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ソフィア・コッポラ「マリー・アントワネット」(2006)

久しぶりにファッション絡みの話題を。

もう16年の前の映画かと思うと、ひどく昔のような気がするけれど、そんなことを感じさせない、ソフィアらしさをたっぷりと楽しめる作品だった - マリー・アントワネット。

ソフィア・コッポラの最も知られた肩書きは映画監督だが、ファッション界ではスタイル・アイコンとしての顔を持っており、ラグジュラリーブランドとのコラボも行っていて界隈ではよく知られた著名人である。私も彼女のスタイルがとても好きなのだが、この映画で描かれるファッションやテイストは私には ”日本的なコミックおたく” すぎて、公開当時はどうも食指が動かず、スルーした過去があった。

けれど先日、銀座メゾンエルメスで上映されていることを知ってなぜか今回は俄然観に行きたい気分になり、運良く鑑賞させていただいた - 年月を経て気分や趣向が変わることはままあるものだ。

久しぶりにソフィアの世界観にどっぷり浸かり、観賞後はソフィアの軽やかさを感じて、読書で言えば “読後感” よく家路に就いたのだった。

作中では、マリー・アントワネットを演じるキルスティン・ダンストがこれでもかというくらいに "かわいい"。それは "きれい" というよりコケティッシュでガーリーな "かわいさ" で、妖精のような軽やかな演技がまずソフィアの世界観を体現しているものの一つ。そして、そのマリー・アントワネットの頬骨の一番高いところに乗せられた濃すぎるほどのピンクのチーク、パステル調のドレス、日本の少女漫画に出てくるような “甘く” "かわいい" テイストのケーキやマカロン、シューズやアクセサリーの数々。これらが80年代のヒットチューンに乗せて次々とコミカルに時にパンキッシュに、特に前半のマリー・アントワネットがフランスに嫁いでまもなくの若い時代に、軽いタッチで場面場面に差し込まれる。

ソフィアは日本のポップカルチャーの要素を、このマリー・アントワネットの世界観を醸成するのに取り入れていて、パステルカラーが主体の、ひどく少女的な儚さが、マリー・アントワネットの生涯をうまく表現するのに役立っていた。

私が好きなのは、ソフィアは軽いタッチで軽やかに楽しげに - それは深刻な場面においても同様に - 淡々と描くことで、観るものの想像力を掻き立て、本題として描かれる重い主題をメタファーとして炙り出し、それによって最後には一抹の寂寥感を感じさせる…という手法なのだが、これをこの映画でも存分に用い、そしてキルスティンのビジュアルと演技も輪をかけてこの手法を演出するのに役立っていて、絵も、ストーリーのテンポも、淡々とした展開も、それぞれが上手く調和してソフィアの世界観を饒舌に作り上げていた。作中でマリー・アントワネットがケーキやマカロンを食べた後に、自分の指をゆっくりと、味わうように舐めるシーンが度々登場する。印象的なこの動作も、彼女がいずれ悲壮な結末を辿る、その儚さと物悲しさを時差で対比し強調しているようにも思える。

少々小難しく書いてしまったけれど、ソフィアの描くものはいつもいい意味で軽く脱力していて、何か重い主題にさえ、さらりとアンニュイな趣を乗せる。そこには時に滑稽ささえある。そしてこの映画には、ファッションがポップカルチャーの要素を持って効果的に差し込まれていて享楽的に楽しい。ご存じの通りマリー・アントワネットは最期にはギロチンで処刑されてしまうが、そんな光景はこの映画では描かれない。表面上は軽やかで、画面の上で "堕とす" ようなことはしない。そこがまたソフィアらしい(マリー・アントワネットは歴史上の人物だけれど、本作では史実を忠実に描くということに主眼を置いていない)。

ソフィアのこの作風は、同世代の監督のウェス・アンダーソンを少し思い出させる - と思うのは私だけだろうか。

…とにかく、私はそんなソフィアの世界観を存分に感じて、ああ楽しかった…と思わずにはいられなかった。

余談だが、この映画は英語で制作されており、かつアメリカ制作でソフィアもアメリカ人だけれど、作中ではイギリス英語で話されている。

ちょっとスノッブなイギリス英語と、キャッチーでポップなガーリーファッション、ソフィア・コッポラの作り出す軽やかでどこか儚い世界観を楽しみたい方にはお勧めの映画である。

Marie-Antoiette Trailer

注: 見出し画像は、銀座メゾンエルメス・ル  ステュディオでいただいた映画「マリー・アントワネット」の冊子を撮ったものです。

GINZA MAISON HERMÈS
https://www.hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/

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