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二次元を極めたアニメーターによる三次元の日常への危うさへの警鐘?

エッセイ

今回は高畑勲のエッセイ「アニメーション、折りにふれて」を取り上げます。

高畑勲といえば、日本を代表するアニメーション映画監督です。

『火垂るの墓』
『おもひでぽろぽろ』
『平成狸合戦ぽんぽこ』
『ホーホケキョ となりの山田くん』
『かぐや姫の物語』

と聞けば、一度はご覧になったアニメもあるでしょう。そんな高畑勲のエッセイ集を私なりのズボラに読んでいきました的な記事です。

まず、お断り

本書を読んで、今一度自分の不勉強を恥じることになりました。たぶん、高畑勲の世界に入るためには、ある程度の"作法"が必要なようです。

そうですね、小林秀雄とか、加藤周一がスラスラ読めるくらいの知性があると深みが理解できそうな気がします。そんな、読解力が絶賛欠乏中の不作法者が読み進めたものとして、以下の記事を御笑覧ください。

(私見ですが、本書の文体は小林秀雄のような難解さはないと思います。)

描き続けたかった日本の原風景って?

エッセイ全般を通じて、アニメを含む日本文化について言及しています。その視点は見事だと思います。

高畑勲が抱いていたと思われる理想の"農村風景"を、私の知ってる風景で置き換えると、おかえりモネの舞台・宮城県登米市の風景でしょうか。

日本のあちこちで見かけた風景がこれまでの日本人の精神性を涵養してきたと思います。高畑勲は、日本の文化の根っこにある農業の必要性に着目し、SDGsの視点も絡めて、必要性を説いている点に同氏の思いが伝わってくる感じがしました。

読み進めいくにつれ、私からすると理想主義の耽美に浸りすぎている感があるものの、宮城県登米市の農村風景のような"原点"への回帰を求めていた点は、高畑勲の作品の背景や意図を読み解くのに必要だと感じました。

やはり対比せざるを得ない宮崎駿の存在

子どもが喜ぶ作品を…という思いは高畑勲も、また、宮崎駿も持っていたことは間違いないです。本書でも児童文学作家・石井桃子氏のテーマにした対談を見る限り、2人は同じ方向のゴールを向いていると思います。

しかし、その手法においては大きく異なっていたようです。

客観的にわかりやすい点はやはり興行収入でしょう。『平成狸合戦ぽんぽこ』と『千と千尋の神隠し』では、どちらも評価が高い作品ですが、興行的には千と千尋の神隠しが圧倒しています。

これを高畑勲の言葉を借りれば、"私小説的主観主義と映像を<思い入れ>"的な感情移入できる作品のほうが、"正常な想像力を働かせた<思いやり>"的な感情移入できる作品よりも、ヒットしやすいということでしょう。宮崎駿の方が主人公に<思い入れ>しやすい作品を作るのがうまかった、対する高畑勲は<思いやり>を重視した作品づくりが得意とも言えるでしょう。

事実、本書でも高畑勲がピクサーの「トイ・ストーリー」、かなり前の「ピノキオ」を絶賛しています。主人公はどちらも玩具であるため、同一視しづらい分、共感をしやすい作品だと思います。これらの作品に高畑が心を揺さぶられたことからすると、高畑勲は<思いやり>に重きを置いていたアニメーターだと言えるでしょう。

いずれにしても、個性や考え方が異なる高畑勲宮崎駿によってスタジオジブリの成功をもたらしたのみならず、日本のアニメーションを"文化"として輸出できるコンテンツに押し上げた立役者といっても過言ではないと考えます。

二次元を極めた男が伝えたかったことは?

数々のアニメーションを世に送り出した高畑勲を持ってして、"脳裏のイメージと映像の違い"に言及する際、

読書は想像力を必要とする能動的行為(p191)

と言っちゃうのが、ある意味確信の部分だと思います。

本書でも

文章が個々人の想像力によってイメージを喚起するものであるのに対し、映像化とは、その個々人の想像力を一旦は封殺し、一つのイメージを押しつけることを意味する。(p192)

と高畑勲が語るのは、本来なら伝えきれないニュアンス的な、雰囲気的な情景、人柄etc.を可視化するのが難しいということでしょう。

これが山田(仮名)の中の人の知的レベルに合わせるなら、

大晦日の笑ってはいけない◯◯のミニゲームで、千原ジュニアからお題を出されたときに、一人だけ違う解答をした結果、5人全員がチ◯コマシーンを喰らう

と翻訳されてしまいます。

閑話休題

ただ、想像する力というのをどのように育んだらよいのでしょうか? 高畑勲のような"イメージを具現化する"ことを生業にしてきた方からすれば、当たり前に考えることもできたでしょう。しかし、多くの凡人にそのチャンスはありません。

ただ文字列を読んだだけで、"原風景"をには辿り着かないのは明白…となると、どうするか?

…で私の思考が止まってしまいました。ここが私の限界ということなんでしょう。

結びに

稀代のアニメーション映画監督が諭してくれた物事を映像にする奥深さ、難しさとアニメ制作を手がけた人との出会いを知ることができました。

2018年にこの世を去った高畑勲の作品はこれからも受け継がれていくことでしょう。本書を読んでから、高畑作品を観ると、より想像力が膨らんでくるかもしれませんね。(了)

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