あさぎ とち
主に'19年3月までに書いた詩をまとめたものです
入院中に感じたこと
エッセイ、随筆など。その時の思いのままに。
再び詩が書けるようになってから書いた短詩をまとめたものです
再び詩が書けるようになってから書いた長詩をまとめたものです
光を見ることは 泣くべきことだった 光が明るいことに気づいたのではなく 闇が暗いことに気づいたからだった 光を灯せ灯せという大人たちは実は 闇の存在を教えていた 光…
純白さが 病院の廊下を どこまでも追いかけてくる 私を外へ押し出す 時間が確認されたがっている 私は彼をそっとそのまま 地面に広げ敷いておく すると絹のように一瞬ふ…
みずうみのほとりに病院があって みずぎわに少女が立っていて 少女なのに 病院に入っていて ぼんやりと きらきらするみずうみを眺め そっと寄せて返す小波は 自分が自…
私が生きようとしないから 桜が咲く 桜の樹が生きる 桜の枝が生き切る 花が咲く 花が散る そして 桜は消える 命は終わる わたしはよそ見をし、振り返る 香りが…
この度、『詩と思想』現代詩の新鋭に選ばれました。大変有難うございました。エッセイ、柴田三吉さんの紹介文、新作詩「めばえ」が掲載されています。詳しくは4月号をご覧…
昨年末にお誘いを受け、この1月に日本詩人クラブに入会させて頂きました。同時に、昨年12月に発行された『詩界論叢 2023 創刊号』が送られてきました。 5章に分けられてお…
国常立大神の御神体に傷をつけることによって 作り出された芸術物 それに高値をつける人びと かれらは知らないのだ 国常立大神の御神体に傷をつけたということを …
予兆は まったくなかった その日の夜も 食事前いつものように 若い連中とバカ話をしていた 関西出身 贔屓のベースボール・チームは勿論 日本一を決める試合が もうす…
北へ渡る白鳥が 今年も確かなまなこで 湖に帰ってくる そのさすらいは 一点を向き 命を美しく保ち 心を光らす 冬に想像される美しさは 雪をかぶった山の頂 きびし…
雪のない冬は いっそう寒く 雪につつまれると 身は暖かくなり マイナス10℃をこえ ダイヤモンドダストが光に舞いはじめると よけい心を温もらせる ふしぎな 北の空…
(すき間が生まれぬように細心の注意を払う)ガラガラガラ。古い玄関の引き戸が開き、閉まる。茶の間から玄関までは見通せるが、少し離れている。これが子と母の距離。 昔…
こんにちは。今回は宮沢賢治についてのお話です。先日詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』を上梓させて頂いたのですが、読者の方から…
今日は非常に他愛もない話なのですが、文学つながりで、してもいいかな、と思ったので書きます。 上に2つの画像をアップしました。1つは、夏目漱石の小説『坊っ…
武田いずみさん「嵐の朝に」 朝顔の種と、息子さんのお友達を重ね合わせます。 <種子はどれくらいの期間をおくと/芽を出す力を失うのか/理科で習わなかった真実を庭に…
その人はしゃべり続けた 私は話すことができなかった その人が話し終えた後 三秒間の沈黙の声を聞いてしまったので 声ではない 身振りではない その人が聞こえ過ぎてし…
2023年10月19日 16:16
2024年5月17日 16:14
光を見ることは泣くべきことだった光が明るいことに気づいたのではなく闇が暗いことに気づいたからだった光を灯せ灯せという大人たちは実は闇の存在を教えていた光は消すことができるが闇は消しにくかった光、と口にするたびに闇が生まれた光を追うには 途中までは先人に倣えば良かったしかし 途中からは追うと次々に闇が生まれた光に似た闇が 笑顔に似た泣き顔がそして 光の通路だと思
2024年5月7日 15:34
純白さが 病院の廊下をどこまでも追いかけてくる私を外へ押し出す時間が確認されたがっている私は彼をそっとそのまま地面に広げ敷いておくすると絹のように一瞬ふわりと浮く素知らぬふりで その上を通り散歩に出るここまで許されたのは病の偶然のせいか 心の脆さのせいかその時 一陣の風が吹き起こる後ろで焦って時間が小さく自己主張する澄んだ風は もはや聞いていない私は少し聞いてあげる
2024年4月21日 13:53
みずうみのほとりに病院があってみずぎわに少女が立っていて少女なのに 病院に入っていてぼんやりと きらきらするみずうみを眺めそっと寄せて返す小波は自分が自分がと 少女を責め立てることもなくまわりを取り囲むこともないので波の声は大きな空と溶け合い彼女は理由を聞かれることがないからいつまでも長い髪がそよ風になびいて瞳はターコイズブルーの水面を映す沈黙のうちに 来た場所を
2024年4月10日 17:45
私が生きようとしないから桜が咲く 桜の樹が生きる桜の枝が生き切る 花が咲く花が散る そして 桜は消える命は終わる わたしはよそ見をし、振り返る 香りが残る余韻が残る 枝が残る幹が残る 地面が残る時間が残る 私の器官が残る 私はただ生きようとする 誓うように咲くことはどうでもよくなって 花のように(詩誌『everclear』第9号 収録
2024年4月2日 15:49
この度、『詩と思想』現代詩の新鋭に選ばれました。大変有難うございました。エッセイ、柴田三吉さんの紹介文、新作詩「めばえ」が掲載されています。詳しくは4月号をご覧ください。おそらく昨年発行した第一詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』が、選考基準に達したからであると思われます。清岳こうさんは巻頭エッセイで、次のように述べています。第一詩集では、病と向き合い七
2024年3月20日 16:31
昨年末にお誘いを受け、この1月に日本詩人クラブに入会させて頂きました。同時に、昨年12月に発行された『詩界論叢 2023 創刊号』が送られてきました。5章に分けられており、Ⅰ 詩人論・詩作品論…すでに亡くなられている詩人について。Ⅱ 詩人論・詩作品論…現役詩人について。Ⅲ 世界・文化・文芸Ⅳ 人の世・社会・詩作Ⅴ 詩に向き合うこと―詩の心という内容です。参加した執筆者1
2024年3月13日 08:29
国常立大神の御神体に傷をつけることによって作り出された芸術物 それに高値をつける人びと かれらは知らないのだ 国常立大神の御神体に傷をつけたということを だからこそ その価値と罪科を本能で察知したということを
2024年2月28日 13:46
予兆は まったくなかったその日の夜も 食事前いつものように若い連中とバカ話をしていた関西出身 贔屓のベースボール・チームは勿論日本一を決める試合が もうすぐ始まる配膳ワゴンから自分の盆を取り 部屋に戻るそれが とうさんの姿を見た最後とうさん、とある五十代の女性患者は呼んだ彼女は 年齢がずっと上の白髪のひとは皆 とうさん、かあさん、と呼ぶもちろん年下の◯◯くん、◯◯ちゃんもい
2024年2月20日 14:10
北へ渡る白鳥が 今年も確かなまなこで 湖に帰ってくるそのさすらいは 一点を向き 命を美しく保ち 心を光らす冬に想像される美しさは雪をかぶった山の頂きびしく凍る水面霜が溶け始めた朝の微光白鳥の佇まい 飛び立つ後姿ヒトの心は相変わらずさすらおうかどうしようか迷っているもうさすらっているのに(詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』 所収)
2024年2月9日 14:26
雪のない冬は いっそう寒く雪につつまれると 身は暖かくなりマイナス10℃をこえダイヤモンドダストが光に舞いはじめるとよけい心を温もらせるふしぎな 北の空よ
2024年2月3日 09:13
(すき間が生まれぬように細心の注意を払う)ガラガラガラ。古い玄関の引き戸が開き、閉まる。茶の間から玄関までは見通せるが、少し離れている。これが子と母の距離。昔。義母への恐怖が、家業の忙しさが、ベーチェット病という難病が、あるいは本人の無自覚が――。阻まれた母性があった。年をとったので気をつけながら、ゆっくり車で走ってくる。ドゥルルル、ドゥルルル。やがて遅いエンジン音が止まる。ガラガラガラ。
2024年1月29日 06:39
こんにちは。今回は宮沢賢治についてのお話です。先日詩集『水は器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』を上梓させて頂いたのですが、読者の方から宮沢賢治の世界観に似ていますね、と感想を頂きました。実は私はそれまで学校の国語の時間以外では宮沢賢治をほとんど読んでいませんでした。詩についての抒情性は八木重吉などを参考にしていました。しかし今回新潮社の日本詩人全集第20巻『宮沢賢治』を読
2024年1月21日 20:38
今日は非常に他愛もない話なのですが、文学つながりで、してもいいかな、と思ったので書きます。 上に2つの画像をアップしました。1つは、夏目漱石の小説『坊っちゃん』。もう1つは年末年始の病院での献立表です。まず献立の話をしますと、病院にいるので、もちろんいつもは質素なメニューなのですが、季節の行事ごとに嬉しい食事を出してくれます。年末年始ともなると、ご覧のように毎日毎食が楽しみなメニューとな
2024年1月11日 14:41
武田いずみさん「嵐の朝に」 朝顔の種と、息子さんのお友達を重ね合わせます。 <種子はどれくらいの期間をおくと/芽を出す力を失うのか/理科で習わなかった真実を庭に撒く>。この<真実を庭に撒く>という表現。思わず唸ってしまいました。朝顔は、やがて芽を出します。<何日目かに ふた葉/おはよう 待ってたよ>。 子どもの現在進行形を一字下げて描写し、重ねます。<あいつ 学校に来た ひさびさ/保健室だっ
2023年12月29日 15:29
その人はしゃべり続けた私は話すことができなかったその人が話し終えた後三秒間の沈黙の声を聞いてしまったので声ではない 身振りではないその人が聞こえ過ぎてしまったありとあらゆる話をしたそのあとで私が出そうとした声はその沈黙の音だったその人の声だったゆえに私は何も話すことができなくなったその人も恐らく そのことを知っていたのでなにも私に言わなかったただ 両者は同じ愛と