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【経営学32】アンゾフの成長マトリクス(経営戦略分野)

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はじめに

皆さんはイゴール・アンゾフという経営学者を知っていますか?
タイトルにもあるとおり、アンゾフの成長マトリクスで有名な方です。


日本では絶版になっているようですが、アンゾフ教授の書籍は日本でも販売されていたようです。
アンゾフの成長マトリクスはあまりに有名なので、今ではMBAでもほぼ確実に学ぶでしょうし、講義で使わなくても経営戦略のテキストには必ずと言っていいほど載っていると思います。

今日はその「アンゾフの成長マトリクス」について解説していきます。


1.アンゾフの成長マトリクスとは

アンゾフの成長マトリクスとは、経営戦略の方向性を考える際に活用できるフレームワークです。
以下の図のように、横軸に「製品」、縦軸に「市場」を置いて、それぞれ「新規」と「既存」で分けて、そのかけ合わせによって戦略の方向性を考えます


アンゾフの成長マトリクス


左上→右上→左下→右下の順番で説明していきます。
なお、数学に詳しい人は「なぜ第2象限から説明を始めるんだ!?」と思うかも知れませんが、多くの日本人は左上から視線が始まるので紫色部分から解説を始めます。
そもそも多くの日本人はどこが第1象限が知らないので、理系の皆さんは一旦堪えてください(笑)


(1)市場浸透戦略(紫)


アンゾフの成長マトリクス


まず紫色(左上)のところに着目してください。
ここは「既存」の市場で、かつ、「既存」の製品の欄ですね。
したがって、「既存市場✕既存製品」の方向で戦略を検討していくところです。

現在営業を行っている既存市場において、今現在販売を行っている製品を売っていくという、いわば当たり前の戦略が該当します。

例えば、営業部隊を増やして拡販を行う、何らかのキャンペーンを行う、製品に対する認知度を上げるためにCMを打つなどが該当します。

何らかの方法でその市場に既存製品を浸透させていくことを目的とした戦略を練っていくので「市場浸透戦略」と呼ぶことにします😁

市場浸透戦略の究極的な目的は、既存の市場でのシェアを高めることにあります。
シェアが高くなればなるほど、通常は価格決定力が増していくので、利益を得やすくなっていきます。
また、シェアが拡大していくにしたがって、通常は製品の販売個数増えますから、規模の経済が働き、コストを削減することもできるかもしれません。

いずれにしてもオーソドックスな戦略なので、アンゾフの成長マトリクスを活用するまでもなく、最初に思いつくであろう戦略の一種です。
当たり前という感じですね。

当たり前体操レベル99



(2)新商品開発戦略(緑)


アンゾフの成長マトリクス


続いて、右上(緑色)に着目してください。
この欄は、既存市場✕新規製品の欄です。
既存の市場に、新しく開発した製品や商品を販売していくという戦略です。

ここについては、家電製品を思い浮かべるとわかりやすいです。
PCやスマホ、電子レンジや洗濯機などは毎年のようにバージョンアップされて、新しい機能がついたり、CPUが高性能になったりします。

そうやって、新規の製品を既存市場に売っていく戦略が「新商品(製品)開発戦略」です。
新商品というか新製品というかは決まりはないので、どちらでも構いません。

この方向性で考える戦略で最も重要な点は、差別化です。

どのような製品・商品であっても、必ずといっていいほど競合他社が存在します。
特に家電業界は競合だらけです。
そして、どこの会社も必ずといっていいほど新商品を常に開発しています。

そのため、同じような見た目で同じようなスペックで同じような商品ならば存在意義がさほど無いのです😱

だからこそ、差別化が必要です。
どういう差別化を図れば既存市場のユーザーに受け入れられるのかを考え、具体的な戦略に落とし込んでいかないといけません。

フレームワークあるあるですが、戦略の方向性は示してくれても、戦略の答えは出してはくれません。
どうやったら差別化を図れるのかについては結局のところ自分で考えるしかないのです。

新製品・新製品開発は難しい



(3)新市場開拓戦略(黒)


アンゾフの成長マトリクス


次に、左下(黒色)の部分に着目してください。
ここは新規市場✕既存製品の欄です。
つまり、新規市場に対して、既存製品・商品を販売できないかと考える戦略です。

最もわかりやすい事例は海外進出です。

皆さんサントリーという飲料メーカーはご存知ですよね?
サントリーの商品で「オールフリー」というノンアルコールビールテイスト飲料があります。
日本でもかなり人気があるようで、ノンアルコールビールのランキングで大抵1位か2位に入っている商品です。

サントリーは2020年に、このオールフリーをアメリカ全土で販売する戦略を採りました。



これがまさしく「新市場開拓戦略」です。

アメリカでは近年、健康志向の若者が増加傾向にありまして、ノンアルコールビールやプリン体ゼロの商品がよく売れています。
サントリーはそういう市場動向をしっかりと調査し、2017年からアメリカの一部の州でテスト販売を行い、2020年から本格的に全米拡販に乗り出しています。

2022年現在、オールフリーの売れ行きがどうなのかという点は不明ですが、新市場開拓戦略のお手本のような事例だと思います😁
これからの業績報告が楽しみですね。

新市場開拓戦略は、国内でも可能です。
今までターゲットにしていなかった顧客層(市場)にアプローチする戦略も新市場開拓といえます。

そのため、意外と灯台下暗しで、実はすぐ近くに大きな市場が眠っているかもしれないのです。

もう一つ事例をご紹介しましょう。
皆さんはマンションを買いたいと思ったことありますか?
ありますよね🙄
そりゃそうです。
にんげんだもの。

都内や関東圏内の駅チカでオサレなマンソン…
ほしいですよね。
でも、高くて買えないわけです。

かといって、築年数が30年超えているようなボロいダサいマンションがほしいとは思えない。
だからこそ、賃貸でいいかと思う人が多くなります。
でも、ここのニーズに着目した会社があります。
それがスター・マイカ(プライムに上場)です。



詳しくは上記ホームページを読んでいただければわかりますが、簡単に説明させていただくと、スター・マイカは、「賃貸中」の中古マンションを買って、空室になるまでは賃料で稼ぎ、その後空室になったら迅速にリノベーションを施して、適正価格で中古物件としてファミリー層に販売しているのです。

賃貸中の中古物件は、いわばプロ向けの物件なので、一般の人はまず買いません。
それゆえ、価格がある程度予想でき、かつ、そこまで異常な上下がないという特徴があります。
それゆえ、不動産のプロであるスター・マイカにとっては勝ちやすい市場なのです。

その物件を仕入れ、賃貸中の間はずっと賃料収入を得ます。
都内の優良中古物件を主に仕入れているので、安定的な利回りで運用が可能です。

そして、いざ賃借人が出ていったら、恐ろしく早い速度(短納期)でリノベーションをして、中古のマンションとして一般人向けに売り出すのです。
中古物件であるため、価格は新築物件より遥かに安いです。
その上で、ほぼフルリノベーションをしているので中身は新品同様にピカピカです🙄

それゆえ、東京都内の新築マンションを買えるほどの資産は無いけど、中古物件なら買えるというファミリー層によく売れます。

新築でも純粋な中古でもない市場にアプローチしているので、競合が少なく、上手に差別化を図れているビジネスモデルだと思います。

なお、今では競合他社も多く参入しているので、若干レッドオーシャン化している感じはしますが、スター・マイカが台頭してきた頃は感動しました。
なんだこのビジネスモデルはと😍

世の中には天才がいるものです。

ここをこうやって、こう!



(4)多角化(赤)


アンゾフの成長マトリクス


最後に、右下(赤色)部分に着目してください。
この欄は、新規市場✕新規製品の欄なので、全く新しい事業と言っていいでしょう。
そのため、「多角化戦略」と呼ばれています。

私は原則としてこの戦略には反対です🤔

というのも、新規市場である時点で全く未知の状態なわけですから、経験もノウハウも人脈さえも何もないです状態です。
その上で、自社で初めて作った新規製品・商品を販売するのですから、自社の強みも販売網も全然使えないところで勝負することになります。

これはもうベンチャー企業を一つ立ち上げて、一から始めますというのと同じです。
そのため、人材獲得コスト、マーケティングコスト、開発コストなどがすべてかかってくる戦略なので、ハイリスクです。

一方でハイリターンかと言われるとかなり怪しいと思います。
よほど勝てるという確信がない限りは多角化戦略は愚策だろうと思います。
戦略というよりはギャンブルに近い状態になりやすいです。

ギャンブルは怖いよ~


2.多角化戦略の分類

前述のとおり、多角化戦略はリスクが高いため、あまりオススメできない戦略です。
しかし、アンゾフ教授はこの点についても示唆に富む類型論を提唱されております😁

せっかくですから、ご紹介します!

アンゾフ教授は、多角化戦略を以下の4つの類型に分けて考えています。

(1)水平型
(2)垂直型
(3)集中型
(4)集成型

以下、一つずつ解説させていただきます。


(1)水平型


水平型の多角化戦略は、自社にある既存技術を応用して新製品を開発し、自社の顧客によく似た顧客をターゲットにして新規市場を開拓しようとする多角化戦略です。


アンゾフの成長マトリクス


先程学習した緑色の部分(新商品開発戦略)にかなり近い戦略であることがわかりますね😁

この多角化戦略は、多角化戦略の中で最もローリスクな戦略なので、私としては、多角化戦略を採用するならこの戦略を推しています。

自社の技術をしっかり活用できるので、強みも活かせますし、今までの既存顧客と近い顧客をターゲットにするため、ある程度の予想もつくでしょう。
そういう多角化戦略であればとても良い戦略になると思います。

事例として適切かどうかはわかりませんが、私の視点からは水平型多角化戦略に見える事例として、会計ソフトのfreeeさんの戦略が挙げられます。

元々、freeeさんは2013年頃に会計ソフトの「freee会計」をリリースして、しばらくはそれ一本で頑張っていました。
その後、2015年に「freee会社設立」をリリースして、2017年には「freee人事労務」をリリースしています。

既存のソフト開発力を活かして、会社設立のソフトウェアと人事労務のソフトウェアを開発したわけですね。
これは既存の技術を応用した新製品(商品)開発といえます。

そして、会社設立系のソフトウェア市場の顧客は、これから事業を開始しようとしている経営者層です。
それまでfreee会計でターゲットとしてきた顧客層の前段階というイメージです。
時系列としては、freee会社設立のターゲット層が、後々freee会計の顧客になっていくという流れです。

そして、会社がある程度大きくなってきたら、従業員等を多く雇い始めるので、freee人事労務の顧客となっていくのです。

この水平型多角化戦略…めちゃくちゃ上手くないですか?

元々の自社の顧客ととても似ている人たちをターゲットにして上手に広げて行っています。
素晴らしい戦略だと思います。

会計からの広げ方が上手い


(2)垂直型


垂直型の多角化戦略は、自社のサプライチェーンの上流または下流に向かって多角化を進めていく戦略です。

例えば、製造業を営む会社があったとします。
そして、この会社では、部品の製造会社から何種類かの部品を仕入れて、それを組立・加工して、他社に販売しているとします。
この会社が、例えば部品の製造・販売を行うケースや消費者向け販売網を構築して小売業に参入するケースなどが垂直型の多角化戦略に該当します。

自分で全部やってしまおうという多角化ですね😁

事例としては、トヨタなどが該当するかなと思います。
今ではもうトヨタ帝国と呼ばれているほどの規模ですが、元々は自動車の製造会社でした。
今では原料の仕入れ・部品の製造・自動車の組立・運搬(物中)・販売・リース・金融・冠婚葬祭・学校に至るまで普通のサプライチェーンだけでなく人の人生におけるサプライチェーンのほぼすべてをグループ企業だけで完結できるレベルにまで至っています。

この多角化戦略は、成功すれば自社で全てを完結できる素晴らしい戦略です。
サプライチェーンのほぼすべてを自社だけで完結できるのであれば、仕入れや販売における交渉をしなくてよくなるので、価格決定力が高まり、市場における自由度が上がります。

しかし、サプライチェーンが巨大であればあるほど、多角化する際に巨額の投資が必要になります。
そして、最初は自社内にノウハウ等が無い状態なので、形になるまでに通常は長い時間がかかります。
そういう意味では何らかの事業で大成功を収めた企業だけが採りうる選択肢かもしれません。

トヨタピラミッド


(3)集中型


集中型の多角化戦略は、自社の中核となる技術や製品と関連する新製品(商品)を開発し、それを新規の市場に販売する多角化戦略です。

集中型多角化戦略で最も有名な事例は富士フィルムです。



女性の皆さんはアスタリフトという化粧品をご存じですよね?
かなり有名な化粧品です。

今の若い方々は信じられないかもしれませんが、このアスタリフトを作っている会社、元々は写真のフィルムを作っていた会社なんですよ🙄


↑フィルム

そもそも「フィルム」を知らないですよね?
上記の画像がフィルムです。
昔はこのフィルムを使って、写真を現像(印刷)していたんです。

そのフィルムを作っていた富士フィルムさんは、フィルムの主原料であるコラーゲンの研究と写真の色褪せ防止の抗酸化技術、さらに、光解析技術と薄いフィルムに塗布する成分を極小化するナノ化技術などで世界的にもトップクラスの研究力を持っていました。

ただ、フィルムカメラが廃れていって、どんどんデジタルカメラやスマホに変わっていったので、会社が存続の危機に晒されていたのです。

そこで、上記の研究技術を応用して、化粧品を作ったという流れです。
フィルムの市場と化粧品の市場は全然別物ですから、全くの新規市場への挑戦でした。
でも、そこで販売された化粧品には、フィルム事業で培われてきた研究技術が使われていたわけです。

泣ける😭



(4)集成型


集成型の多角化戦略は、今までの技術やノウハウとは全然関係がない新製品(商品)を開発し、新規の市場で販売する多角化戦略です。
別名「コングロマリット型多角化戦略」と呼ばれています。

トヨタ自動車をコングロマリット型多角化戦略として紹介する文献もあるのですが、私は前述のとおり、トヨタは広い意味では垂直的だと考えているので別の事例を挙げます。

コングロマリット型(集成型)として最も成功した事例は、おそらくセブンイレブンを運営しているセブン&アイホールディングスだろうと思います!

セブン&アイホールディングスは、元々イトーヨーカドーやセブンイレブンなどの小売業者です。
スーパーやコンビニなどで稼いでいた会社ですね😁
私もいつもお世話になっています。

このセブン&アイホールディングスが、既存の事業と全く関係がない「銀行業」に手を出したということで当時は大きなニュースになりました。
それが「セブン銀行」です。

ただ、セブン銀行のビジネスモデルが神がかっていたのは、銀行業なのに「預金なし」というところです。
この会社はATM特化型の銀行なのです🙄

誰が思いつけますかあの時代に。
天才としか言いようがないです。

全国にほぼ網羅的に出店しているセブンイレブンとイトーヨーカドー、及び各種系列の小売店…
それらすべてに自社のATMを設置し、あらゆる金融機関と提携してそこでお金を出し入れさせ、その手数料だけで食っていこうなんて…

天才すぎます。
小売業者が今は苦戦しているため、ATM事業も減収減益とはなっているものの、それでもまだ純利益率15%以上を叩き出しているセブン銀行は本当に凄い会社です。

集成型の多角化戦略は、ノウハウが全く通用しないので通常はコストばかりかかってリターンが得られにくい戦略だと思いますが、セブン銀行の例は成功例と言って良いかと思います。

手数料という塵が積もって売上1000億円超!



おわりに

今日はアンゾフの成長マトリクスを解説させていただきましたが、参考になりましたでしょうか😁
ベンチャー業界で働く皆様やベンチャー業界に興味を持ってくださっている方々のお役に立てば幸いです。

大手企業に勤めていると、経営戦略の策定は基本的に上役の人たちだけに関係する領域で、一般社員には全くといっていいほど関係がない分野です。
しかし、ベンチャー企業では、比較的若い世代に大きな役割が降ってきますから、経営戦略について学んでおくことは「必須」に近い状態だと思います。

この機会に是非基礎的な経営戦略理論を学んで、ベンチャー業界を盛り上げていきましょう!

それではまた次回。


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著者:瀧田 桜司(たきた はるかず)
役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長
専門:法学、経営学、心理学
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