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【読書ノート】53 「家を失う人々」 マシュー・デスモンド

本書は2016年に出版されピューリッツア賞をはじめ数々の賞を受賞した。原題は「強制退去:アメリカ都市における貧困と利益」。著者はプリンストン大学の社会学者で、アメリカの貧困層の住環境を調査するために、自ら貧困層のトレーラーハウスパークで生活して、家主と犯罪や様々なトラブルを恒常的に引き起こしている貧困層の借家人たち(ほどんどは有色人種)たちと交友を結びそれを記録したノンフィクション。借家人たちは常にお金がなくトラブルを起こしているために、頻繁に家主から強制退去をさせられ生活が全く安定せず負の循環に陥っていく様が描かれている。エピローグでは著者が収集したデータを基に強制退去を回避させるための様々な提言を行っている。アメリカ社会の暴力的とも言える格差と貧困の現実をよく理解出来る一冊。

● ミルウォーキーにおける裁判所命令による強制退去のうち半数近くが、毎年、おもに黒人が済んでいる地域でなされていたなされていた。
● こうした地域では男性より女性の方が強制退去に処される数が二倍も多かった。
● 借家人の家賃の滞納額、世帯所得額、人種といった要因を考慮しても、子どもがいる世帯は強制退去命令を受ける確立が三倍近く高かった。

「だが、この2つのバランスを取り戻す方法はある。家賃補助制度の対象を大幅に拡大し、全ての低所得者層世帯が恩恵を受けられるようにすればいいのだ。いま、最も必要とされているのは、運に恵まれなかった。大勢の人たち、すなわち、いっさいの支援がないまま苦労している数百万もの貧困世帯の対して、安全、公正、そして機会の均等を具体的な形で提供することだ。
もしも、貧困層の全世帯を対象とした共通家賃性補助制度を実現させれば、生計を立てたいという家主の要求と、ただ暮らしていける家が欲しいという借夜人の誠実な願いのあいだに道を切り開くことができる。」p468

「こうした住宅補助制度は、世界各地の先進国ですでに実施され、成功している。 イギリスでは住宅補助制度を実に多くの世帯があり利用しているので、先日あるジャーナリストは「住宅補助を利用していない人を挙げる方が簡単なのでは?」と尋ねた。すると「その通り」という返事があった。 この補助金はたいてい家主に振り込まれるため、借夜人が家賃を滞納することはない。オランダにも似たような制度があり、最も貧しい市民に住宅を提供する上で大きな 成功を収めてきた。」p469

「もちろん、共通家賃補助制度は政策提言のひとつにすぎない。 住宅に対する基本的な権利の確立は、ほかの様々な手法でも実現できるはずだし、そうあるべきだ。都市や町が多様性に富んでいて、独自の性質やスタイルがあり、それぞれの恵みがあり、それぞれの問題を抱えているのであれば、解決策も当然、多様ではなくてはならない。
だが、この混乱からの出口がどんなものでありにせよ1つだけはっきりしてることがある。それはこれほどの不平等が広がり、これほど人々から機会を奪い、基本的な要求を冷酷に拒否し、不毛な苦しみを是認してる状態は、この国のいかなる価値観を持ってしても正当化することができない、ということだ。 いかなる道徳律や倫理感を持ってしても、我々の国をこのような状態に陥らせてしまった事実に、言い訳は立たないのだ。」

(2024年2月10日)


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