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「史実」と「虚構」の理想的融合

うわさに違わぬ面白さでした。

士族という生き方が消えつつある明治期の日本を舞台におこなわれる「デスゲーム」の物語。いわば時代小説版「バトル・ロワイヤル」です。

参加者たちが狙うは一攫千金。しかし目的は多種多様。主催者の側にも狙いがある。見え隠れする諸々の機微に生々しい人間ドラマが潜んでいて、バーッと読めるのに手応え十分でした。

多くの読書家の皆さんがレビューで書かれている通り、「るろうに剣心」や山田風太郎などを好む方にはドストライクな一冊と思われます。

普段の私はどちらかというと「歴史小説」派です。ウィキペディアによると「時代小説」は「過去の時代背景を借りて物語を展開するもの」で「歴史小説」は「歴史上の人物や事件をあつかい、その核心に迫る小説である」とのこと。

ただ今村さんの場合、直木賞受賞作「塞王の楯」や候補作になった「じんかん」もそうですが、ふたつのジャンルをクロスオーバーする手腕が素晴らしい。特に「じんかん」で描かれた松永久秀の幼少期。ほぼ確実にフィクションのはずですが、とても説得力を感じました。実際こういう人生を送ったのかもしれないと。

考えてみれば、映画やドラマでも本当に面白いものほど「史実」と「虚構」が分かち難く混ざってひとつに融合しています。「こんなのは事実じゃない」「あり得ない」とマニアに叩かれることも皆無ではありませんが、何が事実かなんてことは実は誰にもわからない。だからこそ研究者としての詳しい調査と考察が必要で、なおかつ創造者としての大胆な飛躍及びストーリーテリングも求められる。

プロレスでたとえるなら「ガチの強さ」と「華やかなスター要素」のバランスみたいなものでしょうか。

隙のないノンフィクション性と理屈抜きのフィクション性。このふたつの魅力を併せ持ったところに、お客さんを唸らせる「説得力」が生じるのかもしれません。今村さん、面白い本を書いてくれてありがとうございます。続きが楽しみです!!

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