い一覧が並んでいる記録を見せてもらった。私には分からなかったが、彼女は満足げだった。充分に役に立っているらしい。

たまに「猫をなでた」「妹を蹴った」という、謎の記録があって、少し笑った。「妹のプレゼントを切り裂いた」は、怖くて何があったのかを聞けなかった。その日付はクリスマスだ。

この後すぐに、コロナ禍が横浜港から始まって、彼女のお店も閉じられて、疎遠になってしまった。今はもう消息も分からない。

彼女のことは忘れてしまっていたが、彼女が当時、伝えてくれた言葉だけが頭から離れなくて、今でも忘れられなかった。そうだ、これは彼女の言葉だった。

幸せな技術ですね、アプリを作るって





TIME REC.

「その時」に、ボタンをワンクリックするだけで、現在日時のタイムスタンプを記録できます。


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