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ジャノメ食堂へようこそ❗️

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(3)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(3)

「へっ?」
「無ければ作ればいいんだよ!そのなんだっけ………⁉︎」
「香辛料ですか?」
「そうっ!」
 ウグイスは、びしっと人差し指を立てて叫ぶ。
 アケは、思わずビクッと身体を震わす。
「香辛料みたいに作ればいいんだよ!」
「いや、香辛料はオモチがちゃんと材料を見つけてくれたから……」
「だったらオモチ!」
 ウグイスに呼ばれてオモチは、ピンッと耳を立てる。
「今すぐ海水の代わりになりそうなもの

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(2)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(2)

 絶対に美味いに決まっている。
 鼻腔の奥で弾けるような匂いがウグイスの、オモチの、アズキの、そして屋敷の中にいる家精の食欲と胃袋を叩きつける。
 アケは、そんな四人の様子を見て頬を緩めながら白い深皿に炊き上がった白飯を盛っていく。
「ジャ……ジャノメ〜」
 ウグイスが緑色の目を輝かせ、ペタンコなお腹を両手で押さえながら訊いてくる。
「この匂いって……何て言うの?こんな痺れるような匂い……初めて…

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(1)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(1)

 なんて幸せなんだろう……。

 調理台の上で鳥肉を鼻歌混じりに捌きながらアケは、心の奥から湧いてくる温かい気持ちを噛み締めていた。
 日が西へと沈みかけ、青々とした草原の色のトーンが落ちていく。
 いつの間にかジャノメ食堂と呼ばれるようになった青いとんがり屋根の屋敷は夕日に当てられ、橙色に輝き、長い影を伸ばしている。
 食堂の入り口となっている大きな窓の中からマンチェアを纏った金糸の髪の絶世の美

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(10)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(10)

 アケは、湯気上がる雲呑スープを入れた椀をテーブルの上に置く。
 男の月のような黄金の双眸が置かれた椀をじっと見る。
「これが・・その料理か?」
「はいっ」
 アケは、頷き、小さく笑みを浮かべる。
 ぬりかべを見送った翌日の朝、男はやってきた。
 アケは、驚かなかった。
 何故か男がやってくる。そう思っていたから。
 そして男がやってきたら出そうと料理を準備していたから。
 出来立ての料理を。
 

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(9)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(9)

 そう言ってアケが差し出したもの。
 それは澄んだ出汁に浮かんだ白い雲であった。
 ぬりかべの蛍のような目が、口が、顔が、全身が震える。
「雲呑です」
 アケは、小さく微笑む。
「冷めないうちにどうぞ」
 アケは、雲呑をお盆ごと差し出す。
 ぬりかべは、ほとんど反射的に受け取るとその場に音を上げて座り込む。
 雲だ。
 雲がここにある。
 目の前で美味そうに出汁の上に浮かんでる。
 ぬりかべの蛍の

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(8)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(8)

 濃厚な香りが草原中を駆け巡り、オモチの鼻と胃袋を刺激し、涎が溢れ出る。
 お湯の煮込む音が虫の囀りのように心地良く、香りと共に漂う熱が肌を優しく温める。
 アケは、アズキの背中に置いた大鍋をゆっくりゆっくりかき混ぜる。中のものが崩れないように火加減し、味が染み込むように丁寧に。
 アズキは、自分の背中から舞い降りてくる香りに酔いしれて幸せそうな顔をしている。
 食欲とは縁がない家精ですら窓から料

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(7)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(7)

 ジャノメ食堂から離れた所にある小高い丘にぬりかべは、鎮座していた。
 微動だにしないその姿は本当に岩のよう。
 ただ、蛍の光のような二つの目が彼が生きていることを示していた。
 彼は、三日月の浮かぶ夜空に漂う雲を見た。
 月明かりに映され、朧のように現実味なく心をざわつかせる雲。その美しさで言ったら夜の雲の方が上かもしれない。
 しかし、ぬりかべは朝の雲の方が好きだった。
 朝の光に照らされ、力

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(6)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(6)

 アケとオモチが戻るとウグイスが大絶叫で大説教した。
 死んだ魔蝗に受けた背中の傷はアケが思っていた以上に酷いものだったようだ。
 アケ自身、痛いなとは思っていたが小麦を採ること、持ち帰ることに夢中だったので痛みなんて置き去りにしていた。改めて確認すると着物は裂かれ、茜色が濃い赤に染まり、皮膚が裂け、肉が見えていたらしい。
 オモチもまさかそこまでの傷とは思ってなかったらしくウグイスと一緒に確認し

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(5)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(5)

「ジャノメ!」
 オモチは、叫ぶも魔蝗からの攻撃に追いかけることが出来ない。
 アケは、木の根の外に出ると魔蝗の群れに攻撃を受ける木の根を見て「ごめん!」と言って駆け出す。
 小麦は、ほんの数分の間に殆どが食い荒らされていた。
 種子は散らばり、葉は千切れ、茎は踏み潰されている。
 アケは、どこかに無事な小麦がないかを探す。
 蛇の目を動かし、唯一の恩恵とも言える視力で草の隙間を覗くように探す。

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(4)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(4)

(綿毛に乗るってこう言う気持ちなのかな?)
 オモチの大きな背に乗りながらアケはそんなことを考えていた。
 一蹴で家を三軒飛び越えるくらいの飛躍をしてるのにまるで衝撃が無い。むしろ毛の中に埋もれるとお湯に足を落とすみたいに心地良い。匂いは獣臭に近いが臭くはなく、むしろ心を落ち着かせ、揺れは眠気を誘うようだ。
「もうすぐ着くよ」
 頭の上から子どものような声が聞こえる。
「出発する時も言ったけど決し

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(3)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(3)

「また、残り物しかなくて」
 アケは、申し訳なさそうに言いながら男の前に料理を並べる。
 テーブルに並べられたのは眠るアズキの背中で温め直した岩魚の焼きおにぎり、汁物、そして鳩の甘辛焼きにクロモジ茶だ。
 初めて彼が来た時に比べれば食事と呼ぶに相応しいものだがそれでも引け目を感じてしまう。
 しかし、彼は黄金の双眸でじっと目の前に並べられた料理を見て「美味そうだ」と答えた。
 その言葉にアケは幾分

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(2)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(2)

「雲を喰むか」
 黒狼は、威厳のある重い言葉で呟き、月のような黄金の双眸で空を見上げる。
 三日月に欠けた月と散らばるような星々の浮かぶ黒い空に灰色に焼けた雲が浮かんでいる。
「また、随分と高尚な夢だな」
 黒狼の顎が笑うように開く。
「ロマンらしいっすよ」
 草原に胡座をかいたウグイスがむすっとした顔をして焼きおにぎりを齧る。
 月の浮かぶ草原で今宵も黒狼、ウグイス、オモチ、アズキ、そしてアケは

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ジャノメ食堂にようこそ!第4話 雲を喰む(1)

ジャノメ食堂にようこそ!第4話 雲を喰む(1)

「雲は、食べれないのかい?」
 彼がそう言ったのはアケが用意した食事を舐めるように食べ終え、食後のクロモジ茶を一口啜った時だった。
「雲・・ですか?」
 彼が食べ終えた食器を片付けようとしていたアケは手を止めて蛇の目で彼を凝視する。
 彼の向かいに座って今日の献立の主菜である岩魚の塩焼きを豪快に手掴み食いしていたウグイスも口を止めて首を傾げる。
 アケとウグイスがそれぞれの動きを思わず止めてしまっ

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ジャノメ食堂へようこそ!第3話 お薬飲めたね(6)

ジャノメ食堂へようこそ!第3話 お薬飲めたね(6)

「あんまーい!」
 ウグイスの歓喜の声が夕暮れの草原を駆け巡る。
 ウグイスの手には水飴で固められ、太い木の枝を刺された林檎が握られていた。
 林檎の表面には大きく齧られた跡が付いていた。
「林檎飴です」
 鍋の中で串に刺した林檎をかき混ぜながらアケは言う。
「串で穴を刺して飴が入るようにしたから甘味が増したのではないでしょうか?」
「うんっ酸っぱみが完全に無くなってる!」
 ウグイスは、思い切り

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