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「眠れぬ夜のお伴」にオススメの一冊

吹き荒れる嵐。

そこそこ広い書店で働く身です。ゆえに日々膨大な量の情報と接しています。新刊や補充分をどこの棚に置き、代わりにどれを抜くかをひとつひとつ吟味する。お問い合わせを受けたものを検索し、該当するエリアから見つけ出す。これから発売される本や既刊で良さげなものをピックアップし、注文する等々。

だからなのか休みの日に本屋へ行くと、けっこうぼんやりしています。無意識にアンテナの感度を落としている。

それでも綿毛みたいに視界へ飛び込んでくるものがある。そういう本は一度棚に戻しても、どうしたって再び手に取ってしまいます。

私は経験がないのですが、あるいは雨の夜に後ろをついて歩いてくる野良猫を玄関へ入れる人の気持ちと似ているかもしれない。

最近そんな感じで出会ったのが↓です。

著者はリチャード・ブローティガン。「アメリカの鱒釣り」「西瓜糖の日々」などで知られ、ビート・ジェネレーションを代表する作家のひとりです。

同時代のアメリカの詩集といえば、アレン・ギンズバーグの「吠える」。ああいう反体制的な熱い叫びを延々続けるものを予想していました。ドアーズの「音楽が終わったら」みたいな。でも開いてみて「あれ?」と。短くて簡潔な言葉たち。受け手に負担を掛けてこない。だからこそスルーできない、したくない。名もなき人々のささやかな心情がさりげなく拾われている。

ドアーズの楽曲でたとえるなら「ウィッシュフル・シンフル」の方が近いかもしれません。あまり知られていない曲ですが、日本語に移すと大切な何かが失われてしまいそうな世界観が後を引きます。

穏やかな気持ちで読み終えることができました。訳者によるあとがきも素晴らしい。おかげで、なぜ本書に言いようのない親しみを覚えたのか納得しました。

詩集を買うなら文庫ではなく、余白と活字の大きい単行本がオススメです。眠れぬ夜のお伴にぜひ。

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