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國友公司『ルポ歌舞伎町』感想

國友公司『ルポ歌舞伎町』感想

これまで『ルポ西成』『ルポ路上生活』を著してきた國友氏の新刊。氏のルポの特徴は、その場に足繫く通うとか、数日間潜入するとかでは無く、実際その土地に居を移して住民として生活を送るというものだ。本作も歌舞伎町のヤクザタワーに転居し、取材対象として歌舞伎町の人々と出会うというよりは、同じコミュニティで生活する者どうしの出会い、さながらご近所付き合いのような形で人との繋がりが生まれていく。

ホス狂風俗嬢

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ジョン・カサヴェテス『ラヴ・ストリームス』感想

ジョン・カサヴェテス『ラヴ・ストリームス』感想

『ラヴ・ストリームス』("LOVE STREAMS")は1984年にジョン・カサヴェテス(John Cassavetes, 1929-1989)により生み出された作品である。本作は、監督であるカサヴェテス本人が演じるロバート・ハーモンと、カサヴェテスの妻であるジーナ・ローランズ(Gena Rowlands, 1930-)演じるサラ・ローソンという姉弟を中心に展開される。
流行作家であるロバートは、

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太宰治『皮膚と心』感想

太宰治『皮膚と心』感想

太宰治は、とにかく短編が良い。とりわけ女性の告白体小説の手法で書かれた短編は秀逸な作品が多く、その手法で書かれた作品のみを集めた『女生徒』という短編集が刊行されているほどである。
主人公である女性たちは、女性としての共通点を持ちながらも、それぞれがまったくの別人だ。男性作家が作り上げる女性は、飽くまでも“母として”“恋人として”など、ある特定の役割や年齢に縛られたテンプレート通りのキャラクターがほ

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ボリス・ヴィアン『心臓抜き』──心臓は停止し、天国は閉ざされる

ボリス・ヴィアン『心臓抜き』──心臓は停止し、天国は閉ざされる

『心臓抜き』(L'Arrache-cœur:1953)は、改題される前の草稿では『女王と小娘たち』というタイトルであった。またこの段階では、著者ボリス・ヴィアン(Boris Vian, 1920-1959)自身の自伝的要素が強い作品だったという。クレマンチーヌは彼の母親であるイヴォンヌの面影が色濃く投影されており、クレマンチーヌ=イヴォンヌはまさに「女王」として三人の子供たちに権力を振りかざすエゴ

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還元されるスティーヴ・ライヒという現象

還元されるスティーヴ・ライヒという現象

1950年代後半から60年代にかけて、のちにミニマル・ミュージックと呼ばれることとなる音楽が誕生した。主なミニマル・ミュージシャンとして、スティーヴ・ライヒ(Steve Reich, 1936-)、ラ・モンテ・ヤング(La Monte Young, 1935-)、テリー・ライリー(Terry Riley, 1935-)、フィリップ・グラス(Philip Glass, 1937-)の4人が挙げられる

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町田康『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』感想

町田康『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』感想

※2022年10月執筆。

猫のエッセイ(「エッセイって言葉がセンスないんじゃ。随筆と言ひ給へ」と本著に書いていた)を全部読んでしまったので読んでみたが、存外頭を使う内容だった。哲学書の類いはしばらく読めそうに無い。本著は以下のテーマに大別される。

・幼少期に読んだ本
・青年期に読んだ本
・歌詞について
・詩とは何か
・文体について
・“笑い”について
・小説家として影響を受けた小説家
・芸能・

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高野秀行『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』感想

高野秀行『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』感想

丸山ゴンザレスさんと同じくクレイジージャーニーで知ったノンフィクションライターの高野秀行さん。早稲田大学の探検部に所属し、その頃からハードな旅にチャレンジし、同部では今でも伝説的人物だとか。ちなみに、丸山さんの憧れの人物の一人でもあり、裏社会ジャーニーにも出演している。

元々(?)は幻獣や珍獣を探したり、辺境の地域の文化を紹介したりといった内容の著作が中心だが、本著はこれまで高野さんが世界各地で

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町田康『猫とあほんだら』感想

町田康『猫とあほんだら』感想

※2022年10月執筆。

シャンティーとパンクと出会うところから始まる。熱海で新居の内見をしている際に、候補にしていた物件の前に、衰弱しきった様子で捨てられていたのを発見し、これは放っておけぬと保護したわけだが、手遅れになる前に、生かそうとしてくれる二人に見付けられてよかった……。旧宅の近所に住む人が、仔猫のシャンティーとパンクを見てそのあまりの可愛さに泣いたと書いてあったが、写真を見ると無理も

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アンソニー・ボーディン『キッチン・コンフィデンシャル』感想

アンソニー・ボーディン『キッチン・コンフィデンシャル』感想

アンソニー・ボーディン。1956年ニューヨーク市生まれ。フランス人の血を引く父親はコロンビア・レコードの重役、母親はジャーナリストという恵まれた環境で育つ。温室で甘やかされ、苦労せずともそのまま上流階級の大人になるのだろうと純粋に信じていたボーディンは、少年時代にバカンスで訪れた父親の祖国フランスの地で、食の楽しみに目覚める。飛び級で高校を卒業し、ヴァッサー大学に入学。友人から紹介されて始めた皿洗

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『心と意識と:幻覚剤は役に立つのか──第1章 LSD』感想

『心と意識と:幻覚剤は役に立つのか──第1章 LSD』感想

アンソニー・ボーディン『キッチン・コンフィデンシャル』を読み終え、彼のWikipediaに目を通してみたところ、Netflix番組である本作に出演しているという記述が。料理番組が観たいのに……とやや不満を抱きつつも、せっかくなので視聴した。

1秒も出て来なかった。
何?ガセ?それとも見逃した?数分間意識失ってた?あるいはベーシックプランだから?貧民に見せるボーディンはねェってこと?(次長課長大好

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レオス・カラックス『アネット』感想

レオス・カラックス『アネット』感想

恐らく、現役で活躍している映画監督の中だったら、レオス・カラックスが一番好きだ(以前、その地位を占めていたのはゴダールだった。映画史に深く、そして美しく名前を刻んだ伝説的人物といえる彼が、昨年まで生きていた事実に驚嘆するものの、この喪失感は一生拭い去れないだろう。一方で、彼の死に方が安楽死だったというのは、あまりにもジャン=リュック・ゴダール監督らしい)。彼の作品はすべて観たし、ソフトも持っている

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町田康『猫のあしあと』感想

町田康『猫のあしあと』感想

※2022年10月執筆。
※暗い話題多めです。

町田康がまだ熱海に引っ越す前の、六本木時代の話。作中、生死の境を彷徨った末、一命を取り留めたエルという仔猫が登場した一方で(昨日読んだ『猫のよびごえ』ではすっかり元気な成猫となっていた)、2匹の猫が亡くなってしまった。
猫はとても賢く、それはもう人間なんぞ足元にも及ばないくらいなのだが、病気に罹った時の対処法や病院での診察や治療のこと、食事の管理等

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町田康『猫のよびごえ』感想

町田康『猫のよびごえ』感想

※2022年10月執筆。

久しぶりに丸山ゴンザレス周り以外の人の本を読んだ。町田康なら小説も読めるかも知れない。が、無理して苦しむ必要も無いのでこの後もエッセイを読もうかと思う。
猫のエッセイは能町みね子氏以来で、かつその前に読んだのは町田康の『猫にかまけて』だった。猫は好きだが、積極的に他人の猫のことを知ろうとしていない。SNSやYouTube等に於ける殊更に贔屓している猫アカウントなども存在

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丸山ゴンザレス『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』感想

丸山ゴンザレス『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』感想

※2022年10月執筆。

メキシコの麻薬戦争に潜入取材したら麻薬カルテルからめちゃくちゃ怖い脅しをされた話は、『人怖』で読んだのだったか。そこに至るまでの流れが、写真も交えて詳らかに記されているので、既知の話だが初見のように慄然とした。生きて帰って本当に来られてよかったね……。
警察が麻薬カルテルを放置している為、地元住民が武装して自警団を結成するも、カルテルのメンバー(現役含む)が加入しており

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