見出し画像

運動連鎖の色眼鏡でハンドボールのスローイングを見る!

文献情報

タイトル
Throwing speed in team handball: a systematic review

著者
Helena Vila & Carmen Ferragut

ジャーナル
International Journal of Performance Analysis in Sport Volume 19, 2019 - Issue 5

リンク
https://www.researchgate.net/publication/334795261_Throwing_speed_in_team_handball_a_systematic_review

この研究の現場への活かし方


 今回のこのレビュー論文では,64本ものハンドボールの投球動作に関する研究をまとめ上げた.

 ハンドボール以外にも投(球)動作は,これまで多くのバイオメカニクス的研究がなされてきた.その中でも,多いのが野球のピッチング動作であり,投球速度の向上や制球力,肩や肘の傷害予防などの観点から様々な知見が得られてきた.ハンドボールにおいても,野球の研究数よりは少ないが,多くの研究がなされている.

 少し残念であるのが,投球腕や体幹の動きに着目したキネマティクス(位置や角度や速度など)的な研究がほとんどであること.一方で,ボールに加えられた力やパワーという観点からキネティクス(力)的研究はあるものの,投球腕などに着目してその関節トルクなどを報告した研究は非常に少ないのが現状だ(若山ら, 2014; Hillary et al., 2016; 鈴木ら, 2020).今後は,両面の研究が増え,さらに”ハンドボールの投球メカニズム”という霧が晴れていくことを期待したい!

 さて,今回は「ハンドボール競技のオーバーハンドスローのキネマティクス」について散見していこう!
 
 多くの方は,「しなりのある鞭のようなスイングから生み出される豪速球シュート」を目指しているだろう.昨今では,ハンドボールの指導現場でも,「もっとしなりが〜」なんて言われることが増えたのではないだろうか?

 では,皆さんは「しなりのあるシュートとは?」と聞かれて,なんと答えますか?恐らく,多くの方が答えられないか,〇〇選手のようなシュートのように代表例を挙げるしかできないだろう….これは,野球の投手指導者にもあることなのではないかと個人的には感じている.

 実はスポーツバイオメカニクスでは,投動作によるしなり動作は明確に表現し切れていない.様々な手法から,数値計算を行い,定量化にこれまでの偉大な研究者たちが取り組まれてきたが,その動きを評価する方法は未だ確立されていないのだ.

 非常にベーシックな評価方法では,投球腕及び体幹部の線速度のピーク速度タイミングの位相ずれで評価する方法やそれを角速度で実施する方法などがある.ハンドボールでも,上述の方法で,いわゆる「しなり」が評価されてきた(アカデミックでは,「しなり」という言葉は使用されることはないのだが).ハンドボールの研究では,投球腕及び体幹部のキネマティクスから「P-D sequence(近位から遠位への連続性)という考え方のもと,検討がなされてきた.野球の投手を対象としたPutnam (1993) の研究では,「P-D sequenceは速投におけるパターンの1つである 」されており,これはテニスやハンドボールにおいても同様の報告がなされている(Marshall & Elliott 2000; Wagner et al., 2011 ).
 
 しかし,いくつかのハンドボールの投球動作を対象とした研究では,そのP-D sequenceがみられないという報告がされている.

 つまり,この最大線速度や最大角速度の位相ずれを時系列でみていく評価方法による「しなり」は,ことハンドボールにおいてはそのようなパターンでなくても球速も高いし,ハイパフォーマンスであるということだ.しかも,上記のような報告をしている研究の被験者の多くが,国を代表する選手であったりと,非常にレベルの高い選手を対象としている.

 したがって,「ハンドボールのシュート動作では,そこまで腕のしなりに固執する必要なくね?」という結論に鈴木個人では至っている.

 だが,ハンドボールのシュート決定率には,ボール速度が大きな影響を及ぼす.単純にその選手が発揮できる球速UPは,シュート決定率に大方直結するだろう.大胆にいうと,「球速は正義である」とまで思っている.

 しかし,これをいうと多くの方が,「ハンドボールのシュートで大切なのはGKとのかけ引きだ!ボールが速いだけではダメだ!」と反論が待ち構えているだろう.私もそれは否定もしないし,むしろ肯定する.しかし,ハンドボールのシュートは男子のトップ選手では100〜120キロほどの速度でシュートされるが,これが70キロ程度しかでない選手いたとすれば,どれほどまでその駆け引き力を身に支えなければならないのだろうか.

 日本のハンドボールの多くの指導者は,このような戦術的なシュート指導には長けているが,残念ながらボール速度を伸ばす!という観点で投球動作を指導している方は,自分はまだ会ったことがない.かと言って,ボール速度を高めるために「ベンチプレスやっとけ!」というアホな指導をして,本当にボール速度は伸びるのだろうか?やはり,試合状況にフォームは左右されるからと言って,きちんとしたフォーム指導をしない限りは,根本的な課題解決にはならないと考える.

以上!

この記事が参加している募集

部活の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?