ダイヤ廣畑さん_

「ぜんぜんわからない」からはじめる宇宙入門

担当編集者が語る!注目翻訳書 第20回
僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない
著:ジョージ・チャム、ダニエル・ホワイトソン、訳:水谷淳
ダイヤモンド社 2018年11月出版

翻訳書を手がけていて、一番苦労するのは「ダジャレ」かもしれない。日本語で再現できると痛快だが、そうは問屋が卸さない。

「元ネタがわからない」
「訳すとダジャレじゃなくなってしまう」
「そもそも日米で笑いのツボがズレている……」

ここに、編集作業のかなりの割合をダジャレやジョークとの格闘に費やした本がある。最先端の宇宙の知識をユーモラスに解説した、『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない』(原題:We Have No Idea)だ。「ユーモア」を担うべく高頻度で織り交ぜられたダジャレやジョークは、本文だけではなく、407もあるイラストにも満載で……。翻訳者の水谷淳さんの助けがなければ、完成までたどり着けなかっただろう。

そのダジャレが成功しているかの判断は読者のみなさんに委ねるとして、ここからはこの“変わった本”の中身についてご紹介しよう。

宇宙のことは「ぜんぜんわからない」!? 前代未聞の入門書

突然だが、みなさんは人類が宇宙のことをどれだけ知っているか、ご存じだろうか。

科学の進歩はめざましいから、それなりに理解できているのでは? だって、2015年には「重力波」の観測に成功しているし(2017年にノーベル物理学賞受賞)、系外惑星(太陽系以外の惑星)も次々と見つかっているじゃないか――。

そう、そのとおりである。だが、それでも宇宙に存在する物質で、私たちが知っているのは……全体のわずか「5%」。あとはぜんぜんわからない、のだ。

著者たちは言う。

この本は、宇宙についてわかっていないことについて書いている。もう答えが出ているはずだと思っているかもしれないけれど、実はまだわかっていないいろんな大きな疑問についての本だ。

つまり本書は、原題(We Have No Idea)どおり「ぜんぜんわからない」宇宙について、最先端の知識に基づき、ユーモア(とダジャレ)を織り交ぜて書かれた「ありそうでなかった入門書」なのだ。どこまでがわかって、どこからがわからないのか。まさに宇宙研究のフロンティアを楽しく学べる1冊になっている。

日本経済新聞、読売新聞、朝日新聞と立て続けに書評が掲載され、中でも日経新聞では竹内薫さんが「すんげえわかりやすくて面白い本。(中略)この本は、まちがいなく買いだ」という絶賛コメントを寄せてくださった。こうした好評価が重なり、売れ行きも好調だ。

NASAも認めた「最強コンビ」著者2人の実力とは

本書を語るうえで欠かせないのが、著者2人の魅力だ。ユーモアと知識の両方は、この2人でなくては表現し得なかっただろう。

ジョージ・チャムは、スタンフォード大学でロボット工学のPh.D.を取得し、カリフォルニア工科大学で教員を務めていたこともあるという異色のマンガ家。18年以上描きつづけている“Piled Higher and Deeper”(『PHDコミックス』)は、累計5000万以上の閲覧数、年間読者数は700万人を誇る人気サイトだ。

そんなチャムと組むダニエル・ホワイトソンは、ペンシルベニア大学などを経て、現在はカリフォルニア大学アーバイン校の実験素粒子物理学教授を務めている。全周27キロメートルの円形加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」で知られるCERN(欧州原子核研究機構)でも研究をおこなっている、まさに最先端の知識を語るにはもってこいの人物だ。

実はこの2人、タッグを組むのは本書が初めてではない。2016年1月には、PBS(米国の公共放送サービス)で科学についてのコミックスや動画をオンエアし、100万以上のPVを獲得。先述した重力波の初観測が発表された2016年2月には、重力波についての解説動画がアップされていて、200万PVを超えている。

2人を指して「世界最高の先生」との呼び声が高いのも、納得できるのではないだろうか。ご関心のある方は、PHDコミックスのホームページや、Youtubeチャンネルも覗いてみてほしい。

「新しい視点」でワクワクする“冒険”の旅へ!

わかっていないから、未知のことにワクワクできる。結局のところこの本が教えてくれるのは、わかっていないことを、新しい視点で考えることの喜びなのかもしれない。著者たちも冒頭でこう言っている。

この世界を違ったふうに見つめてもらいたい。わかっていないことが何なのかがわかれば、未来がすごい可能性に満ちているのが見えてくるのだ。

最新知識とユーモアで宇宙の謎に挑む本書を読めば、いままでとは違った視点から、宇宙というものを考えることができる。そして「ぜんぜんわからない」ことを知ったとき、きっと目の前にワクワクする世界がひらけているはずだ。

執筆者:廣畑達也(ダイヤモンド社 書籍編集局第1編集部)


この記事が参加している募集

推薦図書

よろしければサポートをお願いいたします!世界の良書をひきつづき、みなさまにご紹介できるよう、執筆や編集、権利料などに大切に使わせていただきます。