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読書がIQに与える影響:遺伝を超える知能開発の可能性


こちらの記事は以下「読書との対話 : How to read a book」マガジンに収録させて頂きました。

はじめに

IQ(知能指数)は、標準化された知能検査によって測定される個人の認知能力を数値化したものです。IQの平均値は100、標準偏差は15に設定されており、その数値が高いほど知的能力が高いとされています。多くの研究により、IQは遺伝的要素と環境的要素の両方によって影響を受けることが広く認識されています。twin studyによると、IQの遺伝率は50〜80%程度 (Plomin and Deary (2015)の研究では、成人のIQの遺伝率は約60%) とされていますが、これは遺伝的な要素による制限を環境的な要素である程度克服できる可能性を示唆しています。その鍵の一つが「読書」です。

結晶性知能と流動性知能:二つの知能の向上に読書が果たす役割

IQを構成する要素には、結晶性知能流動性知能があります。結晶性知能は、学習や経験を通じて蓄積された知識やスキルに関連しており、流動性知能は、新しい問題を解決するための論理的思考や抽象的思考の能力に関連しています。読書は、これら二つの知能の向上に直接的な影響を与える活動です。

結晶性知能の向上

読書は、新しい知識を習得し、語彙力を増やす最も効果的な方法の一つです。Cunningham and Stanovich(1998)の研究では、読書量と語彙力の間に強い正の相関関係が見られました。本を読むことで、様々な分野の情報を吸収し、それらを自分の知識として蓄積することができます。このプロセスは、結晶性知能を直接的に高めることに貢献します。

流動性知能の鍛錬

流動性知能は、新しい問題に対する適応力や、未知の状況での判断力を指します。読書は、異なる視点や新たなアイデアに触れることで、思考の柔軟性を高め、抽象的な概念を理解する能力を向上させます。Kidd and Castano(2013)の研究では、文学作品を読むことが心の理論(他者の心を理解する能力)の向上につながることが示されました。物語の中で複雑なプロットを追いかけることや、キャラクターの心情に共感することは、流動性知能を鍛える絶好の機会です。

読書を習慣にすることの長期的な利益

読書を日常の習慣に取り入れることは、単に知識を増やすだけでなく、思考力や判断力を鍛えることにもつながります。さらに、読書はストレスを軽減し、集中力を高める効果もあるとされています。Wilson et al.(2013)の研究では、読書習慣が認知機能の低下を遅らせる可能性が示唆されました。これらのメリットは、日常生活の質の向上から、職業生活での成功に至るまで、人生の様々な面で役立ちます。

読書の種類とIQへの影響

読書がIQに与える影響は、読む本の種類によって異なる可能性があります。非小説(ノンフィクション)は知識の獲得に直接的に貢献し、結晶性知能の向上に役立つ一方、小説(フィクション)は共感力や抽象的思考力を育み、流動性知能の発達を促進すると考えられます。また、専門書や学術書は、特定の分野における深い知識と理解を提供します。バランスの取れた読書習慣が、総合的な知的能力の向上につながるでしょう。

結論:読書による無限の可能性

IQの向上は、遺伝的要素に左右される部分があるものの、読書という環境的な要素を通じて、知的能力を高めることが可能です。結晶性知能と流動性知能の両方に対して有効な読書は、私たちが知的な成長を遂げるための強力なツールと言えるでしょう。ただし、読書だけでなく、教育や社会的交流などの他の環境的要素も知的発達に重要な役割を果たします。これらの要素を適切に組み合わせることで、遺伝的制約を超えた知的な高みを目指すことができるのです。

参考文献:

Cunningham, A. E., & Stanovich, K. E. (1998). What reading does for the mind. American Educator, 22(1-2), 8-15.

Kidd, D. C., & Castano, E. (2013). Reading literary fiction improves theory of mind. Science, 342(6156), 377-380. https://doi.org/10.1126/science.1239918

Wilson, R. S., Boyle, P. A., Yu, L., Barnes, L. L., Schneider, J. A., & Bennett, D. A. (2013). Life-span cognitive activity, neuropathologic burden, and cognitive aging. Neurology, 81(4), 314-321. https://doi.org/10.1212/WNL.0b013e31829c5e8a

Plomin, R., & Deary, I. J. (2015). Genetics and intelligence differences: five special findings. Molecular psychiatry, 20(1), 98-108. https://doi.org/10.1038/mp.2014.105

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本日の付録 : What is Kafka's reading?


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