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【不老】 統失2級男が書いた超ショート小説

張本貞治は製薬会社に務めるサラリーマン研究者だったが、52歳の時に偉大なる発明を成し遂げ、会社から報奨金2000億円を受け取っていた。張本の偉大なる発明とは1週間に1錠飲むだけで、一切年を取らずに済むという加齢停止薬の事だ。この薬のお陰で若者はずっと若者のままで居られる様になり、年寄りは将来、若返り薬が発明されるのを待ちながら、それ以上は年を取らない年寄りのままで過ごす事が可能となった。人類が年を取らなくなると当然、死ぬ人間は激減し人口は激増する。その為、各国政府は加齢停止薬の服用を希望する者たちへ、避妊手術を実施する事となった。また全ての子供たちにも、8歳になると避妊手術を強制した。その子供たちの中から将来、子を持ちたいと希望する者が現れて来た場合は、手術で生殖能力を復元してやり、その者たちは代償として生涯に渡り加齢停止薬の服用は禁止された。そして張本の発明はペットの世界にも光をもたらす事となった。それまで保健所に送られるペットは多頭出産の幼体から老体まで様々であったが、成体や老体のペットには引き取り手が少ない一方で、幼体のペットには引き取り手も多く人々も甲斐甲斐しく世話をする。多くのペットユーザーはペットが幼体の内から加齢停止薬を使用する様になっていたので、結果として保健所に送られる成体や老体のペットは減少し殺処分されるペットも激減した。また、成長しないヒヨコは世界中で人気のペットとなった。

張本は2000億円の報奨金を受け取った後は会社を辞め、中規模な製薬会社を買収しオーナー研究者となって若返り薬の研究を開始した。ずっと中年のままよりはずっと若者のままが良い。50代の経験値のまま20代まで若返れば最強である。張本は寝る間も惜しんで新たなる研究に没頭した。だがこの研究は費用が嵩んで行く一方で思った様な成果は生み出せなかった。そうこうしている内に張本の製薬会社は経営破綻し、張本は自己破産に追い込まれてしまう。張本の元には大手の製薬会社や有名な大学から多くのスカウトがあったが、燃え尽き症候群に陥った張本は全ての誘いを断り、生活保護を受給する様になった。しかし人類を老化の宿命から解放した張本を批判したり蔑む者は1人も居なかった。そんな張本は184歳の冬に海難事故で動乱の生涯を閉じる事となってしまう。ドミニカ共和国の研究者ドミンゴ・ガルベスが若返り薬を発明したのは、張本の死から4ヶ月後の事でした。

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