Y.田中 崖

目を離したすきに小説を書き本を読むことがあります http://rainydesert…

Y.田中 崖

目を離したすきに小説を書き本を読むことがあります http://rainydesert.jugem.jp/

マガジン

  • あとがき集

    裏話、製作秘話、影響を受けた作品、ボケ、ツッコミ、まったく関係ない日常その他、あとがきばかりを集めたマガジンです。投げ銭制です。

  • 死体と操縦

    同僚が解体されていた。

  • 彼女の宇宙

    私は宇宙になってしまった、 / 彼女は宇宙になってしまった。

  • 流町へようこそ Welcome to FlowTown

    点滅する赤信号の下、標識には青い文字で「流町」と書かれている。

  • Re -

    振り返ると大量の葉っぱが落ちている 私はそれらを束ねて一冊に綴じる

記事一覧

連載『部屋 - Rooms』

 ご無沙汰しております。初めましての方はこんばんは。Y.田中 崖です。  久しぶりの更新にも関わらずアレですが、お知らせです。  このたび、人格OverDriveさんにて…

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高解像度の断絶 - 『宙(そら)が遣わす船に乗り』感想

 1月くらいにPDF版を購入し一気読みした。なにこれすごい! って大興奮してぐわーって感想を書いてからふと気づいた。  これ、ネタバレしちゃダメなやつじゃん。  え、…

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「ちょっとこれ見てよ」  渡された通販の冊子。本が特集されているらしく、いくつもの表紙が並んでいる。 「ここ。『半飼いの少年』ってなに? こんな誤字する?」 「手…

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酔客旅譚2 汽車

(1はこちら)  基本的に相手の目を見て話さない。できないわけじゃない、たぶん、癖みたいなものだ。意識の底のほうで、話し相手なんて誰だっていいと考えている。その…

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酔客旅譚1 祭

 おい、そこのあんた。やけにさっきからこっちをじろじろ見てるな。俺の顔に何かついてるか?  それとも……もしかしてあんた、俺の顔が見えないのかい。 *  二つの…

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波を壊せ

 研究所は黒猫に飲みこまれた。  爆発は光も音もなく発生した。  1秒後、発生源である被検体07のカプセルは砕け散り、17号研究室は大量の黒猫で満たされた。次か…

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死体と操縦 4

4.再会  不意にからだが何かに捕まった。追っ手かと思いきやそうではない。右手でできた尾鰭を、死んだ彼の右手が握り締めていた。掌が温かい、と感じる、それは本当に…

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玉手箱

「乙姫はどうして浦島太郎に玉手箱を渡したのかしら」  少女が言う。肩にかかるくらいの髪、滑らかな曲線を描く体、細く伸びた手指、先の丸い靴。それらすべてが白く、皮…

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死体と操縦 3

3.破壊  彼の部屋は、私の住む部屋よりさらに家賃の安い、半壊集合住宅の一室だった。なかは驚くほど物がなかった。身辺整理したからね、と彼はおどけて言った。 「これ…

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死体と操縦 2

2.依頼/変身 「ここだけの話だけど」と彼は切り出した。「指、拡張したんだ」  その言葉は種となって私の土に埋めこまれた。 「拡張?」  彼が頷き、蒸留油を舐める。…

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死体と操縦(連載版)

1.逃走  同僚が解体されていた。  流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経…

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死体と操縦

 同僚が解体されていた。  流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経網はおにぎ…

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 小説を書かねばならぬ、と私は独りごちた。 「別に小説じゃなくてもいいんじゃない?」と彼女は言った。 *  机を見繕いに行った。  兎にも角にもまずは机である。机…

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伯父の葬式 あとがき

* こちらは『伯父の葬式』のあとがきです。購入いただいた方のみ閲覧可能となっております。二つ以上ご購入いただく場合はマガジンの購入がおすすめです。

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私の執筆環境

Ommwriter 最高 美しい背景とBGMにより、まるで雪原で執筆しているような気分に陥ります。さらに嬉しいのがぺこぺこいうキーパンチ音。これが気持ちいい。ハマると、キー…

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ご無沙汰しております もう半年近く経とうとしておりますが今年もよろし
くお願いします
早速ですが告知です↓
2019年5月6日 #文学フリマ ス-40 雨は満ち月降り落つる夜 - 雨月物語×SF に参加しています 詳細は特設サイトまで https://www.sasaboushi.net/ugetsu/

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連載『部屋 - Rooms』

連載『部屋 - Rooms』

 ご無沙汰しております。初めましての方はこんばんは。Y.田中 崖です。
 久しぶりの更新にも関わらずアレですが、お知らせです。

 このたび、人格OverDriveさんにて『部屋 - Rooms』を連載させていただくことになりました。1/21に開始し、絶賛連載中です。
 内容は様々な部屋にまつわる/部屋を舞台とした連作千字短編です。連載といっても今のところ続き物ではありません。礼儀正しく玄関から入

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高解像度の断絶 - 『宙(そら)が遣わす船に乗り』感想

高解像度の断絶 - 『宙(そら)が遣わす船に乗り』感想

 1月くらいにPDF版を購入し一気読みした。なにこれすごい! って大興奮してぐわーって感想を書いてからふと気づいた。
 これ、ネタバレしちゃダメなやつじゃん。
 え、いつまで? 連載終わるまで?
 というわけで連載終わったこのタイミングでの投下となりました。くどいですがネタバレ含む感想です。本作はネタバレしないほうが絶対に楽しいので(少なくとも私は事前情報なしでむちゃくちゃ楽しかったので)、必ず作

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半

「ちょっとこれ見てよ」
 渡された通販の冊子。本が特集されているらしく、いくつもの表紙が並んでいる。
「ここ。『半飼いの少年』ってなに? こんな誤字する?」
「手書き原稿をスキャンして自動変換してるんじゃない? 校正するようなものでもないし」
 言いながら私は半飼いの少年について考え始めている。



 半飼いの少年の朝は早い。まだ暗いうちから目を覚まして着替えると、まっすぐ半小屋へ向かう。半た

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酔客旅譚2 汽車

酔客旅譚2 汽車

(1はこちら)

 基本的に相手の目を見て話さない。できないわけじゃない、たぶん、癖みたいなものだ。意識の底のほうで、話し相手なんて誰だっていいと考えている。そのせいで汲み取れなかった気持ちや、触れられなかった機微があったかもしれない。しかしそれは自分にとって、宇宙の果てで星が消えたことと同義だった。知り得ないものはどうしたって知り得ない。むかし誰かに言われた通り、俺は端から諦めている。知り得ない

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酔客旅譚1 祭

酔客旅譚1 祭

 おい、そこのあんた。やけにさっきからこっちをじろじろ見てるな。俺の顔に何かついてるか?
 それとも……もしかしてあんた、俺の顔が見えないのかい。



 二つの腕に抱えられた湾の、岸にある小さな町だった。俺は町で唯一の安ホテルにチェックインした。201号室。
 見知らぬ土地では最低でも二泊すると決めている。着いて一泊、翌日ぐるっと巡って二泊。はっきりとした目的もなく流れているが、少なくとも流れ

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波を壊せ

波を壊せ

 研究所は黒猫に飲みこまれた。

 爆発は光も音もなく発生した。
 1秒後、発生源である被検体07のカプセルは砕け散り、17号研究室は大量の黒猫で満たされた。次から次へと無から猫が生じては圧死し、肉塊へと変わりながら膨張。
 2秒後には17号室がすっぽりと猫爆に包みこまれ、爆風が発生し建物を破壊。この時点で研究員百人が死亡、被検体三百体が活動停止。
 3秒後、研究所が崩壊しキノコ雲が立ち上った。そ

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死体と操縦 4

死体と操縦 4

4.再会
 不意にからだが何かに捕まった。追っ手かと思いきやそうではない。右手でできた尾鰭を、死んだ彼の右手が握り締めていた。掌が温かい、と感じる、それは本当に温度?
「危なかったな。ついさっき同期が終わった」
 影のように黒い顔で、唯一見える唇の両端が持ち上がる。笑っているらしい。
 振り返ると、波のなかに雑音混じりの小さな画面が揺らいでいた。画面から青い線が一本ぎざぎざと折れ曲がりながら飛び出

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玉手箱

玉手箱

「乙姫はどうして浦島太郎に玉手箱を渡したのかしら」
 少女が言う。肩にかかるくらいの髪、滑らかな曲線を描く体、細く伸びた手指、先の丸い靴。それらすべてが白く、皮膚と衣服の境界がわからない。赤く光る瞳をこちらに向けて、彼女は微笑む。
「ねえ、幽霊さん」
 窓の外をごつごつした建築群が右から左に流れていく。列車は、街を縫う透明な管のなかを滑るように進んでいく。
 彼女によると、いま乗っている列車は住宅

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死体と操縦 3

死体と操縦 3

3.破壊
 彼の部屋は、私の住む部屋よりさらに家賃の安い、半壊集合住宅の一室だった。なかは驚くほど物がなかった。身辺整理したからね、と彼はおどけて言った。
「これを」
 手渡されたのは小型の切断機だった。かちかちかちと収納されていた薄い刃を出し、構えて、いろいろな角度から眺める。頸部や腹部に何度も刺せば致命傷を与えられるかもしれないが、だいぶ痛そうだ。そういう趣味なのだろうか?
「これで殺すの?」

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死体と操縦 2

死体と操縦 2

2.依頼/変身
「ここだけの話だけど」と彼は切り出した。「指、拡張したんだ」
 その言葉は種となって私の土に埋めこまれた。
「拡張?」
 彼が頷き、蒸留油を舐める。透明な油飲みのなかで冷却岩がからんと音を立てた。
 区画の外れにある安い油屋の店内。煮え油と端子の焼ける匂い、客たちのがちゃがちゃ喋る声が充満し、時折笑い声が大音量で発せられる。「電気泥棒ぅ?」と一際大きな声が響いて思わず視線をやると、

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死体と操縦(連載版)

死体と操縦(連載版)

1.逃走
 同僚が解体されていた。

 流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経網はおにぎりの管布みたいだ。私たちは管布おにぎりの集合体。さしずめ金属繊維は合飯で、皮殻はのりかな。そんなことを考えながら、跳ね上がった負荷が落ち着くのを待つ。
 全身に疎らについた感覚機を剥がしていく。脊髄は一世代前。視神経は中の下。免

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死体と操縦

死体と操縦

 同僚が解体されていた。

 流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経網はおにぎりの管布みたいだ。私たちは管布おにぎりの集合体。さしずめ金属繊維は合飯で、皮殻はのりかな。そんなことを考えながら、跳ね上がった負荷が落ち着くのを待つ。
 全身に疎らについた感覚機を剥がしていく。脊髄は一世代前。視神経は中の下。免疫機構は安

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机

 小説を書かねばならぬ、と私は独りごちた。
「別に小説じゃなくてもいいんじゃない?」と彼女は言った。

*

 机を見繕いに行った。
 兎にも角にもまずは机である。机あれ、と神は宣い机を作りたもうた。机がなければメモをとることはおろか、本を置いて読むことも、肘をつくこともできはしない。いわんや小説を書くことをや。何をするにしろ、まずは机である。
 家具屋には山のような机が並んでいた。大きい机、小さ

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伯父の葬式 あとがき

伯父の葬式 あとがき

* こちらは『伯父の葬式』のあとがきです。購入いただいた方のみ閲覧可能となっております。二つ以上ご購入いただく場合はマガジンの購入がおすすめです。

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私の執筆環境

私の執筆環境

Ommwriter 最高 美しい背景とBGMにより、まるで雪原で執筆しているような気分に陥ります。さらに嬉しいのがぺこぺこいうキーパンチ音。これが気持ちいい。ハマると、キー入力する→気持ちいい音がする→さらにキー入力する、という好循環が生まれます。Ommwriterを起動してただひたすらにぺこぺこ叩いていたい。ぺこぺこ音を聞くためだけにOmmwriterを起動したい……そんな中毒性のあるエディタで

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ご無沙汰しております もう半年近く経とうとしておりますが今年もよろし
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2019年5月6日 #文学フリマ ス-40 雨は満ち月降り落つる夜 - 雨月物語×SF に参加しています 詳細は特設サイトまで https://www.sasaboushi.net/ugetsu/