ハイドラ

与える女/海蛇の娘 アネシドラ・ハイドラ

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与える女/海蛇の娘 アネシドラ・ハイドラ

マガジン

  • 連載『Swinging Chandelier』

    2022年11月より連載中。 「揺れる、ままならない、夜と朝。これは生き続ける女の物語」

記事一覧

単発小説『贖罪コンビニエンス』

贖罪コンビニエンス  くたびれた眼差しをあげたその先に光っているのは、駅と家の間の道すがらにあるコンビニだった。もうすぐ十二時をまわる路上に人通りは少ないが、出…

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ハイドラ
3週間前
6

Swinging Chandelier:13-オディール≠オデット(上)

Swinging Chandelier:13-オディール≠オデット  会社には偽物の観葉植物がある。ぜんたい、ぷにぷにとしていそうで葉の先端は尖っている。それは窓に面した通路に置かれ…

ハイドラ
1か月前
4

お茶代課題2月ヒョーロン部門『J-POPまもるくんの謎』

※有料設定ですが全文無料で読めます。  脱輪さんが主催する文芸サークル"お茶代"の2月の課題に挑戦しました。  テーマは「守る」歌詞。  今回私は主に「守る/守りたい…

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ハイドラ
2か月前
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「エモい」は、
「えも言われぬ」い、んですか?
「エモーショナル」い、んですか?

ハイドラ
2か月前
1

『哀れなるものたち』
あふれだす五感の情報に気持ちよく振り回されたくなるのですが、ここぞというところで思考する場所に引きずり出される。そんな映画です。
#哀れなるものたち

ハイドラ
3か月前
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Swinging Chandelier:12-孟買青玉

 鍵を閉める。外の廊下を歩いて階段を降りる。駅まで十分と少し。肩にかけた鞄はうちの会社に登録してくれている革職人のセミオーダー品。オフィス用のモデルは軽めでパソ…

ハイドラ
3か月前
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Swinging Chandelier:11・下:最高の日曜日

 捨てる。棄てる。  とにかく、すてる。  いつも渡すアカウントに登録された名前、郵便受けに溜まるダイレクトメール、他人の体温。  いつもみたいに「可愛いね」と…

ハイドラ
5か月前
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Swinging Chandelier-11・上:土曜の夜

 鏡の前に立つ。あまり大きくはならなかった乳房、ジム通いで絞った腰、尖った肩、一五〇センチとあと少しあるかわからない背丈。作り込んで、いや作り物めいているから、…

ハイドラ
5か月前
5

感覚するということを認識するということ。自覚された身体、躯。

ハイドラ
7か月前
2

うつし世――遠く近くにあるもの

 わたくしは、陸で生まれた人魚でございました。  わたくしが髪を長く伸ばしておりますのは、帰れぬと知る海にいつか帰る日のために、その道標を見失わぬようにという、…

ハイドラ
7か月前
6

Swinging Chandelier:10 赤い夜

Swinging Chandelier:10赤い夜  大貫たちの会社とのコラボ企画も動きが少し落ち着いてきて、それ以外にも企画イベントなどは特になく、内勤だけで済む期間にいる。ジムに…

ハイドラ
7か月前
4

Swinging Chandelier-9:まばたきの回路

Swinging Chandelier-9:まばたきの回路  森は陰になって、樹々もしんと黙ったようでいる。  その淵から、ひらけた場所を見ている。  小鳥が歌いながら飛ぶ、晴れた空…

ハイドラ
8か月前
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単発小説『ダウンタイム』

 あの二人は好き合っているくせに、向き合ってつがうことができなかった。好き合っているくせに、同じ性別でつがうことを、許容できていなかった。  だから間に私を挟ん…

ハイドラ
10か月前
4

Swinging Chandelier : 8-カナリア

Swinging Chandelier: 8-カナリア  二度目の打ち合わせはわたしと大貫の二人で、場所は向こうの会社の、オフィスから直接入れる少人数向けの会議室だった。壁と入り口の…

ハイドラ
10か月前
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Swinging Chandelier:7 ブライズメイド・下

Swinging Chandelier:7 ブライズメイド・下  カツコツと、ヒールが踵に響く。カツコツと、最寄駅から自宅までの道のりを歩く。十一時近い駅前のビル風を浴びながら、歩く…

ハイドラ
1年前
3

認識するということを認識し続けています。そこに終わりはなくそれはあらゆる方向にのびる血流です。

ハイドラ
1年前
3
単発小説『贖罪コンビニエンス』

単発小説『贖罪コンビニエンス』

贖罪コンビニエンス

 くたびれた眼差しをあげたその先に光っているのは、駅と家の間の道すがらにあるコンビニだった。もうすぐ十二時をまわる路上に人通りは少ないが、出入り口の脇には光に吸い寄せられているかのように二、三人、十九歳くらいの子達が何か食べたり飲んだり煙草を吸ったりしながら地べたに座り込んでいて、それはなんだか肩を寄せ合っているように見えた。そしてその光景を、五十歳くらいの会社員っぽい服装の

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Swinging Chandelier:13-オディール≠オデット(上)

Swinging Chandelier:13-オディール≠オデット(上)

Swinging Chandelier:13-オディール≠オデット

 会社には偽物の観葉植物がある。ぜんたい、ぷにぷにとしていそうで葉の先端は尖っている。それは窓に面した通路に置かれているから、毎日目に入る。
 浮島と、わたしたちは呼んでいた。それはコンセントや充電ケーブルや文房具を中央部分にまとめた大きなテーブルで、わたしたちはその周りに立ったり座ったりしながら仕事をする。浮島のどのあたりに誰

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お茶代課題2月ヒョーロン部門『J-POPまもるくんの謎』

お茶代課題2月ヒョーロン部門『J-POPまもるくんの謎』

※有料設定ですが全文無料で読めます。

 脱輪さんが主催する文芸サークル"お茶代"の2月の課題に挑戦しました。
 テーマは「守る」歌詞。
 今回私は主に「守る/守りたい」というラブソングを想定して記事を書いています。

 この二つの問いに明確さを持って答えられるか正直自信はない。「守る/守りたい」という歌詞のラブソングは確かに多数あり、それぞれ意味は異なるだろう。
 ただ一般認識として「守る/守り

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「エモい」は、
「えも言われぬ」い、んですか?
「エモーショナル」い、んですか?

『哀れなるものたち』
あふれだす五感の情報に気持ちよく振り回されたくなるのですが、ここぞというところで思考する場所に引きずり出される。そんな映画です。
#哀れなるものたち

Swinging Chandelier:12-孟買青玉

Swinging Chandelier:12-孟買青玉

 鍵を閉める。外の廊下を歩いて階段を降りる。駅まで十分と少し。肩にかけた鞄はうちの会社に登録してくれている革職人のセミオーダー品。オフィス用のモデルは軽めでパソコンも入るし、何よりデザインが可愛い。ハイウエストのワイドパンツに丈の短い上着を合わせて、ショートブーツのヒールが鳴る。
 住宅街の庭からのぞく鉢植えのビオラを横目に歩き、繁華街を貫く大通りに出ると街路樹の花水木の葉がまばらに色づいていた。

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Swinging Chandelier:11・下:最高の日曜日

Swinging Chandelier:11・下:最高の日曜日

 捨てる。棄てる。
 とにかく、すてる。

 いつも渡すアカウントに登録された名前、郵便受けに溜まるダイレクトメール、他人の体温。

 いつもみたいに「可愛いね」と言われる。いつもみたいに淡く微笑んでおく。いつもみたいに裾はたくしあげられる。いつもみたいにその手の甲を静かに撫でる。
 あー良かった。昨日眉ティントしておいたからあとで化粧落としても気が楽。あとそれ、リバーレースの下着だから爪引っ掛け

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Swinging Chandelier-11・上:土曜の夜

Swinging Chandelier-11・上:土曜の夜

 鏡の前に立つ。あまり大きくはならなかった乳房、ジム通いで絞った腰、尖った肩、一五〇センチとあと少しあるかわからない背丈。作り込んで、いや作り物めいているから、かえって気分は楽になる。
 鎖骨が綺麗に見えるボートネックの、ふくれ織りの生地を使って上半身を少しタイトにしながら、切り替えからソフトプリーツがふんわりと広がるシルエットのワンピースを着る。財布とスマホと化粧ポーチを入れたらもう容積が埋まっ

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感覚するということを認識するということ。自覚された身体、躯。

うつし世――遠く近くにあるもの

うつし世――遠く近くにあるもの

 わたくしは、陸で生まれた人魚でございました。
 わたくしが髪を長く伸ばしておりますのは、帰れぬと知る海にいつか帰る日のために、その道標を見失わぬようにという、やるせない願いゆえなのでございます。

 人魚というものはかつて、わだつみを統べる龍の眷族でありましたのが、人間に恋をしたがために罰を受けて半人半魚の姿になったものでございます。
 人魚というものは海のものでありながら、人に惹かれる性を持っ

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Swinging Chandelier:10 赤い夜

Swinging Chandelier:10 赤い夜

Swinging Chandelier:10赤い夜

 大貫たちの会社とのコラボ企画も動きが少し落ち着いてきて、それ以外にも企画イベントなどは特になく、内勤だけで済む期間にいる。ジムに行く時間を増やしやすくなったり、買い物だってゆっくり時間をかけやすくなったりしているはずが、却って持て余すような心地になっている。
 仕事帰りの電車の窓のぎりぎりにおでこを近づけて、引き裂かれるように滑っていく景色を

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Swinging Chandelier-9:まばたきの回路

Swinging Chandelier-9:まばたきの回路

Swinging Chandelier-9:まばたきの回路

 森は陰になって、樹々もしんと黙ったようでいる。
 その淵から、ひらけた場所を見ている。
 小鳥が歌いながら飛ぶ、晴れた空の、そこ。
 わたしは、見つける。

 生まれた時は青い灰色。成長するごとに澄んで、銀灰色。やがて磨かれたように、白馬になる。
 朝露がまだひそやかに残る草の上に、それは立っている。頸と脚とがほっそりとした、まだ青み

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単発小説『ダウンタイム』

単発小説『ダウンタイム』

 あの二人は好き合っているくせに、向き合ってつがうことができなかった。好き合っているくせに、同じ性別でつがうことを、許容できていなかった。

 だから間に私を挟んで、交代で私を抱くのを眺めることでそのときの欲求を解消する。
 抱く、というのは随分と可愛い表現だ。実際は、どうにもならない感情を、自分の言うことを聞く者にぶつけている、というほうが適切だった。
 二人のうちの片方、少し年上のほうに私が恋

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Swinging Chandelier : 8-カナリア

Swinging Chandelier : 8-カナリア

Swinging Chandelier: 8-カナリア

 二度目の打ち合わせはわたしと大貫の二人で、場所は向こうの会社の、オフィスから直接入れる少人数向けの会議室だった。壁と入り口のドアには半透明の硝子が多く使われ、開放感と防犯どちらにも有用なデザインになっていた。書類を机に揃えながら、この部屋いいですねと大貫に伝える。
「やっぱりわかるものでしょうか」
「どういう意味ですか?」
「オフィスを改

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Swinging Chandelier:7 ブライズメイド・下

Swinging Chandelier:7 ブライズメイド・下

Swinging Chandelier:7 ブライズメイド・下

 カツコツと、ヒールが踵に響く。カツコツと、最寄駅から自宅までの道のりを歩く。十一時近い駅前のビル風を浴びながら、歩く。

 夕食にアンズさんと入ったのは、わたしがさゆりさんとたまに行っているイタリアンバル。カウンターとテーブルがあり、入店時に店員がイタリア語で挨拶する感じの、お通しに揚げたパスタが出るような店。
 わたしがデカンタ

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認識するということを認識し続けています。そこに終わりはなくそれはあらゆる方向にのびる血流です。