atelier daidye(d) -アトリエダイダイ-

岡山県倉敷市、美観地区の外れでショップ兼アトリエを営んでます。

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最近の記事

あい色の命綱

「はぁ、はぁ、はぁ…大丈夫か? カズコ…」 「ヘイゾウ…」 若い男と女は特大のピンチを迎えていた。 事件が起き、それを解決しようとし、なんやかんやあって爆発に巻き込まれ、今、特大のピンチだ。 男は片手で断崖絶壁から生えた木を掴み、もう一方の手は女の手を握り締めている。 女も片方の手は男の手を握り締めてはいるものの、もう一方の手と体は宙に舞っている。 「カズコ…絶対離したらあかんで…」 「でも…ヘイゾウ…」 木がミシミシと音を立てて軋む。 細体とはいえ男女の体重を支

    • 止まらない男 止まる生地

      「なに、話って?」 「ごめん。急に呼び出して。」 「いいよ全然。ってか、ここどこだよ。」 「ドラッグちゃんの住んでるマンションの前。ほらあそこ、3階の端。電気ついてる部屋。」 「は?ドラッグちゃん?」 「前に言ったことあるだろ。好きな人が出来たって。その子。」 「あぁ言ってたな。で、ドラッグちゃんってなに?」 「あだ名だよ、あだ名。」 「そのくらい分かるわ。なにそのあだ名?ってこと。」 「ほら、おれの家の近所にドラッグストアあるじゃん。あそこで働いてるからド

      • DAC PANTS〜本気で加工したこんなジーンズは〜

        少しだけ暖かさを含んだ、だけどまだ冷たい風がカーテンを揺らし、オレンジの陽射しが並べられた机に反射している。 放課後の校庭から聞こえる野球部の声が、二人きりの教室に僅かに届く。 「現実もゲームの世界みたいだったらいいのにね。」 「どうして?」 「次のクラス替えでもし私と田中くんが別々のクラスになったらさ、コンティニューして同じクラスになるまで何回でもやり直せるのに。」 「吉田さん…」 「なんちゃって。気にしないで。ほら、帰ろっか。」 鞄を肩にかけ、ドアの方に向かっ

        • #4 左ききの野良犬と逆さまの虹

          〈やってみなきゃ〉 本を読むのが好きだ。 その中でも純文学が好きだ(これを言うとだいたいイキっていると思われるからあまり言いたくない) さらにその中でも1800年代後期から1900年代中期の作品が好きだ(これを言うと、あぁそう。と言われ会話が終わるから言いたくない) 文豪たちを取材などで身近から見ていた記者の書いた本を読むと、それぞれの私生活や教科書やテレビでは教えてくれない一面が見えてとても面白い。 文豪と呼ばれるほどの人間は皆揃って変わった生活を送っていたり、不思議

          #3 左ききの野良犬と逆さまの虹

          〈丁度いい例えとは〉 会社の各階にある会議室では昼休憩の時間になると各階の女性陣が集まって昼飯を食べながら談笑する小さな女子会が開催される。 男たちの立ち入りは暗黙の了解的に禁止されているのだが、13時からの会議の準備があったので思いつく最大限優しいノックをしてドアを開けた(優しすぎてノックの音は聞こえていなかったのかもしれない) 自分たちだけの空間に異物が混入した瞬間は決まって場が静まるものだが(カラオケや個室居酒屋で店員さんが入ってきたとき)女子会の勢いは一切緩むこと

          #3 左ききの野良犬と逆さまの虹

          #2 左ききの野良犬と逆さまの虹

          〈ウルトラドラマチック〉 最近のドラマは矢印が何方向にも伸びている不倫や痴情のもつれといったドロドロ系、伏線を張り巡らしすぎて収拾のつかないサスペンス系といったヘビー級があまりにも多くて観ていて疲れる。 という話を聞いた。 作り込むのは大いに結構だが、日々仕事に追われている我々としてはもう少しライトなドラマをリラックスして観たい。 イケパラとかブザービートとか(今の若い子は知らないかも)ライトで甘酸っぱくて、いい意味で頭を使わないドラマを観て、絶対ありえないけどこんな経験し

          #2 左ききの野良犬と逆さまの虹

          #1 左ききの野良犬と逆さまの虹

          〈口癖〉 服を作っているからなのか、物事の判断基準が 格好良いか格好悪いかになってきている。 それは服やモノに限らず、景色や音楽、振る舞いや佇まい、文章や言葉にも当てはまり、それらが僕の格好良いの琴線に触れたとき、「かっけぇ」と口からこぼれる。 この世界には格好良いが溢れていて、僕の口からはたくさんの「かっけぇ」がこぼれてしまう。口癖とまでは言わないが、言っているのを聞いた人は多いと思う。 だけど勘違いをしないでほしい。「ヤバい」とは違うから。森羅万象ありとあらゆる局面

          #1 左ききの野良犬と逆さまの虹

          胸の高鳴りは聞こえない

          胸の高鳴りには素直に従いたい。 だけどそれは大人になるにつれ難しくなる。 後のことを考えてみたり、楽な方を選んでみたり、慣れや計算が絡んでは、その高鳴りを深く鎮めるのだ。 「台所でスパゲッティをゆでているときに、電話がかかってきた」 ねじまき鳥クロニクルの始まりの一文を読んだ時はページを捲る手が止まらなかった。 初めてバスケットボールを持った時は辺りが真っ暗になるまでリングにボールを放った。 全部の瞬間で胸が音を立てて高鳴った。それはとても大きな音だったけど、今は同じこと

          運とリスクをとれ

          お年寄りに、若い時の自分に何かを伝えられるなら何を伝えますか? と質問すると、誰に聞いても大抵似たような答えが返ってくるらしい。 僕は何故か分からないが何処に住んでも近所のお爺ちゃんお婆ちゃんに異様に気に入られるという特殊能力を持っている。 ビックリするくらい早朝から開催されている近所の井戸端会議で同じ質問をしてもやはり似たような答えが返ってきた。 幾つか納得させられる答えがあったが、一番いいなと思ったのは「もっとリスクをとれ」だ。 要は後悔しないように大胆にいけ、もし

          怪物のコーデュロイセットアップ

          「今回のターゲットは橙広告だ。内容次第では多少色もつけよう。U、頼んだぞ。」 「えぇ、分かったわ、ボス。私、失敗しないので。」 ———・・・ 大手広告代理店。 テレビCM、広告、近年ではウェブCMなど企業(クライアント)の広告活動を請け負う会社だ。 大手企業の広告活動を請け負う、それ即ちメディアを牛耳ると同意義である。 スポンサーが無ければテレビは作れない。 ウェブCMが無ければYouTubeは成り立たない。 そこでは信じられないほどの金が動く。 昭和から現代まで日

          怪物のコーデュロイセットアップ

          双鷲

          鷲は生涯を一羽の相手と添い遂げる。 相手への貞節や愛の象徴として語られることもあり、一夫一婦主義を貫く珍しい生き物である。 街から随分と離れた高台に暮らす、とても貧しいが仲睦まじい若い夫婦がいた。 同じ誕生日の二人は、毎年欠かすことなくプレゼントを送り合っている。 今年もその日が近づいていた。 「なぁネリー、もっと安くしてくれよ。」 「これ以上は無理よ。いくらソニアへのプレゼントだからってダメなものはダメ。」 「ソニアがいつも穿いてるスカートがあるだろ?かなり気

          私に彩をくれた人

          美大は半年も経たずに中退した。 「絵ってさ、教えてもらうものじゃないでしょ。わたしは好きなように描く。」 格好つけた台詞を吐いたが、要は周りの才能から逃げただけだ。 物心ついた時から絵は得意だった。 学校や町のコンクールで賞を貰ったことは何度もあったし、美術協会主催のイラスト展では著名な画家に表彰されたこともある。 全て高校生までの話だ。 高校一年の冬から徐々に色使いの感覚が鈍くなった。 はじめは思い過ごしかと思っていたが、次第に賞も取れなくなり、三年生になったころ

          ワイドパンツのすゝめ

          「きりーつ、れーい、ちゃくせきー。」 はい、国語の授業をはじめます。 今日は小説の書き出しについてですね。 小説の書き出しは作者が最も伝えたい、もしくは書きたいことが凝縮されていることが多いです。 "天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず" みんな知っていますか? 1872年に出版された福沢諭吉の学問のすゝめの書き出しです。 人間は生まれながらに平等で、上下の差別はない。と言った意味です。 では次の言葉。 "恥の多い生涯を送って来ました。 自分には、人間の生活と

          ダメージを纏って。

          「こんなのはじめて。」 この台詞を女性に言ってもらう為に男という生物は存在している。 半年前に何とか予約がとれたフレンチをご馳走したり、 誕生日にとっておきのサプライズとプレゼントを渡したり、はたまたベッドの上で。 この台詞は雄として他より秀でていると同意義で、ヒエラルキーの上位に立つことを意味するのです。 この台詞を引き出す為に男達は働き、学び、今も眉間に皺を寄せながら凄まじい速度で脳を回転させています。 ここで僕が聞いた瞬間に思わず両の親指を立ててしまった素晴らしい

          梅雨の晴れ間、レモンスカッシュと着心地のいい服。

          結局、今週はずっと雨だった。 太陽と一度も顔を合わすことなく過ごした月曜日から金曜日は、特に嫌なことがあった訳ではないけれど、私の心の針を少しだけ暗い方へ振った。 テレビのニュースに目をやると、女性アナウンサーが機械のように正しい口調で明日も雨だと伝えている。 「なかなか会えませんねぇ、太陽さん…」 テレビと部屋の灯りを消し、ベッドに飛び込む。 枕に顔をうずめた時、心の針がまた一つ暗い方へ振れた音がした。 翌朝目を覚ますと、雲一つない青空、とまでは言えないけれど十分

          梅雨の晴れ間、レモンスカッシュと着心地のいい服。

          ダブルガーゼに包まれて

          新年度のフレッシュな気持ちは何日も続かず、満開だった桜は散り始めた。 だけど行楽シーズンはまだまだこれから。 外出しづらい昨今だったけど、今年はたくさん外に出るんだ。 足取りも軽くなるご機嫌な季節にそっと寄り添う。 そんなスプリングジャケットがunrodinから登場です。 今っぽく着られるボリューム感がGOOD!たっぷりと生地を使った、包まれるようなボリュームのあるシルエットが今っぽい。 ドレープ感のある軽い生地が春風に揺られて、グッと季節感を演出してくれそう。 ショ

          ダブルガーゼに包まれて