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卒業までの数か月

長い髪がタイプなのだと噂で聞いた
その日から私は髪を伸ばし始めた

部活を引退して本格的に受験シーズンになり
でも私は専門学校志望だからあまり関係は無くて

みんなが忙しくなって恋の話をしなくなった時期に
逆に私は恋をしたんだ

卒業までの半年間
告白どころか話す事も距離を詰める事も出来ず
たまに廊下ですれ違っては
胸のドキドキを悟られないようにと
自分らしくも無い、下を向いて幽霊になる

髪はずっと、物心ついた頃から短くて
男の子のようだと言われながらも
ボーイッシュな自分が好きで
髪を伸ばそうなんて考えた事も無かった

しばらくしてようやく髪が結べるくらいになり
小さなお団子を作ったりして
毎日髪型を変える楽しさと
お風呂上りのめんどくささを初めて知った

友達から化粧を教わり女の子らしい服を着る
スポーツ一筋だった私は
高校生のうちに子どものうちにと
少しずつ大人への準備を始めた

卒業まで3ヶ月を切り
あんなに早く大人になりたいと思っていたのに
この学校での今の時間が名残惜しくて
ずっと続けばいいのにと寂しくなって

すでに進路が決まった友達は
上京だの一人暮らしだのバイトだのの未来を語り
もう遠い存在のような気もし始めて来て
この一年間使っていた机にすがりつく私がいる

恋の話に相変わらず進展は無く
卒業をすれば他の友達と同じようにその人も
当たり前のようにもう会えなくなるんだろう

でもこの前廊下ですれ違った時
ほんの一瞬目を合わせてみた
ちらりと、目が合って、また目を逸らした
それだけの事だけれど

友人と一緒にいたその人の声が
通り過ぎた後でこう話すのが聴こえて来た

「あんな女子いたっけ?」

私の事を見てくれて認知してくれた
それだけで嬉しくなる私はまだまだ子供で

背伸びした大人、と言う中途半端な時期を
今しばらく噛み締めていたいと思う

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