煙の向こう側 8話
毎日のように嘉子から電話が入っていた。
嘉子は山名良二の妻、つまり和の父の後妻である。
とにかく会って欲しいの一点張りである。
和はどうしたらいいのか、わからなくなっていた。
ただ『お父さん』という言葉だけが頭の中をグルグル廻っていた。
やがて、父とドライブしたこと、大好きなクマのぬいぐるみを買ってもらったこと、一緒に写真を撮ったこと、堤防に座って食べたソフトクリームのこと。父との思い出がそうたくさんあるわけではなかったが、三十年近く封印してきた父の記憶が一気に噴き出し頭の中