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暴力のない暴力 Attack in Fake

暴力とはなんだろうか? 暴力にはどんな特徴があるだろうか?

例えば、典型的なものとして想像するのは相手を殴ったりひっぱたいたりして、打撲やそれに伴う痛みを与えることである。あるいは、歯や爪、武器を使うなどして切り傷を負わせたり、目や股間などの急所を攻撃して大きな痛みを与えたり、相手の動きを止め、戦意喪失に陥らせることである。相手を高いところから突き落とすなど重力を使う手もある。もちろん、銃や大砲、爆弾のようなものを駆使して相手に火傷を負わせたり破片を浴びせたり死傷させるとなればオオゴトである。なぜならば、集団にとって、顔の見える人間がひとりでも殺されて二度と帰ってこないというのは象徴的な意味を持ち得るし、大きなヘイトの発端になり得るからである。

或る軍人は戦争は暴力を使った外交であると言ったそうである。なるほど、確かに歴史を眺めてみると、最初は上記のような暴力や犯罪行為は「本気で」おこなわれているのだが、歴史がくだるにつれて、「象徴的な暴力」が増えてくる。なぜならば、お互いに強力な武力を持った勢力同士が戦えば、お互いの被害と憎しみは溜まるばかりで、結局敵も味方も疲れ切ってしまうまで殺し合いを継続しなければならなくなるからだ。

ナポレオンが傭兵よりも安上がりかつ大量に動員した「国民軍」や、ファシズムや共産主義のようなイデオロギーによるお互いを殲滅させる戦争が始まってしまうと、戦争のこのおそろしい性格が姿を表してきた。まだ手加減を知らない子供のように、人類は20世紀の世界大戦で自分たちがお互いを完全に破壊してしまえるような恐ろしい兵器を持ちながら、それでもお互いを敵だと認識せざるを得ない、相手を信用して相手に向けた銃口を先に降ろすことができないという、いわば「グリッドロック」の状態が長く続いてきたのだ。それでも水面下での政治工作などを継続し、おそらく最悪の事態は回避できている━━もちろん現状も〝最悪〟であるが、人類が絶滅はしていないという、その程度のことだ。

手加減を知った子供になった人類がわかったのは、近代兵器を使いながらも、うまく相手に対して「これは本気の攻撃ではないですよ」とポーズを示すことである。とはいえ、これは奇妙な態度である。なぜならば、「攻撃ではない」と言いながら実際にはミサイルやドローンを飛ばしたり爆弾を爆発させたりして攻撃しているからである。別の言い方をすれば、これは「牽制 control / keep in check」である。牽制にもいろいろ段階はあるだろうが、例えば銃を発砲はするが、それは飽くまで警告のシグナルなのであって、相手の身体に的中させて危害を加えたり戦闘力を無力化しようとしないといったものが考えられるだろう。

そうした「本気の攻撃ではない攻撃」がおこなわれるとき、相手集団の人命を損なうこと無く、相手の武力の死活的でない部分を削いだり、あるいはもしやろうと思えば無力化できるのだと思い知らせるような、それでいて実際の攻撃がなされる。なぜならば、記号的で牽制的な攻撃よいとはいっても例えば報復でまったく相手に被害を与えないというのでは、司令官はともかく味方の情緒として納得できないものがあるからである。そして、その被害の程度も含めて、相手もそれを何らかの解釈を施すべきメッセージとして受け取ることになるだろう。

連想ゲームをさせてもらえれば、これはまるでアルコールのないビールのようなものであり、砂糖が入っていないゼロコーラのようなものである。暴力や大量破壊兵器が我々全体にとって有害なものであることは誰もがわかり切っているが、さりとて隣人をそれによって完全に破壊し尽くすことはできない。反対に自国民を全員殺害することもできない(もしかしたら過去にそのような指導者がいたのかもしれないが、その人々は我々が読む歴史に登場できないだろう)。そうであるならば、本格的な武力行使を回避するために、我々はフェイクの武力行使を延々とおこないながら、〝フェイク武力言語〟のようなものをつくっていく必要があるし、現にそれはさまざまなかたちでおこなわれているだろう。

例えば、国際的スポーツ大会や経済制裁、口頭での非難声明、非公式の武力組織(例えば民間軍事会社)による暴力の行使、工作活動などである。それらも我々民間人の治安にとって受け入れやすいものでは決してないし、もっと行使しやすい投票やデモ行進、ストライキのかたちでの政治的意思の表明も開発されてきた歴史がある(その裏側には流血を伴わずにデモを妨害する工夫もなされてきた)。これらのことは集団対集団のコミュニケーションを促進する。できれば、血を流さないことをお互いに保証しあいながらコミュニケーションが取れるような方策や基準がこれからさらに見つかっていくことを望みたい。

(1,981字、2024.04.22)

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