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日本人の恥晒し

「HとBと一緒にご飯食べるから。お前も一緒に来い。」
 
旦那の友人達との会食に、たまに入れてもらえるのですが、Hという35年來の同級生と、Hの幼馴染でタクシー運転手のBと一緒に、なんちゃらホテルのミシュラン☆レストランでご飯を食べると言うのです。

珍しモノ好きな香港の人たちは、時にホントに思い切った贅沢を楽しむ事がよくあるので、その時も、少しだけドレスコードは引っ掛かっていました。

非日常な贅沢をする時、香港の人は身の丈をスタンダードではなく、完全に
その贅沢空間にチューニングしてくる
ので、気楽なご飯会だと思って行ったら結婚式の二次会並みの正真正銘の「イブニングドレス」を着て来たりして驚かされた事も何度もありました。

が、旦那Kは私がフォーマルな恰好をするのをすごく嫌がります。
自分がこれ以上ないほど 「Mr.カジュアル」な彼は、私がシャツやスーツ程度の服装さえ「ロボットみたい」と言うのです。しかも化粧すると
「そんな塗り絵みたいな事しやがって💢」
と声を荒げ、その結果!

私はKの友達と食事に出かける時は殊カジュアルな服装をするようになってしまいました。
K曰く「さすが日本人、きちっとしてる」とか「さすが日本人、なんかちょっと一味違う」的なプレッシャーとか堅苦しさ、ただの文化の違いさえも
友達に感じさせたくないそうです。

(いや~アンタはそうかもしれないけど、誰もそこまで深く考えちゃいないだろうよ┐(´д`)┌ヤレヤレ)


気の遣い方を完全に間違っているだろうと思いつつも、
だからとにかく「ジーンズにしろ、化粧するな」の一点張り。

私ももうアラフィフなんだけども・・・。まあ元々、化粧はめんどくさいタチだからノーメイクにも全く抵抗はないけれども・・・。

私だって非日常を存分に楽しむのに、そこそこの恰好をしたり、その場のTPOに合わせるのだって楽しみの一つなのに、という気持ちを持ちつつ、その日もKと一緒に、パーカー、ジーンズというラフな格好で出かけました。

同級生のHは奥さんがバリバリのキャリアウーマンらしく、
その奥さんと一緒になってから経済的にすごく潤っているらしく、そのミシュラン☆レストランも相当常連な口ぶりでした。

レストランに着いて、案内されながら目に入る人達が、誰一人としてジーンズ姿じゃないという視覚情報が一瞬で私の脳に伝えられてきました。
しかも、その中を斜め横断するように案内のウェートレスが向かったのは、お店の一番奥まった所にある個室。

いやな予感が漂う間もなく、ドアが開かれると、12人用の大テーブルが、広い部屋の中にポツンと一つだけある、どう見てもVIPルームな個室で、その大テーブルにHとBの二人がポツンと座っていました。

HはKと私が入っていたのを見ると、さっと立ち上がって
10数年前、Kと結婚間もない頃に一度顔を合わせただけの私に
「やあユウ!久しぶりだね」と、テーブルの向こうからエアハグとばかりに両手をいっぱい広げました。
白いパリっとしたシャツにアーガイル柄のセーター、黒のスラックス、そして部屋なのにベレー帽をかぶったままのオシャレな(?)H。

室内でも帽子をかぶったままのHに、昔は帽子とかスカーフとかファッション小物を好んで身に着けていた自分を思い出します。
(それもKが「醜いヤツほどこじゃこじゃ飾り立てる」と罵られ続けて
すっかり身に着けなくなりましたが。)

 何か、そのドラマを演じているかのようなHの大袈裟なアクションと雑誌に載ってそうな服の組み合わせに、私は一瞬でタジタジっとなりました。Hのバリバリキャリアウーマンの奥さんも今、勤務先からこちらに向かっているとの事。

席について、12人用テーブルに椅子を一つずつ空けて4人が離れ小島のように座っても、さすがに個室。周囲のガヤガヤが完全に遮断されて声を張り上げずとも会話できちゃう快適さ。

 香港は余り周りの迷惑を考えて声を控えるとか言う事がないので、たとえそれなりに高級なレストランで四人テーブルに座っても声を張り上げないと、声が聞き取れないということは日常茶飯事で起こります。

15分ほど歓談していると、Hの奥さん到着。
香港なら誰もがしってる「ナンチャラ集団」の社長秘書の奥さんは、社長秘書なだけあって、気配りも言葉選びも素晴らしく、しかも饒舌。「Theデキる女性」という感じで、場が一気に華やぎました。

すると、そのタイミングで料理長が部屋に挨拶に。

H夫婦と今日のおすすめはなんだ、とかどんな料理方法にしようか、という打ち合わせが料理が出てくる度に繰り広げられました。私も会社員時代はVIPルームでの食事も何度か経験してまいりましたが、料理長がこんなに、まるで自ら料理を運んでくるかの如くに何度も何度も部屋に来るという状況を初めてみました・・(*_*;

海鮮料理も大皿料理では出てこないで一人一つずつ。


エビ二式。つまりエビを二種類の調理法で調理した料理。右が鼓油王(所謂しょうゆ味)、左が塩漬け卵黄ソース)素晴らしく美味しかったけどこれも一人一つずつ。ていうか5人いるのに四つずつしかない・・・。

ホントは10種類の料理を食べましたが、なんか写真を撮るような雰囲気じゃなくて、隠し撮りするように撮ったなけなしの三枚。

パパイヤのデザート

ああああ、こんないい個室で、こんないい料理を食べる事なんて、もう滅多にないのに、どうしてこんな格好で行っちゃったかな~。

と言いつつ断捨離し過ぎてきちんとした服がそもそもない事に気づく…。

でも、さすがに10数年も経ってKの罵倒攻撃にもようやく慣れた私。
もうそろそろ「日本人」を取り戻しましょうか。

密やかにそう決意したご飯会でした。


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