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真・邪道勇者 その9

誘拐のコツは、まず「紛れさせる」事にある───それが由緒正しい方法だ。

例えば、以前の仕事でいうと誘拐された体になる人材雇用が盛んだった。どういう事かといえば官憲に「行方不明者が出た」となれば当然その人物を探しにくる。しかし、何人も何人も行方不明が続いた上で、捜査後に何も手掛かりが掴めない。

警察とて組織だ。サボる奴もいれば賄賂を受け取る奴もいる。そんな当たり前の事すら、一般人とやらは知らないものだ。だが、我々社会の裏側にいる者にとっては組織の弱点はしつこく突く。しかしその一方で、以外なほど「一般人」を誘拐するような事態は少ない。

カネにならないし、何より仕事として小さい••••••生憎、弱い者いじめがしたい訳ではない。やるなら「大きな偉業」を成し遂げたい。



なので、必然政治関係者は多かった。

そのケースではまず「誘拐される役」が何人も行方不明になった体で話を広め、山奥では獣に食われたのかもしれないと風評を立てておく。
その上で、目的の政治家先生を拉致する訳だ──────おかげで、実にスマートな夜の仕事だった。

8本目の指と左耳の鼓膜が、改革案を退けたとだけ言っておく••••••これ以上、人間が台頭するのは困るのだ。というのも、一部の金持ちだけが肥え太る社会というのは、乱す余地すら限られる。であれば、異種族を弾圧する法案を通さず、反乱を煽••••••もとい、自由を与えて対立する国家があった方が面白い!!

この辺は「博士」も同じだ──────我々がやるべきは「不可能への挑戦」であって、一般人を誘拐するような、そんなちまい犯罪に興味は無い。


誰にでも出来る。それは「つまらない」からだ••••••逆に、難問が用意されれば、例え地の果てでも飛んで行く。異種族だろうがエルフだろうが、敵が人類だろうと関係無い。

むしろ、やる気が出る。そういうものだ。


さて、この辺で種明かしをしよう。回りくどい語り口で話を逸らしたのは、当然他にやる事があるからだ。具体的には我々が捕らえられた屋敷で乱交パーティーに興じている奴等から、必要な人材も攫っていく。

当然、目的の神の依代とやらも一緒にだ。

言わば、強制亡命を、それも未だかつてない規模で行う訳だ。ハイ厶とかいう女は、最初からこれを狙っていた──────ただ単に逃亡するだけでは、その「先」が無いからだ。

であれば、必要な人材ごと、国外に居を構えれば良い。そんな無茶苦茶が通るかといえば金と人材、後は政治だ。そして、国内外での主要人物が集まるこの機を狙って、我々が手助けしようという訳だ。


言わば、人助けだな!!! 


賞賛してくれていいぞ!! まあ、実際にやった事は器物破損、衛兵の殺害、貴人誘拐に爆破工作と数え上げればキリが無いが。

爆破は当然、今からやる。
そしてやった。捕まる事は予定に入っていたので、あらかじめ脱出路の「逆」に爆破物を伏せていた。私だけではどうにもならないが、ハイムというあの女は魔術という胡散臭い物に詳しいからこそ、今回標的になったのだ。
であれば、大規模な事は難しくとも「外から着火」くらいは問題ない。出来なかったらどうするつもりだったという声が隣の猫耳娘から聞こえたが、まあそれはそれこれはこれだ。その場合、派手に行くつもりだったと言っておく。

何にせよ、騒ぎを起こさなければ、集団逃走など出来ないからな••••••パニックを起こす連中に避難を促す衛兵の武装をかっぱらった我々が代わりに指示を出し、用意していた大型の馬車に荷物のように詰め込んだ。

元々、薬物での乱交なぞしていたのが幸いしたのか、事前想定より速やかに誘導出来た。というのも動物みたいに乱れてたからか光に群がる蛾みたいに我々の「避難先」へと、我先にと走ったのだ。

当然、女子供を押しのけても、必死にな!!

まるでバッファローの群れだった。意外なほど速やかに終わったので達成感は少なかったが、しかしあれは見応えがあった!!

まるで、いや、まさに動物だ。人間なぞ一皮剝けば、本能に動かされる獣に過ぎない。
隣の猫耳娘、犬千代に「これで全部か」と確認する。
青い髪を揺らし、不愉快そうに人間の痴態を眺めながら「そうだよ」とぶっきらぼうに奴は答えた。
ならば問題ない。これで新国家設立くらいは可能だろう。

我々の手で、人類の歴史を書き換えた訳だ。エルフが独立しようとどうでもいいがしかし──────この手で、利益が為に、忌々しい社会構造そのものを、前代未聞と呼べる規模の誘拐計画で変革してやる偉業と言えた!!


それを実感出来る、悪くない仕事だった••••••我々が如何に政治へ貢献しているのか、良く分かる例の一つと言えるだろう。



最も、それが人間の為になるかは知らなかったが••••••何でも返報性の原理という「受けた恩は返す」心理が人間にはあるらしい。

私は生まれてこのかた悪意以外は受けた試しが無いので「善意の真似事」ではあるものの、とはいえタダで悪党の生き方について、それも実用的な詳しいやり方まで教えるのだから良いんじゃないか?

なあに、私の著作を読んだ後でもいいぞ!! 誠意は札束で払ってくれ。



それが「立派な大人」というものだ──────違うか? 

少なくとも、神だの仏だのに愛されるだけの地力の無い善人共とは違い、例え世界全てに指差されようとも胸を張って生きている。

そのやり方を、教えてやる。

続きが見たければ、金を払え!!!


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続編等は固定記事参照 第1巻は完全おひねり制
原理を忘れるな 私は裏に周り表には出ない


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