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情報リテラシー論 其ノ拾參
そんな感じだった。
終始彼はそんな感じで、結局このときの林檎くんは、『交差点で信号機が全て赤になる時間は三秒』というトリビアを僕に教えたかった、自慢したかっただけらしいのだけれど、そんな話から人生やら主義やら、果ては夢まで語ってしまうのが、林檎ヲ剥イテ歩コフという、十九歳の男だった。
世の中には色んな情報が蠢いていて、行く手を遮る全ての信号が赤色で。青信号を渡ってもクルマに轢かれるそんな世の
情報リテラシー 其ノ拾壱
「……ブラウン管のテレビなんか、もう概ね淘汰されちまったよ。意外と綺麗に映るらしいんだけどな。いまじゃあ液晶とかプラズマとかだ」
「はは。つまりはテレビも番組も、すっかり薄っぺらくなってしまったというわけですか」
「そんな批判めいたことは断じて言っていない。面白い番組はいっぱいある」
「そうやってフォローすることで、一体誰から愛されようとしているんです?晴人先輩。あなたが素晴らしい人間だから
情報リテラシー論 その拾
「平和な国で馬鹿みてーに生きる権利って奴が、人間にはあると思うがね。そのために数千年かけて進歩してきたんだろうが」
「それは日本独自の考え方ですよ。この国における宗教と言ってもいいでしょうね。断言してもいいですけれど、日本なんて国は千年後、存在してないと思いますよ」
「そんなもんどこの国でも同じだろ。同じ体制で千年持つ国なんかねーよ。歴史の教科書を読むまでもない、当たり前のことだ」
「そう、
情報リテラシー論 其ノ玖
「いや改まって言わせてください、これは結構面白い話なんですよ、晴人先輩。危険を示す赤信号で世界が満たされたときこそ、いつもより安全な時間であり、逆に安全を示す青信号で世界が満たされたときは、世界のどこよりも危険な場所が出来上がってしまうという矛盾ーーー危険信号というのは度を越してしまえば安全地帯を作り、その反面、安全信号が度を越してしまえばただの無法地帯を作り、三秒どころか一秒だって生存することは
もっとみる情報リテラシー論 其ノ捌
001 (土岐 晴人の場合)
「晴人先輩、交差点の信号が全て赤になる瞬間があるのをご存知ですか?」
である。
「なんだそりゃ。業者さんに点検でもされる時か?」
「いやいやもっと頻繁にあるんですよーーー晴人先輩だって毎日のように見ているはずです」
「毎日のように・・・いや、そんなものを見た覚えはねーぞ。つーかそんな現象が日常的に起きていたら、あちこち交通事故で大変だぜ」
「あちこち交通
情報リテラシー論 其ノ漆
005
神田彩美。
中学時代、この辺りの地区で、私と鎬を削りあった他校のバスケットボールプレイヤーだ。ライバル、宿敵と言った方がしっくりくるくらい、何度も何度も対決した。
はっきりと負けた記憶はないが、明確に勝った記憶もない。
私が速攻を得意とする攻撃型プレイヤーだとして、沼地はのらりくらりとしたディフェンスを得意とするバスケット選手だった。噂では、敵チームを完封したこともあるとか
情報リテラシー論 其ノ陸
004
「テレビなんか誰も見てなんかしないのさーーー日本では2018年にデジタル動画コンテンツの利用時間がTV利用時間を追い越している、十人いれば七人までは最新の情報をSNSやyoutubeで仕入れているーーー残りの三人のうち二人までがTVかな」
「・・・そして最後の一人が、こうして直接聞きにくる・・・のかな」
「いや、最後の一人は『聞いていない』。情報がこれだけ溢れかえっている今の社会だ
情報リテラシー論 其ノ伍
002
そもそもSNS自体に疎い私だがそれぐらいは容易に思い出すことができた。
Facebookである。
「そう、そのFacebookで最近知ったんですけどね、北海道の個人経営の書店で一万円選書なるものをやっているらしいんです」
ーーーなんでも世間ではやっているキュレーションの類なのだという。
困りごとや悩みごとを相談する感覚に近いのだろう。自分にあった本を一万円の予算で選んでく
情報リテラシー 其ノ肆
001 (杵淵 いちの の場合)
「あ、いちの先輩、ちーす、です」
・・・情報リテラシーを受けるために学校までの道のりを走っていた私の隣に横付けする、一台の自転車があった。
「おはよう、林檎ヲ剥イテ歩コフくん」
私は走る速度を落とすことなく、隣の一年生、自転車通学の青年に、朝の挨拶をする。
流石に自転車なので、労なく私に並走できるようだったーーーもっとも、私が全力疾走すれば、ママチ
情報リテラシー論 其ノ參
001(板垣 圭吾の場合)
人は真実を知りたがる。
あるいは、自分の知っているものを真実だと思いたがるーーーつまり真実が何かなどは二の次なのだ。最近の話だが、アインシュタイン博士の相対性理論によって保証されていた『質量を持つ物質は光速を超えることがない』という、まあ圧倒的な真実が崩れ去った。
ニュートリノなる、恐らくは善良なる市民のは知らなかったであろう物質は、光速よりもほんの少
情報リテラシー論 其ノ弐
001(浪白 大夢の場合)
このレポートを書くこととなったのは、十月の十二日、土曜日のことである。この日は全国的に台風の日だった。台風が好きな人でも嫌いな人でも、台風の対策をしている人でもしていない人でも、日本国民ならば誰もが平等に享受することになる、台風の日。いや、場所によっては台風の影響はほとんど無かったり、すでに通り過ぎた後だったかもしれないが、とにかく、十月十二日というこの日は、各地で
情報リテラシー論 其ノ壱
001
横田秀珠をこんな形で知ることになったのは、思えば不幸なことなのかもしれない。初めてあのいかにも生真面目そうな教授と対面したときには、まさかこんなレポートを書かされ、それで評価を受けるような関係になるなんて思いもしなかった・・・、『関係』と言ったものの、しかし、あの教授との関係性を、ぴったり表現する言葉というのは、少なくとも僕の語彙の中には見当足らない。
先生?敵同士?友達同士?監視