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「良いものを安く売る」のは正しいのか?

前回は、私の前職での経験から、サービス残業がいかに非人間的な働き方で、しかも日本経済にとっても損失であるという話を書きました。

従業員にサービス残業を強制している会社は、「納期に間に合わないんだから、スピード違反しても仕方がない」と言っているようなものです。

今回は、サービス残業の温床となっている制度について書きたいと思います。


固定残業制は誤解が多い

固定残業制とは、固定給の中にあらかじめ残業代が含まれているという契約です。
大きく分けて二つあります。

①みなし労働時間制


実際に働いた時間とは関係なく、一定の時間働いたものとして扱う制度です。みなし労働時間制では、実際の労働時間がみなし労働時間を上回った場合でも、上回った時間分の残業代は基本的に支払われません。

みなし労働時間制は、「事業場外みなし労働時間制」「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の3つに分けられます。これについては別途詳しく述べます。

②固定残業制


従業員が残業することを想定して、定額の残業代(みなし残業代)を支払う制度です。基本給や歩合給に残業代を組み入れてしまう「組込型」と、営業手当や編集手当などの名目で一定額を払う「手当型」があります。
例)
・基本給20万円、20時間分の残業代を含む
・基本給30万円、うち2割は残業代 など

固定残業代は職種の制限なく、さまざまな会社が導入できます。

固定残業制を採用していても、従業員が想定残業時間を上回る時間の残業をした場合には、会社は残業代を支払わなければなりません

固定残業制は、誤解を招きやすい制度です。
「みなし時間の分は残業しなければならない」
「固定残業時間を超えても残業代はもらえない」
「固定残業代を採用している会社は、従業員の労働時間を記録しなくてもいい」
などは、いずれも誤りです。

しかも、会社が固定残業制を導入するには以下の条件を満たす必要があります。
・労働者と使用者の間で、「固定残業制を導入します」「いいですよ」という合意がある
・賃金のうち「残業代とそうでない部分」が明確に分かれている(明確区分性)
・会社は、「超過分の残業代は支払いますよ」と合意している

こうした条件は守られているでしょうか?

会社はとにかくコストカットしたい

覚えておかなければならないのは、会社というのはなるべく残業代を支払いたくないということ。

もし求人票に「基本給35万円」と書いてあっても、実はそのうち10万円が固定残業代だということが後からわかったら、どうでしょうか。

本来ならば基本給として支払われる金額なのに、勝手に一部が削り取られ、固定残業代になっているとしたら、会社は残業代を払ったことにできます。

一方で、本当に「基本給35万円」ならば、基本給に加えて残業代も受け取れるので、もらえる金額は大きくなります。

入社して初めて「基本給は25万円で、10万円は固定残業代でした」というのは求人詐欺です。そしてそういう会社は、超過分の残業代は一切払いません

こういう、子ども騙しのような手口ながら悪質な求人詐欺は多いです。

そして、人件費削減が当たり前のように行われているから、日本では質の良い商品やサービスが破格の値段で手に入るのです。

日本では、「良いものを安く売る」のが良いことだと言われてきました。
しかし、「良いもの」の影には「人」がいます。
その「人」は、何年、何十年もかけてその職業における知識やスキルを積み上げたプロフェッショナルです。

そうしたプロの知識やスキルが、あまりにも安く売買されすぎではないでしょうか?

人件費削減が当たり前、だから商品やサービスも安くて当たり前という社会から、
労働に対して正当な報酬を受け取ることができ、商品やサービスが適正な価格になる

こういう社会に変えていくべきではないでしょうか。

(※物価が上がってしまったら実質賃金は上がらなくなるのでは? という疑問へのアンサーはどこかで書きます)

残業代を払ってもらうと会社は潰れるのか?

「残業代を払うように交渉したら、うちの会社は潰れるのでは…?」と思う人がいるかもしれません。

しかし、適法にしただけで潰れる会社は、そもそも経営がおかしいので、いずれ潰れます。

残業(時間外労働)代は60時間以下ならば、割増賃金率は25%です。
60時間を超えた場合、大企業ならば割増賃金率は50%。

一方で中小企業は、60時間を超えた場合でも割増賃金は25%でした。
しかし2023年4月1日に労働基準法が改正され、中小企業であっても月60時間を超えた場合、割増賃金率が25%以上から50%以上に引き上げられました。

残業をしても、2.5割あるいは5割増しの生産性を上げられれば、会社はモトを取れます。

しかし正直なところ、それだけの生産性を上げるのは厳しいと思います。
だからこそ、経営者は時間外労働を当てにしてはいけないし、従業員に残業をさせてはいけないのです。

働き方の改善は従業員の個人的な努力ではどうにもならないので、会社がやらなければなりません。

残業が発生する場合、その社員の能力が足りないのか、仕事が多すぎて人手が足りていないのかを考える。人数に対して仕事量が多いなら、儲からない仕事は削り、生産性の高い仕事に集中させる。

業務を見える化して、一部の人に業務が偏っていないかをチェックし、必要なら割り振りを考え直す。

いずれもマネジメント層がやることです。

経営者の意識から変える必要がありますし、意識が変わらない経営者は、もう不要なのです。


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