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テキーラを飲みほして

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星漫画家さんの漫画を、小説にしました。 原作から私なりにアレンジしました。 両方お読み頂ければ幸いです。
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テキーラを飲みほして(1)

テキーラを飲みほして(1)

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春の風景はのどかで良い。子供達は砂場やブランコで戯れ、
子供達の黄色い声が聞こえてくる。

僕は勤めいた会社を一身上の都合で辞め、
今はバイト暮らし。
でも、そのバイトも昨日で打ち切りになってしまった。
そんな僕だけど、子供達の嬉しそうに、
はしゃぐ姿を見ているだけで心がなごむ。

公園のベンチに座り、バイト探しの雑誌を見ていると、
突然の女性の声。

「君、バイト探してるの?働いてないの?

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テキーラを飲みほして(2)

テキーラを飲みほして(2)

「ところで、大岸君は何歳なの?」

「僕ですか?24歳です。大学卒業したばかりです。」
と、何気に大卒をアピールした。

「そうなの、一流の大学だった?卒業したのは。」
「一流では無いです。・・・三流です。」
と、俯きながら答えてしまう。
「大学なんて、何処でも同じよ。
一流も三流もないわよ。
安心しなさい。」
と、陽気に言うのだ
…だったら、最初から一流なんて?聞くなよ…

「ここの店は働き易い

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テキーラを飲みほして(3)

テキーラを飲みほして(3)

「お爺さん、大丈夫ですか?」
時刻は午後の9時を過ぎた頃だ。

「大丈夫な訳無いよ。痛いよ。ケツ打ったみたいだ」
と、言う老人は見た目で70歳は過ぎている。
頭も禿げているし、足元もおぼつかない。
服装もみすぼらしい。
僕は心配になってお爺さんをおんぶして、
店に運んだ。
「この店はチョットマズいんだ・・・」
と、小声で言っているが、僕はその言葉を無視して中に入った。

「どうしたのこの人?怪我で

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テキーラを飲みほして(4)

テキーラを飲みほして(4)

あれから数日経ったのだが
メグミはこの店には現れる事は無かった。

ある日の夕方一本の電話が店にかかる。
見知らぬ男の声。
ママさんに用事があるみたいだ。
ママさんの携帯の番号を知らないと言う事は、
余り深い付き合いのない人かも知れない。

話すママさんの声が聞こえてくるのだが、
嬉しそうでもあり、沈みがちの声でもあり、
不思議な会話に聞こえた。
電話を終えた後のママさんが何だか嬉しそう。

「あ

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テキーラを飲みほして(5)

テキーラを飲みほして(5)

懐かしい彼の声、待っていた訳では無いけど、
何故か心が揺れてしまった。
彼と別れて6年経つけど、
まだ私、彼の事を愛しているのかな?
会う場所は、彼と何度も行った想い出のスカイレストラン。
あのレストランから見える夜景は、今も綺麗かしら?

会う時刻は午後8時ね。
まだ時間があるわ。

私は馴染みの美容院に立ち寄る。

いつも空いているお店。
待つこともないお客の少ない美容院。

「洗髪とセットを

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テキーラを飲みほして(6)

テキーラを飲みほして(6)

美容院を出たアスカは、彼の待つスカイレストランに向かう。
時刻は午後7時30分を過ぎていた。
まだ充分余裕があるわ。
こちらが先に入って待っていると、
何だか、惨めな感じがする。
5分ほど遅れて行こう。
と、姑息な想いがよぎる中、
アスカはタクシーに乗りこんだ。

AKグランドホテルこのホテルの8階に
スカイレストランがある。
想い出のスカイレストラン。

………この場所で、私は貴方のプロポーズを

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テキーラを飲みほして(7)

テキーラを飲みほして(7)

「乾杯しよう、・・」
と、彼は目を緩ませながらグラスを差し出す。

「何に乾杯するの?」
と、皮肉めいた事を言うアスカ。

「何って、まあいいじゃないか。
先ずは乾杯しよう。」

二人はワイングラスの酒を一気に飲み干した。
次々と運ばれて来る料理を食べながら、

少しずつ会話が進むが
過去の思い出話には一切触れずにいた。
それは彼にとっても、辛い過去であったからであろう。
世間話や現在のことなど、

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テキーラを飲みほして(8)

テキーラを飲みほして(8)

ママを送り出した後、僕達はお店で歓談していた。
「此処に、アスカの隠してある酒があるんじゃよ。」
と言いながら、洋酒が並ぶ中から一つの瓶を選び出す爺さん。
「これは年代物のテキーラだ。
アスカ用の酒じやよ。これを飲もうよ」

「いいんですか?ママに黙ってそんな物飲んでも」
と、心配になって僕は聞いた。

「黙っていれば解らんじゃろ。
そんな事気にしていたら、大きな男には成れんぞ」

と、訳の解らな

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テキーラを飲みほして(9)

テキーラを飲みほして(9)

「どうしたの、メグミ。店は閉店してるけど。何か用かな」
と、そっけなく言った
メグミの目に涙が滲んでいる。

「どうしたの、メグミ。何かあったの?」

「ヨウちゃんごめんね。私・・・・」
と、瞳をうるます。
「私、ヨウちゃんの事、今でも好きよ。
私ね、父親から強制されていたの、
あの人と付き合う事を、でも嫌なの、もう耐えられないの・・・」
と、言っている。
だが、酔った僕の頭にはその言葉が入ってこ

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テキーラを飲みほして(10)

テキーラを飲みほして(10)

…やっぱり何処にも行けなかった。
今日、あいつが私を誘ったのは、あの女の差し金ね
わざわざ、元嫁に見せつける為の策略。

それとも知らずに、私は・・・・。
本当に私ってピエロね。昔の夢を追い続けていた何て。
本当にお馬鹿さん。お人好しにも程があるわ。
これでキッパリと別れられる。
こちらから言うわ!あの人に
「グッバイ」てね。…

アスカはタクシーを降りて店へと向かった道で、以前会った娘に遭遇する

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テキーラを飲みほして(最終回)➕後書

テキーラを飲みほして(最終回)➕後書

「あら、皆んな楽しそうね。
お酒も飲んで、酔っ払ってサチコさんも、大岸君もではなくて、大木君だったわね。お父さんさんは酔っ払って寝てるし・・・」
と、言葉は穏やかだが、冷ややかな面持ちで話してくる。
サチコは酒に酔ってぼやけた顔だが、姿勢を糺た。
爺さんはうたた寝か、たぬき寝入りかのどちらかであろう、
姿勢を糺す事も無く寝ている。
「大木君、彼女の話を聞いてあげて。
最初から最後まで、解るかな、最

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