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そもそもイジメの助長でしかない、愛知県警鉄道警察隊の「痴漢撲滅 キャンペーン」ポスター 〜【ブラックペアン】《140字の感想文 21 × 時事社会&評論・自給自足》

日曜劇場「ブラックペアン」第7話

 

若干、ネタバレ注意。

 

ひとの敵はひと。権力ある者は弱い者に罪をなすりつけることができるから。でも、ひとの味方もまた、ひとなのだ。なぜなら、罪のありかを明らかにする勇気があるのも、ひとだから。では、弱い者が衆をなして、過去ある者をそしり興ずることはなんとしよう。所詮、ひとはひとの敵なのだろうか。

 

  
ブラックペアン 人物相関図 第7話

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 6月3日放映の「ブラックペアン」第7話。
 治験コーディネーターの木下が、過去に執刀医の過失による患者死亡の責任をなすりつけられて看護師をやめざるを得なかったいきさつが明らかになったり、看護師の宮本が、東城大の患者情報を帝華大に漏洩した犯人にされそうになったのを渡海が阻止したり……

 とにかく、権力のある者が権力を利用して、弱い者に罪をなすりつけて切り捨てることに対し、勇気をもってNO!をつきつけた、という内容でした。

 どちらかというと、権謀術数が渦巻き、ひとの善意など鴻毛より軽んじられているような気がして、見るたびに救いようのない気持ちになってくるブラックペアンですが、今回は本当に爽やかな気持ちで見終えることができました。
 だってそうです。いままでそれぞれの思惑でバラバラに動いているかに見えた東城大に集う人たちが、みな、人を助ける、という志で一致していることが明らかにされたのですから。

 登場人物の口から繰り返された、「ひとの敵はひと」、「ひとの味方はひと」という言葉が印象的な回でした。

 

・◇・◇・◇・

 

 ですが、その後、寝る前に、と思ってひらいたYahoo!ニュースで、気持ちが暗澹となる記事を見つけてしまいました。

 見つけたのは、HUFFPOSTの錦光山雅子さんによるこちらの記事↓です。

「あの人、逮捕されたらしいよ。」痴漢撲滅の警察ポスターに弁護士が「誤解を与え偏見を助長する」と批判

 
愛知県警鉄道警察隊が6月1日から始めた2018年度の「痴漢撲滅 キャンペーン」のポスターに載ったキャッチコピー「あの人、逮捕されたらしいよ。」が物議を醸している。
 

 
 という文章から始まるこの記事。
 問題となったポスターに書き込まれているライン風のトークの内容が、記事に引用されています。

 

 
A「聞いた? あの人、痴漢で捕まったらしいよ。」

B「えwwwwwwwww」

A「本当本当!さっきネットニュースで見た!!そんな人に見えなかったわ」

B「気持ち悪 軽蔑だわ 性犯罪者じゃん」

A「仕事もクビになるよねー。家族も悲しむだろうなあ」

B「そりゃそうだわ 私は一生関わりたくない」

A「この先どうなっちゃうんだろう...」

B「そういえば......私先月あの人と電車で偶然会ったよ」

A「そうなんだ?! 変なことされなかった?」

B「あの時は何もなかったけど」

「なんかもう、あの人のこと思い出したくもない」

A「女性の私たちも被害に遭わないよう気をつけなきゃね」
 

 

 五百蔵は、上記の会話文を読んで、ほんとうに暗澹たる気持ちになりました。
 さらに、その次に述べられているポスターへの批判も、五百蔵の目からは的がずれて見えて、ため息が出てしまいました。

 

 まずは、みなさん、この会話文、どう感じられましたか?

 五百蔵にはこれは、

 警察や、自分は犯罪など犯さないと信じ込んでいる世間からのいじめそのもの

 としか思えませんでした。

 

・◇・◇・◇・

 

 ポスターの会話の、

 
A「聞いた? あの人、痴漢で捕まったらしいよ。」

B「えwwwwwwwww」

A「本当本当!さっきネットニュースで見た!!そんな人に見えなかったわ」

B「気持ち悪 軽蔑だわ 性犯罪者じゃん」

A「仕事もクビになるよねー。家族も悲しむだろうなあ」

B「そりゃそうだわ 私は一生関わりたくない」

 の部分に注目してみたいと思います。

 

 いじめであることを理解しやすいように、少しいじります。

 
A「聞いた? あの人、【  a  】らしいよ。」

B「えwwwwwwwww」

A「本当本当!さっき【ネットニュースで見た】!!そんな人に見えなかったわ」

B「気持ち悪 軽蔑だわ 【  b  】じゃん」

A「仕事もクビになるよねー。家族も悲しむだろうなあ」

B「そりゃそうだわ 私は一生関わりたくない」

 

 みなさん、想像力を羽ばたかせて、この2つの空欄にいろんなシチュエーションを投入してみてください。

 ただし【ネットニュースで見た】のくだり等、矛盾が発生するものは、状況に合わせて心の中で、【噂で聞いた】などと、適宜、修正をかけて考えます。

 例えば、五百蔵はこんなのを考えました。
 読んでいて、嫌な気持ちになる人もいると思います。特に【b】の方には、あえて悪意があったり、偏見まるだしの言葉を入れているものもあります。

  

  【  a  】       【  b  】
 会社の金を着服した     ふつーに犯罪者  
 不倫してた         奥さん可愛そう
 アスペの診断出た      まともに仕事ができない
 家がゴミ屋敷        不潔すぎる
 リスカの常習        同情してもらいたいだけ
 セクハラした        エロおやじ
 セクハラを訴えた      そんなの自己責任
 襲われた          もはや汚れた女
 二次元が好き        ただのキモいヲタク
 ゲイ(もしくは、レズ)     要は変態
 アンタのことが好き     アイツってハゲでデブ
 伝染る病気         伝染ったら迷惑
 野菜しか食べない      単なるわがまま
 生理がはじまった      ワタシたちってまだ4年生
 イジメっ子だった      今も嫌われて当然
 ずっとイジメられてた    今も嫌われて当然
 悪質タックルした      ほぼ犯罪
 悪質タックルを指示した   ほぼ犯罪

 

 ……五百蔵の想像力は、このへんで尽きましたが、まだまだいろいろ出せるはずです。

 でもって、この会話文の何が不愉快で五百蔵の怒りをよぶのか。

 それは、会話する2人が、「自分たちには関わりない」という態度で、話題になっている人を自分たちの日常世界から排除しているからです。

 そこに当てはめられるのが、害を被った側だろうと、害を加えた側だろうと、マイノリティだろうと、困っている人だろうと、趣味が変わっている人だろうと、過去を振り切って立ち直ろうとしている人だろうと、関係ないのです。

 ただ、排除して、「自分たちだけの平和な日常」を守っておしまい。

 そこにはなんの救いもありません。
 社会がよりよく変化するための契機など、もとよりありません。

 

・◇・◇・◇・

 

 あらためて、ポスターのもともとの会話に戻って考えたいと思います。

 世の中には、性犯罪に限らずかつて加害者として罪を犯し、罰を受けた人がいます。
 やったことを反省できない人もいますが、おそらく、反省している人のほうが多数です(……と、言い切れる根拠になるような統計は知りませんが、とりあえず日本はそこそこ平和なので、反省している人が多いと思いたいです)。

 また、冤罪事件のように、いわれのない濡れ衣に苦んできた人もいるでしょう。

 そんな人たちがこの会話文を目にしたら、どんな気持ちがすることでしょう。

 どんなに真面目に罪を償おうと、どんなに真摯に反省しようと、どんなに必死に立ち直ろうとしようと、
 そんな苦闘は無かったかのように、こんなふうな口調で過去ばかりうわさのタネにされてしまうとしたら、
 あまりにも無情な仕打ちではないでしょうか。

 

 世の中には、罪を犯した人の立ち直りを願い、支える家族がいます。
 あえて前科のある人を雇い、社会復帰を支援している企業もあります。

 そんな人たちはこの会話文を、どんな気持ちで受け止めることでしょう。

 なによりも、
 「家族も悲しむだろうなあ」と口にしつつ、話題の対象者を社会から排除するようなうわさ話に興じること自体が、
 悲しみを乗り越えて、罪を犯した人の立ち直りをを支えようとしている家族や関係者の心を折るものである、
 ということに気がついていない無神経さ。

 たちの悪いバーレスクでしかありません。

 それが、罪を犯した人を捕らえて更正させるのが仕事の警察によるポスターなのです。
 それこそ、「えwwwwwwwww」です。

 

・◇・◇・◇・

 

 このように、この会話文の構造自体がすでに、人権感覚を欠いた、いじめを助長するものでしかないのです。

 ですが、HUFFPOSTの記事で取り上げられている、このポスターへの批判は、

 
愛知県警のポスターでは、まだ裁判すら受けていない「逮捕」されただけの段階で、あたかもやったに違いないという、有罪前提のやりとりが書かれ、「性犯罪者じゃん」とすら言われています。

こんなポスターが、県警の痴漢撲滅キャンペーンで使われていれば、多くの人が「逮捕=有罪」だと誤解するし、偏見が強まることを危惧しています。

ということが、いちばんの批判のポイントになっています。

 

 ですが、五百蔵といっしょに、【   】の中にさまざまなシチュエーションを投入してきたみなさんは気がついたと思います。

 問題点が「裁判で犯罪が確定しているかいないのか」なのならば、
 「裁判で性犯罪者である事が確定していたら、
 あのような会話でもってうわさ話されても仕方ない」とも受け取れて、
 五百蔵は違和感を感じます。

 それに、あの会話の続きに、ほんとうに欲しい言葉は、

 「そうは言っても、フェイクニュースだったらいちばんいいよね」
 「次はそんなことしないように、きちんと立ち直ってほしいね」
 「痴漢なんてしない男性が多数だってことは、女性には心強いよね」

 というような光の見える言葉で、それが真の痴漢撲滅への筋道なのではないでしょうか。

 五百蔵は先に「その次に述べられているポスターへの批判も、五百蔵の目からは的がずれて見えて、ため息が出てしまいました」と書きましたが、それは、このことを指しています。

 

・◇・◇・◇・

 

 私たちの暮らす社会に欠けているものは何か。

 それは、寛容と当事者意識です。

 無責任なうわさ話の輪から離れて、いちど、うわさの当事者の目からは自分たちがどう見えているのか、シュミレーションしてみませんか?

 そうすればおのずと、違うものが見えてくるはずです。
 そうすれば、必要なことは、うわさ話に興じて排除の輪を鉄壁にすることではない、と気づくはずです。

 この社会を、「ひとの敵はひと」の社会のまま棄て置くのか、「ひとの味方はひと」の社会に変えていくのかは、あなたのアクション次第です。

 「ひとの味方はひと」の社会は、被害者にとっても加害者にとっても、人生の立て直し、人生のやり直しの希望が見える社会だと五百蔵は思うのです。

 

 あなたならば、痴漢撲滅のために、
 このポスターの、この会話を、どんな言葉で締めくくりますか? 

 誤解をうけやすい事柄だけに、こんなことを主張する動機をここで書かしてください。
 
 動機は純粋に、「自分とか自分の身内がこんなふうに世間からひそひそ話されたら、たまらん!メンタル死ぬ!」と感じたことです。
 
 すこしたち止まって、性的な事件の加害者が世間にひそひそとうわさ話をされて、だれがいちばん辛い思いをするのかを考えてほしい。
 それは、加害者のお母さんであり、お姉さん、妹であり、恋人やつれあいであり、娘さんなのです。
 
 だから五百蔵は、はっきり言わしてもらいます。
 
 ここでも、苦しむのは女性なのですよ?
 彼女らが苦しみを訴えるための # MeToo はこの世のどこにもないのですか?
 
 じつは、TОKIОの山口くんの件が明らかになったとき、五百蔵が真っ先に思ったのは、離婚したとはいえ元パートナーさんや息子さんたちのことです。
 彼女がどれだけやりきれない気持ちを抱えていたことだろう、と想像するだにつらい。そして、もし、離婚していなかったら、そのショックはさらに大きなものだったろうと想像します。
 でもたぶん、息子さんたちにとって、はそれでも山口くんのことをパパとして好きだろうし、大切な人であり続けることでしょう。
 
  
 ところで、# MeToo への男性からの返答ということで、#HowIWillChange っていうのも提唱されてたらしいですね。
 たたいたり、うわさしたりすることよりも、加害する人をいかにこのハッシュタグに巻き込んで、かれらのゆがんだ認知を変えていくか、それが大事じゃないでしょうか?
 
 勇気ある罪の告発のゴールが、このポスターのような、こんな卑劣なうわさ話で終わるなんて、五百蔵は、ごめんこうむります。
 # MeToo による罪の告発はゴールじゃない。
 告発されたやつの #HowIWillChange のスタートラインにしなきゃ、いつまでたっても、そいつも世の中もかわらないのですから。

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コンテンツ会議

いま、病気で家にいるので、長い記事がかけてます。 だけど、収入がありません。お金をもらえると、すこし元気になります。 健康になって仕事を始めたら、収入には困りませんが、ものを書く余裕がなくなるかと思うと、ふくざつな心境です。