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読書感想文、読むことに関するnoteまとめ
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知ることから始まる。『羊飼いの暮らし』読書感想文

知ることから始まる。『羊飼いの暮らし』読書感想文

大富豪から人生を交換してくれとせがまれて、悩まずノーという人はどれくらいいるだろう。

私たちは生まれる場所を選べない。今の人生と富豪の暮らしを天秤にかけて、心がぐらつく人は少なくないはずだ。

『羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季』(ジェイムズ・リーバンクス、訳:濱野大道)は、きれい事ではなく、富豪からの申し入れを断るに違いない人たちのノンフィクションだ。

イングランドの湖水地方で、脈々と

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家とはまことに怖い場所。「屋根裏に誰かいるんですよ。」読書感想文

家とはまことに怖い場所。「屋根裏に誰かいるんですよ。」読書感想文

「屋根裏に誰かいるんですよ」

目を離したすきに物の位置が変わっていたり、摺り変わっていたり。心安らげるはずの自宅に何者かが潜んでいるとしたら、大抵の人は恐ろしいはずである。

しかし、実際にそう訴える人たちは、困っているそぶりは見せても怯えている感じではない。

家のなかに誰かがいる。この“妄想”は、孤独な老人が訴えてくるケースが多いという。誰かとの交流を求める願望が、脳の衰えや環境のバイアスか

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読みたい気持ち。9月の読了本まとめ7冊

読みたい気持ち。9月の読了本まとめ7冊

9月は読みたい、読みたい、読めない、のまま過ぎてしまった。

初っぱなに体調を崩してしまい、それからずっとエンジンがかからないまま。ずっとどこかで「ああ読みたいなあ」とは思っているんだけど、目の前にあるのは仕事だったり、家の雑用だったり。

まあ、そんなときもある!

「小説道場」中島梓出版社関係の公式noteで紹介されていて気になった中島梓(栗本薫)氏の小説指南本。男性同士の恋愛を扱う雑誌で連載

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“恩田陸の孤島ミステリ”というパワーワードに出会う。8月の読了本まとめ12冊

“恩田陸の孤島ミステリ”というパワーワードに出会う。8月の読了本まとめ12冊

恩田陸、クリスティーに加えて、ハイスミス、J・カーリイ。毎月1冊はこの人の作品を読もうというマイベスト作家が増殖する月だった。

当たりはずれの多かった先月に比べると、今月の面白さは高水準! 焦らずゆっくり読めばいいって頭じゃ分かっているんだけど、新たに読みたい本が多すぎて速読できない自分がもどかしい…(むしろ遅読)

「緋の収穫祭」S.J.ボルトン独自の血生臭い伝統儀式が残る英国の小さな町。小さ

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本格推理の楽しみかた。7月の読了本まとめ12冊

本格推理の楽しみかた。7月の読了本まとめ12冊

今年の2月分から始めて、なんだかんだ続いてる毎月の読了本まとめ。今回からいちばん下にマイベスト3をつけ加えてみることにした。

7月は正直、自分にハマらない作品がちょこちょこあったけど、それだけ幅広く読めたということかな。まあミステリばかりですけど!

※タイトルの推理小説の楽しみかたは「土曜日は灰色の馬」の項目に。

「ユージニア」恩田陸近隣住民を巻き込み、旧家で起こった大量毒殺事件。未解決のま

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刑事の僕、殺人鬼の兄。「ブラッド・ブラザー」(J・カーリイ)

刑事の僕、殺人鬼の兄。「ブラッド・ブラザー」(J・カーリイ)

異常犯罪専門の刑事である「僕」の兄、ジェレミー・リッジクリフは、きわめて知的で魅力的な連続殺人犯。兄が収容されていた施設所長の惨殺死体が見つかり、僕に連絡が入る。兄は脱走し、そしてはじまる連続殺人ーー。

面白い海外ミステリならこれを読め! 的なガイドブックから気になる作品を20冊くらいリストアップしたうちのひとつ「ブラッド・ブラザー」。シリーズものと知らず読みはじめて、最後に4弾目と気づきやっち

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ストーカーから見た世界は…。「愛しすぎた男」(ハイスミス)

ストーカーから見た世界は…。「愛しすぎた男」(ハイスミス)

すでに人妻ですらあるアナベルと結婚することを“信じている”デイヴィッドは、ふたりの愛の巣となるはずの一軒家で今日もまた夢の続きをみる。徐々に現実と夢の乖離が激しくなり、破滅の足音が。

ストーカー視点のサスペンス小説。なんだか気持ち悪そうだなあ、と読み始めたら、むしろデイヴィッドは女性を恋い焦がれさせるほどの好青年で、アナベルと結ばれなかったのはタイミング的な問題か? と序盤に思った。

読み終え

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海外ミステリがお好き。6月の読了本まとめ12冊

海外ミステリがお好き。6月の読了本まとめ12冊

いまさら気づいたんですが、わたし、海外ミステリーが好きかも。

カタカナの名前を覚えるの苦手だけど、豪華で非日常な気分を味わえるのがいい。翻訳された硬めの文章も実は好き。

特にロマンス要素のある海外ミステリのストライク率が高い。美男美女だと尚よし。探偵と助手のバディものもやっぱりいいね、大好物!

「ベストセラー小説の書き方」ディーン・R・クーンツ小学生のころ、市の図書館で小説技法の本が並んだコ

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強い女性が愛されている話が好き。吉乃とヨル #今こそ読みたい神マンガ

強い女性が愛されている話が好き。吉乃とヨル #今こそ読みたい神マンガ

強い女性が好きだ。正確には、強い女性が愛されている話が好きだ。

普段は安易に「尊い」「萌…!」という言葉で片付けてしまうから、もう一歩踏み込んで、強い女性が愛されまくっている話について考えてみたいと思う。

よき母にして妻“役”、裏の顔は一騎当千の殺し屋いま日本でいちばんHOTな強い女性といえば、漫画「SPY×FAMILY」(遠藤達哉)のヨル・フォージャーといって差し支えないだろう。4月からアニ

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読むのをやめるのが、つらい。5月の読了本まとめ7冊

読むのをやめるのが、つらい。5月の読了本まとめ7冊

5月の読了本は、比較的に大長編ものが多かった。

途中でイヤになるかな〜と思ったけど、一度この味を占めてしまうと通常のボリュームじゃ物足りない気もしてきて、次から次へと分厚い本に手が伸びた。うーん。長編っておもしろい!

「長いお別れ」レイモンド・チャンドラー私立探偵フィリップ・マーロウが活躍するハードボイルドの名作。

“積読”のお手本とばかりに、ずうぅっと本棚で眠らせていた1冊。しっかり腰を据

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創作稼業の女たち×洋館×心理戦。「木曜組曲」(恩田陸)感想

創作稼業の女たち×洋館×心理戦。「木曜組曲」(恩田陸)感想

まずはこちらの表紙をご覧いただきたい。うぐいす色の屋根に、白い壁の洋館。ポーチ上の2階窓。そこから訪問者に気づいた女主人が、にこりと微笑みかける、在りし日の光景ーー。

左下には多角形的な部屋が見える。客間だ。中央にどんと丸テーブルが置かれ、5人の女たちが和やかな宴をはじめる。そして、女主人の死にまつわる、告発も。

舞台は通称「うぐいす館」。耽美派小説の巨匠だった女主人は、4年前にこの館で毒薬死

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バラバラ殺人の裏、誰かの幸せがこわいってはなし「魍魎の匣」(京極夏彦)感想

バラバラ殺人の裏、誰かの幸せがこわいってはなし「魍魎の匣」(京極夏彦)感想

読み終えた瞬間、「う、わあぁ~…」と声が出た。なんてこわい終わりかたなんだ。そしてこのこわさには、どこかに真実を感じるからこそ、ちくりと胸を刺す切なさもある。

鈍器本と言われるほど厚みのある文庫でおなじみの京極堂シリーズ第2弾「魍魎の匣(もうりょうのはこ)」(京極夏彦)。バラバラにされた複数人の手足が見つかる猟奇的な事件が世間で騒がれるなか、新鋭若手作家が書き下ろしたのは匣に詰められた少女のはな

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もっと面白い本が読みたい。つまらない本には激怒したい。4月の読了本まとめ9冊

もっと面白い本が読みたい。つまらない本には激怒したい。4月の読了本まとめ9冊

GWの10連休、とことん満喫した!

久しぶりにnoteを書こうと思うんだけど、ちょっとそわそわする。旅行中以外はモーニングページをつけていたから、書くことから完全に離れていたわけではないんだけども。

また少しずつ慣らしていこう。と、いうわけで、4月の読了本をまとめてみる。先月は9冊読んで、うち6冊が5段階評価で4以上。

面白い本が多くてしあわせだった!

「仮面山荘殺人事件」東野圭吾8人の男

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愛してるって言わなくちゃ。夏目漱石「こころ」

愛してるって言わなくちゃ。夏目漱石「こころ」

かの夏目漱石が I love you. を、月が綺麗ですねと訳せばいいと言ったのは有名な話だ。「こころ」を読み終えた今、それはロマンティックというよりむしろ、脆く儚い言葉に思えてならない。

アラサーにして、初めてきちんと「こころ」を読んだ。自分にも人のこころがあったんだなあと思い出すくらい、涙がぽろぽろ溢れてきた。

きっかけは、夢中になっていた恋愛ゲームの攻略相手が「先生」だったからという頓珍

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