マガジンのカバー画像

掌編/短編小説

67
基本的に連作ではない小説をまとめています。日常から一歩だけ外れた世界、そこらへんに転がっている恋、病とふだんの生活、鬼との友情なんかを書いています。
運営しているクリエイター

#短編小説

【掌編】 ズルはダメだよ

【掌編】 ズルはダメだよ

「ズルはダメだよ」

先日、同僚の茉莉から借りた漫画で「ズルはだめだよ」というセリフがあったことをふと思い出した。サダキヨと言う少年はいつもお面をつけていて、小学校時代のケンジくんに言うのだ「ズルはダメだよ」と。

🍙🍙

金曜日、朝6時半。東京の下町にある1DKの狭いキッチンに立って、横溝さんのためにお弁当を作っている。半袖シャツの上にエプロンはつけない。長いストレートの髪を頭の高い部分でき

もっとみる
【掌編小説】ディア シスタ

【掌編小説】ディア シスタ

お姉ちゃんばっかりずるい。

幼少期のわたしの口癖だった。
お姉ちゃんばっかり褒められてずるい、お姉ちゃんばっかり新しい服買ってもらえてずるい、お姉ちゃんばっかり可愛がられてずるい。

姉はわたしのすべてを上回る存在だった。顔も、偏差値も、運動神経も、むかしはおっぱいだってお姉ちゃんのが大きかった。
家に連れてくる彼氏もガタイが良くて顔もいい男だった。趣味フットサルとか言ってたな。
わたし

もっとみる
【掌編小説】臓物屋「ますだ屋」

【掌編小説】臓物屋「ますだ屋」

臓物屋「ますだ屋」の朝は早い。
まだ夜も開けないうちから、俺は臓モツの仕入れのため、バンを飛ばして臓物卸売り市場へと向かう。
「ますだ屋」は俺が30歳になったとき、晴れて父親から店を受け継いだものだ。店主になって5年経つ。

市場に到着すると、台の上にいくつもの金属桶があり、モツの種類別に並べられている。
俺は目を皿のようにしてみずみずしい臓物かどうか見極める。
ナマモノを扱う上で一番大切なのが目

もっとみる
【掌編小説】赤鬼、吼え

【掌編小説】赤鬼、吼え

武雄を乗せた軽自動車に雷が落ちたのは、6月のある豪雨の晩のことだった。

恐怖のあまりに失神した武雄が次に目を覚ましたときには恐らくは翌朝だろう、見知らぬ民家の布団に寝かされていた。

もしかして誰か俺を助けてくれたのか。

枕元には武雄の服が畳んで置かれていた。服を嗅ぐと柔軟剤の良い香りがする。どうやら洗濯してくれたらしい。

昨晩着ていた服の代わりに武雄にはバスローブが着せられている。

もっとみる
【掌編小説】わたしのおうちはどこですか

【掌編小説】わたしのおうちはどこですか

私のおうちに帰りたい。
さっき会社で佐藤まなと言い合いをしました。二個上の先輩、佐藤まなは彼女と同期の大石先輩のことが好きで、それは堂々と公言してるから周知の事実。大石先輩も否定すりゃいいのに悪い気がしないのかへらへらして、でも2人は付き合ったりはしない。お付き合いしていることは断固拒否している。2人を見ると本気で腹が立って関節技きめたろかこの女と思うことはあるけど、わたしは大の大人だもの。そんな

もっとみる