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ビジネスコミュニケーションの鍵 - 「ハイコンテクスト」と「ローコンテクスト」


ビジネスの世界において、個々の違い・特性・持ち味などを理解したうえでコミュニケーションを効果的に進めることは、成功への鍵のひとつとなります。
 
異なる文化・価値観、バックグラウンドなどを持つ人たちが一堂に会しグローバルなビジネスが活発になる中で、異なるコミュニケーションスタイルを理解することがますます重要になっています。

また、ここ数年間で加速した、非言語要素が少ない(言語要素がメインとなる)オンラインでのコミュニケーションにおいては、個々の違い・特性・持ち味などを理解したコミュニケーションへの配慮と同時に、より明確に物事を伝えることが求められます。さらには、LINEなどでの端的なテキスト主流のコミュニケーションを重視する方も増えるなか、ビジネス環境のみならず日常生活においても同様のことが言えるでしょう。
 

「ハイコンテクスト」「ローコンテクスト」という表現を耳にしたことがある方も多いかもしれません。
 
これらの概念は、人が情報をどのように伝え、受け取るかを表す 「異文化間コミュニケーション」スタイルとも言え、ビジネスコミュニケーションにおいて特に認識しておくべき要素です。

「ビジネスコミュニケーションの鍵」と題して、それぞれのコンテクストの特性を理解したうえで、私たちはどのように向き合い活用していくことが望ましいのか?  2回の記事にわたり考察していきたいと思います。
 



1.  ハイコンテクストとローコンテクスト

 
<ハイコンテクスト>
ハイコンテクストとは、文化・所属などの共有性が高く、言葉以外の表現・要素に頼るコミュニケーションスタイルを指します。つまり、話された言葉や表現という明らかなことだけではなく、非言語的な身振りやその時の状況(空気感や雰囲気、人間関係など含み)、または、文化的な背景など、周囲の状況全体が重要な意味を持つとされます。
 
多くのアジア諸国や中東などで見られるスタイルのようで、日本はその中でも顕著であり、往々にして、それぞれが間接的な表現やほのめかし、暗示、時に曖昧表現などを多用し、相手の反応や感情を察知して読み取ることが求められます。「行間を読む」「阿吽の呼吸」「暗黙の了解」といったことがよく言われるのも特徴ですね。
 

 <ローコンテクスト>
一方、ローコンテクストは、文化や会話の前後関係・背景の共有性が低く、それらに頼らないダイレクトなコミュニケーションスタイルを指します。ハイコンテクストのような暗示やほのめかし含めて曖昧な表現は少なく、意思・意見、提案・要望などを明確に伝達することが重要になります。
 
主に欧米諸国で見られる傾向であり、言葉や表現自体が明確で直接的であるため、情報の受け手は、言語・表現以外の要素をあまり考慮することなく、言語的コミュニケーションをストレートに捉えることが多いです。
 


次章では、それぞれの特徴を掘り下げ、どのようにビジネスコミュニケーションに活かしていくかについて考察するために、私の長年の外資系企業経験と、その後に経験した日系上場企業でのコミュニケーションの特徴にも触れながら、具体的事例としてお伝えできればと思います。

異文化間コミュニケーションのスタイルを理解し、適切に運用することで、より効果的で円滑な「繋がり」や「共創」を築くためのヒントを探っていきましょう。
  

2.    外資系企業での事例

私は外資系企業で17年間勤務した中で、特に最後の約7年間は、日本法人のHR責任者としてのみならず、アジア・オセアニア地域のHRリーダーシップメンバーの一員として、グローバル環境でのビジネスをけん引していく立場にも就いていました。また、30代後半、英国系FMCG(日用消費財)企業でHRディレクターに就いていた際は、英国本社が全世界に対して推進するHR主導のプロジェクトのコアメンバーにアジア地域から唯一選ばれたことがあり、日本の社員の方々が通常勤務しない時間帯(英国の朝~昼 = 日本の夕刻~夜)に、一度帰宅して、自宅からオンライン(当時は skype for business)で毎週にわたり、複数か国のHRリーダーの方々と議論をしたり、企画立案、そして全世界に展開するための推進をした経験もあります。
 
つまり、私が生まれ育った日本特有の「ハイコンテクスト文化」でのコミュニケーションは通用しないビジネス環境なのです。
 
外資系企業を中心に、英語を共通言語として展開するグローバルビジネス環境で「ローコンテクスト文化」が取られる背景のひとつは、おそらく「英語」自体の特性からくるものだと、私は実体験から考えることがあります。
 
<その例として>
・主語 + 動詞で始まり、冒頭で結論のおおよそが見える
・否定形の場合も主語の直後が故、冒頭で話の方向性の推測がつく
・プレゼンテーション資料やCV(職務経歴書)などにおける箇条書き記載表現は「動詞」スタートで簡潔・明確表記
・意味により言葉が細かく分かれていて具体的
 
最後に示した特徴に関して、どういうことかというと、例を出せば分かりやすいです。日本語で「見る」を英語で表すと、「see, look, watch」などというように、微妙なニュアンスの違いごとに異なる単語が存在します。ローコンテクスト文化が主流となった背景には、上記のような言語の具体化も影響しているのかもしれませんね。
 

私は、長年の外資系企業勤務経験の中で、この第2章冒頭で記載したようなチャレンジングな機会をいただき、具体的には、多様性の理解・尊重・包括を心掛け、相手の文化や宗教上のタブー・個人の事情などに配慮しつつ、同時に、伝えるべき事象や自身の明確な意思・主張などを直接的で分かりやすい言葉に変換して、躊躇無くスピード感持って伝達するようにしていました。また、不明な点はあやふやにせず、その場で「問い」を繰り返し、Alignment(相互認識を整え合意して前に進めること)が取れている状態を築くようにしていました。そして、それがどの国の方々にも受け入れられやすく、グローバルなコミュニケーション環境になればなる程、敬意を払われることが増え、比例して、様々なチャレンジングな機会をより一層いただけるきっかけに繋がっていきました。
  

3.    日系企業での事例

17年間の外資系企業での経験を経て、前職では CHRO(最高人事責任者)として、私にとっては、HR責任者としては初めて日系企業に勤める機会をいただきました。入社後に直面した主な特徴は以下です。
 
<日系企業で直面した特徴例>
・新卒一律入社文化が日常コミュニケーションでも根付いている(「〇〇年の代」「〇〇年入社」など、新卒入社以外の多くの社員にとっては不明な情報でのコミュニケーションが頻度多くオフィシャルな場でもなされる)
・経験者採用での多くの入社者にとって分かりづらい社内用語や風習が多い
・さらには、世の中では通用しづらい社内特有の複雑な決まり事や属人的ルールが多い
 
上記はほんの一例ですが、これらの風習自体も「ハイコンテクスト文化」の象徴とも言えるのではないでしょうか。毎年・毎月入社する様々なバックグラウンドを持つ経験者採用での入社者にとっては、「疎外感」を感じる「Exclusion」に当たる可能性が高いコミュニケーションと言えます。

ひとつの会社・組織で長年勤務している方々の「当たり前」は、世の中の「当たり前」ではなく、新しく入ってくる未来の仲間を「Inclusionできていない可能性」をまずは自問すべきです。そもそも「当たり前(=自身の枠組の中だけでの話)」という価値観は、グローバルビジネス環境では存在しないと思った方が良いことが多いです。
 

日常コミュニケーションにおいても、例えば、マネージャーが、「明日急に大事な会議が入って準備が大変なんだよね」と部下に呟いたところ、「阿吽の呼吸」ばかりに頼り、またそれに慣れきった関係性だと、「手伝いましょうか」と成り立っているのかもしれませんが、果たしてそれって健全な状態でしょうか? 本音では「部下である私がまた突発仕事をしないといけないんですね・・・」と思っていないかなど、果たして本音でコミュニケーションが取れているのかどうかを考えるべき事態です。

 
これらは、ローコンテクストのビジネス環境ではあり得ないのです。

ローコンテクスト文化においては、明確な目的、仕事と役割、それに紐づくゴール設定、透明性あるフィードバックと評価が一貫して伴うことが前提にあり、上記の様な曖昧なコミュニケーションはまず発生しません。こう考えると、日本の会社・組織の評価やフィードバックが曖昧と言われる所以も、属人的だと言われる所以も、日本特有のハイコンテクストな特性からきているのかもしれませんね。


これらのコミュニケーションスタイルの「違い」は、ビジネスの場においても大きな影響を及ぼします。ただ、「違い」とは 「どちらが正しい・正しくない」 ということではなく、「特性」として認識し、相手の立場やコミュニケーションスタイルの背景などを理解しておくことが、相互理解のみにとどまらず、協業、さらには「共創」していくうえで、大きな味方になるものだと私は思っています。


それぞれのコンテクストの特性と事例を踏まえて、次号では、人同士の繋がり、ハイブリッドな働き方などにおける、今とこれからの時代に求められるビジネスコミュニケーションの可能性について考察していきます。

ここまでお読みいただきありがとうございます!
次号も是非ご覧ください。


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リモートワークの日常

人事の仕事

外資系17年(HRトップ 7年)とプライム市場上場企業 Global CHRO(最高人事責任者)経験の私が「誰もが独自性を強みとして持ち、新しい無限の可能性を秘めている」を自身のコーチング哲学に、2023年3月 起業をしました。サポートくださる方々と一緒に日本を元気にしたいです!