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サイエンスフィクションとしての「けものフレンズ」を考察する

今回は、「けものフレンズ」について書いてみたい。
この作品はもはや伝説級ゆえ(色々な意味で)、ほとんどのアニメファンがこれを見てると思う。
2017年の作品だから、あれからもう7年も経つのか・・。
元々はゲーム原作モノらしいけど、アニメとしてはたつき監督のオリジナル設定だったっぽい。
実に秀逸な世界観。
けも耳美少女というのはアニメでもゲームでも普通に存在するものであり、その成り立ちについて誰もいちいち考えたりしなかったからね。
でも「けものフレンズ」はその成り立ちについて、サンドスターという謎の粒子に触れると動物がヒト化する、という大胆なSF設定を持ち出してきたんだ。
ファンタジーに見えて、実はSF。
実際、この作品は日本SF大会主催の「星雲賞」を受賞してるわけだし、SFという認識で間違いないと思う。

「けものフレンズ」

物語の舞台は「ジャパリパーク」。
ここは、ヒト化した動物「フレンズ」と人間たちとが触れ合うコンセプトの動物園だったっぽい。
ところが、ある時期からサンドスターと無機物とが融合した「セルリアン」というモンスターが異常発生し、職員たちはパークを放棄して退避。
パークは、そのまま放置された。
「すぐに帰ってくる」と言ってた職員たちも帰ってはこず、一説には「人類は滅んだ」という話もあるが、それも真実かはよく分からん。
つまり、この世界はポストアポカリプス
という割には、パークではシステムとしてジャパリ饅という食糧がちゃんと供給され、フレンズたちがノンキに暮らす不思議な生態系が保たれている。
ただし、パーク内に相変わらずセルリアンが徘徊してるわけで、一説によると、これに吸収されたフレンズは元の動物の状態に戻る、とやら?
その機能を考えると、セルリアンはモンスターというより「リセット装置」みたいだね。

セルリアンに立ち向かうサーバルちゃん

なんていうかさ、私はこの作品に、どうしてもキリスト教的な世界観みたいなものを強く感じてしまうのよ。
これは私の勝手な印象であり、たつき監督の意図したところと少し違うかもしれないけど・・。
まずそれを感じたのは「ジャパリパーク」という環境そのもので、これって明らかに楽園だし、つまりモチーフは「エデンの園」じゃないの?と。

エデンの園

ジャパリパーク=「エデンの園」説。
じゃ、旧約聖書を少し思い出してみて。
アダムとイブが知恵の実を食べちゃう前までのエデンの園は、ヒトも動物も皆等しく平等で、争いもなく、まさに楽園そのものだったのさ。
これ、カバンちゃん(ヒト)がサーバルちゃん(フレンズ)たちとも仲良くしてる「ジャパリパーク」の今の状態とほぼ同じであり、つまり神様視点としては、世界を元の状態(正常な状態)に戻した、リセットをした、ということになる。
そもそも、かつてヒトがなぜ楽園を追放されたのかというと、それは知恵の実を食べるという原罪を犯したからさ。
で、福音書では世紀末にアポカリプスが到来すると預言されており、それで全てリセットする、という話だったよね。
つまり、今の状況はアポカリプスが起きた後、とも推察できる。
パークの動物たちはヒト化したとはいえ、原罪を背負ったヒトとは異なり、ヒトのような「騙す」「殺す」「盗む」などの狡猾な要素は全くない。
よく言えば皆いい子ばかり、悪く言えば皆アホばかり。
総じて毒がなく、パーク全体がほのぼのしている。
そしてヒトのフレンズ化であるカバンちゃんもいい子で、他のフレンズたちとも仲良く交流し、ここも非常にほのぼしている。
これが「楽園」でなくて、一体他の何だというんだ?

カバンちゃん
サーバルちゃん

あと、フレンズは女子ばかりで、性別が一種しかないというのもポイント。
これもまた世界に差別がない一因となってるようで(生殖方法は不明だが)これこそがエデンの園、楽園というもの。
ひょっとしたら海の向こうの都市部も、そうなってる可能性もなくはないね。
アポカリプス=世界楽園化計画?
セルリアンはヒトの近くに出現する傾向があると博士から説明があったし、その狙いはヒトのフレンズ化、つまり原罪(知恵の実効果)のリセットなのでは?
あるいは、都市部でもヒトの多くがフレンズ化してアホになりつつも(笑)、一応は生きてる可能性もあるんじゃないかな、と。

あと、もうひとつ考えられる設定は、ジャパリパーク=「ノアの方舟」説。
アポカリプスの到来に備え、地球環境の保存として動物たちを巨大な宇宙船に定住させた、という可能性もなくはないんだ。
ジャパリパーク=実は巨大宇宙船内
この荒唐無稽な世界観は、たつき監督の別作品「ケムリクサ」における設定そのまんまである。

「ケムリクサ」

この作品でもまた、世界観はポストアポカリプスだったのよ。
途中で観覧車とか出てくるから、「うわっ、これって『けものフレンズ』の世界線と繋がった未来?」と一瞬思ったが、その後の展開を見る限り、そういうわけでもないっぽい。
こっちの世界観は「けものフレンズ」より明確に表現されており、ちゃんと創造主の存在まで明示されていた。
一応、「けものフレンズ」でいうところのサンドスターに該当する要素が、この作品ではケムリクサということになるのかな?
このケムリクサは明らかに自然物でなくテクノロジーの端末であり、それを思うと「けものフレンズ」のサンドスターもまた、自然物ではない、創造主によるテクノロジーという可能性は否定できない。
ちなみに、「ケムリクサ」ではアカムシとか赤い霧とかが出てきて、ようはそれが一番の天敵なんだが、そのルーツは人為的に作られた「ケムリクサを無効化する装置(赤いケムリクサ)」だったわけね。

アポカリプスの原因は、「最初のヒト」リリが悪気なく作った赤いケムリクサだった

元々は、人為的に作られたにすぎないリセット装置。
それが作成者の想定を超えて暴走をしたもんだから、最後はアポカリプス級にまで発展。
この設定、ひょっとしたら「けものフレンズ」のセルリアンもまた同じことかもしれない。
これも、元々は人為的に作られた「サンドスターを無効化する装置」だったのに(それゆえフレンズが吸収されると元の動物に戻ってしまう)、それが作成者の想定を超えて暴走してしまって、最終的にはアポカリプス級「黒いセルリアン」にまで成長してしまった、と。
う~む、この両作品は世界線が繋がってるわけではないにせよ、やはり設定そのものは根っこが似てるのかも?
前述のように、「ケムリクサ」ではこの世界=実は巨大宇宙船の中、という設定だったわけで、「けものフレンズ」もそうである可能性は否定できないと思う。

パーク職員・ミライさんとサーバルちゃん(?)が映った、アポカリプス以前の映像記録
ミライさんとサーバルちゃんは、「ケムリクサ」でいうワカバとリリのような関係だったのでは?
ミライさんの映像を見て、彼女に会った記憶はないのになぜか涙が出てきたサーバルちゃん

サーバルちゃんは「ケムリクサ」のワカバ同様、記憶を失ってるパターンだよね。
考えられるのは、1回セルリアンによって元に戻り、その後で再びフレンズ化した、という流れか?
このへん、たつき監督は本来2期で描くつもりだったんだろうなぁ・・。
こういうパターンは、サーバルちゃんの失った記憶の中に非常に大事なことがあるはず。
ひょっとしたら、それは消えたミライさんが復活をできるカギなんじゃないか?
「けものフレンズ」にせよ「ケムリクサ」にせよ、一番事情をよく知ってるはずなのが
・けものフレンズ⇒ミライさん+サーバルちゃん
・ケムリクサ⇒ワカバ+リリ

という各々の2人組なんだが、片方は消滅し、もう片方は記憶を失っているというコンビの構造もまた、両作品では共通している。

サーバルちゃんのカバンちゃんへの熱い友情は、過去のミライさんとの潜在的記憶がベースかと
(カバンちゃんはミライさんの複製ゆえ)
リンのワカバへの「好き」の気持ちは、これも過去のリリの潜在的記憶がベースかと
(リンはリリの複製ゆえ)

もはや、このふたつの作品は共通プロットと解釈していいと思う。
・けものフレンズ⇒動物の擬人化
・ケムリクサ⇒植物の擬人化

という違いこそあれ、基本的な部分はほとんど同じなんですよ。
何にせよ、たつき監督が「けものフレンズ」2期をKADOKAWAの判断により降板させられ、作中最も重要な伏線回収になるはずだった「サーバルちゃんの過去」編が封印されてしまったのは大きな損失である。
この悔しさを乗り越える為にも、ここはひとつサーバルちゃんのアホっぽい動きをお楽しみください。

あ~、サーバルちゃんはやっぱりイイ!

ちなみに、あまりにも悪い評判を事前に聞いちゃってたので、私は「けものフレンズ2」を一度も見ていません。
もともとの設定を考案した人が関わってない以上、真似て制作してもそれは偽物だし、見てもしょうがないじゃん。
多分、今後も見ないと思うなぁ・・。


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