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夏目漱石『こゝろ』

夏目漱石の『こゝろ』。
読み進めるのが遅い私だけれど、割と一気に読み終わった。それぐらい面白かったのだと思う。
有名な作品。だからこそ、きっと文学的にも優れているのだろうし、私なんかが改めて「面白かった」だなんて言う必要もないと思うのだけれど。

ただ、読後感というのか、読み終わった後の私は大変だった。物語の世界から全然抜けられなかった。なんというか、人間のただ綺麗なだけではない感情や精神の根本だったり、そういったものの複雑な動きに、見事に吸い込まれていった。
登場人物に感情移入したり、物語の中で見た光景や、やり切れなさと切なさが頭と心から離れなかったり。しまいには、どうすれば事態は別な方へ向かったのか、あの場面でどう言えば良かったのかまで考えてしまっていた。
普通は、読み終えて本を閉じたら、ぱっと現実に帰ってくるものなのだろうか。切り替えの苦手な私だから、そうなってしまったのか。
分からないけれど、とにかく、物語の世界から抜け出すためには寝るしかなく、お風呂も入れずその日は寝てしまった。

私は本の知識や読書の経験もかなり少ないので、作品を文学的にも経験的にも評価することは出来ないのだけれど、この私の読後の様が、夏目漱石の凄さを表しているのかなと思う。物語の中へ引き込む力、その中を遊泳する様な或いは溺れる様な奥深さが、作品にあるのだと思う。

それにしても、私は家族にも友人にも主治医にもよく、「考えすぎないで」と言われる。実際、それが病的になっている。だから考えすぎないように努めているのに、その反面、興味を持って触れた作品はだいたい深く考えさせられるものが多い。そしてそれが好きだ。「長所と短所」が紙一重だったり表裏一体だったりする様に、好きなものと嫌いなものも決して切り離せないものなのかも知れない。というか、避けるべきものにどうしてか、こころが囚われる。このこころのメカニズムは、自分でもまだ分からない。