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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』

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デリヘルで働きながら、自分の夢を叶えようと奮闘しながら、恋愛を交えた一人の少女の日常を描いた作品です。この作品はぼくにとって、初の長編小説で、デリヘルで働くとある女性に実際に取材… もっと読む
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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』が、正式にKindleで電子書籍として出版されることが決定致しました!!!

嬉しい(#^.^#)!!! とりあえず価格は¥300で発売してますが、初回の登録であれば、30日間無料体験で読み放題なので、もしよければ皆さんも、ぼくの処女作であり、代表作であり、自信作の『蝶々と灰色のやらかい悪魔』を、ご一読してみてください。 (Kindleの読み放題プランに入っている人は、どの作品でも無料で読めると思います) ブログ内では横書きの文章でしか作品を読むことは出来ませんが、Kindleで読むと縦読みで作品を読めるので、また違った雰囲気を味わえると思います

ぼくの処女作でもある『蝶々と灰色のやらかい悪魔』を、本日、Kindleで電子書籍として出版することになりました!!

と言っても、まだ審査中なので、審査を通れば、電子書籍としてAmazon(Kindle)で販売されることになると思います。 まあ、出版するといっても、出版社を通して販売するわけではないので、完全に自費出版になりますが、自分で書き上げた『蝶々と灰色のやらかい悪魔』が、念願の縦読み形式の書籍になるのかと思うと、自費出版とはいえ、感慨深いものがあります。 やっぱ小説は縦読みに限ります!!! 横書きの文章だと、なんというか、とても味気なくて、小説という感覚が薄まってしまうんですよ

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 44(最終回)

 お目当てのゴミ箱も手に入れ、腹ごしらえも済ませたので、夕方からの出勤に備え、早めに帰宅しようと、ショッピングモールの外に出ると、雷鳴とともに土砂降りの雨が降っていた。遠くは晴れているのに、なぜかわたしの頭上だけ、雨雲がかかっており、降水量一〇〇ミリを優に超えるゲリラ豪雨が、ショッピングモール前の地面を叩きつけていた。  どうせ通り雨だろうと高を括り、しばらく店内で雨宿りをしていたのだが、待てど暮らせど雨が止む気配はなく、それどころか雨足は強くなる一方だった。自転車で来てい

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 43

 父にデリヘルで働いていることを打ち明けてからしばらくして、ふと部屋に置くためのゴミ箱を買いに行くことを思い立った。  ゴミ箱などどこにでも売っているのだろうが、行った先で売っていなっかったときの絶望感を考えると、多少、遠かろうと確実に置いてあるニトリに行くほうが、よほど合理的な気がして、出不精なわたしにしては珍しく、東区にあるゆめタウンまで足を伸ばすことにした。  言うまでもないかもしれないが、お目当てのゴミ箱はすぐに見つかり、クリーム色のオシャレなやつをゲットした。

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 42

「どうした? 芳枝から電話してくるなんて、珍しいやないや……」  生休で帰って以来、ほんの数日会ってないだけなのに、父の声がえらく懐かしく感じられた。 「あ、あのね……」 「な、なんや。急に畏まって……」  わたしの緊張感が伝わったのか、いつもと違う娘の様子につられ、父が電話の向こうで、戸惑っているのが、こちらまで伝わってきた。 「わ、わたしね……」  父が無言のまま頷いているのが、見えなくてもなんとなく伝わった。それは、なかなか本題を切り出さないわたしの次の言葉

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 41

 仮病に信憑性を持たせるため、数日多くズル休みをさせてもらった。もちろん体調は問題ないし、遊びに行くことだってできたけど、初めてズル休みをした罪悪感から、外に遊びに行くほどの気持ちにはなれなかった。  店長にはただの風邪だと嘘をついおいたけれど、勘のいい店長なら、とっくにこれくらいの嘘なら見抜いてて、もしかすると、言わないでおいてくれてるだけなのかもしれない。 「ところで大丈夫なの? 風邪は?」 「あ……、ぁ。はい……」  ぎこちなくわたしが、そう答える。 「なんか

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 40

 帰り道、自宅近くまで、マサキさんに送ってもらった。  すぐ近くにパチンコ屋があり、それが目印だと言うと、すぐに分かったらしく、「ああ、あそこか」と、迷うことなく目的地まで送ってもらえた。  別れ際の車内、思い切ってわたしからLINEの交換を申し出てた。まさか、わたしから、そのような申し出があるとは思っていなかったらしく、いつもクールな印象のマサキさんが、「え? てか、逆にイイの?」と、かなり本気でとり乱す。 「いや、ダメなのは、ダメなんですけど……」  そう前置きし

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 39

 駐車場に戻ると、昼間いたチンピラたちは、とっくに居なくなっており、ガランとしたスペースに、わたしたちの車だけが駐まっていた。自動販売機の明かりだけが、ポツンと駐車場を照らしており、さながら海に浮かんでいるようにも見える。  少し安心しつつ、「ああ、よかった……」とほっと胸を撫で下ろすわたしに、「ああ、昼間のチンピラ?」と、察しのいいマサキさんが、それとなく尋ねる。 「ああ、分かります?」  彼の気遣いに感心しつつ、上目遣いで尋ねると、「見てれば、大体ね……」と、彼が澄

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 38

「その曲って、フランク・チャーチルの『Some Day My Prince Will Come』だよね?」  たった今、サックス演奏を終えたばかりの少女に、まるで親戚の子どもにでも、話しかけるような口調で、マサキさんが尋ねる。 「え? あ、はい。そ、そうですけど……」  急に知らない人に声をかけられ、少女が反射的に身構える。 「いやいや、べつにぼくらは、怪しい者ではなくて……」  その台詞がすでに怪しいのだが、マサキさんは、そう先回りしつつ、 「ほら、ちょっと二人

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 37

 ワンピースの裾から飛び出した素足を、波打ち際の海面に足先だけつける。思ったよりも海水は温かく、秋口の潮風で冷たくなった足を、ほんのりと温めてくれる。 「意外と、温ったかいですよ!」  その光景を後ろで見守る彼に、ふり返りながら伝える。 「へー、そうなんだ……」  そう言って、徐に革靴を脱ぎ始めた彼が、ズボンの裾をたくし上げる。さざ波の打ち寄せる砂浜に、彼が片足をつけると、その部分だけが彼の重みで沈み込み、遠浅の砂浜に、くっきりと彼の足跡だけが刻まれる。粒子の細かい砂

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 36

 自販機と公衆トイレのある、海辺の小さな駐車場の脇に、マサキさんが車を停める。すでに数台の車が停まっており、柄の悪いヤン車の前に屯した数名のチンピラが、何やら大声で話し込んでいるのが見える。 「あ〜! なんで出来ひんのや! あんましょーんないことばっかゆーとったら、ほんまいてこますぞ! おのれわぁー!」  そのうちのリーダー格であろう、五十代ぐらいの男性が、ジャージのポケットに手を突っ込んだまま、携帯片手に、電話の相手を威嚇するように叫び声を上げている。 「ちょっ……、

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 35

「いったい、これからどこに行くんですか?」  気になってそう訊くと、「ナイショ……♡」と、マサキさんは意味深な笑みを浮かべるだけで、何も答えてはくれなかった。  窓の外を流れる景色が、混雑した片側三車線の国道沿いから、次第に緑溢れる山間の景色へと変わっていく。  窓を開ければ、前方から流れ込んでくる風に乗って、どこか懐かしさをも感じさせる、爽やかな草いきれが、車内に入り込んでくる。 「田舎のラブホテルって、なんであんな風に、お城みたいなのが多いんですかね?」  前方

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 34

「あんたが急にNG出すなんて、垢舐めちゃんと、一体なんかあったわけ?」  深夜、本日の勤務を終え、タイムカードを押そうと、同じマンションの別の階にある事務所に寄ると、ちょうどパソコンの前で、女の子の出勤状況を更新していたらしい店長が、帰ろうとするわたしに引き止め、そう訊いてくる。  とつぜん話しかけられ、「へ?」と、振り返ると、心配してくれているのか、ただの興味本位なのか、さっきまでパソコンの画面に向けていた顔を、こちらに向け、悪い女の顔をしていた。 「あー、えーと。ま

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 33

 この仕事に就いて、初めてズル休みというものをした。夕方、店長に電話をすると、「あら珍しいわね、あんたでも風邪引くのね」と、皮肉交じりにわたしの仮病を心配してくれていたが、生休を明けてからというもの、ずっと出突っ張りだったこともあり、「無理に働いてもらってたから、きっと疲れが出たんでしょうね。まぁ、いいわ。予約のお客さんには上手く言っておくから、ゆっくり休んで……」と、口では色々を言いながらも、結局は休むことを快く了承してくれた。  一抹の罪悪感を感じながらも、マサキさんか