藤田雅矢

SF系もの書き&植物育種家。ゆるゆるやってます。主にマイクロノベルの置き場です。『糞袋…

藤田雅矢

SF系もの書き&植物育種家。ゆるゆるやってます。主にマイクロノベルの置き場です。『糞袋』『星の綿毛』『クサヨミ』『つきとうばん』『植物標本集(ハーバリウム)』『ひみつの植物』『捨てるな、うまいタネneo』など。BFC5に参戦。連絡は、最下欄の「クリエイターへのお問い合わせ」へ。

記事一覧

「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87

 茎長120mはあるゴライアスヒナゲシが朝焼けに蕾をもたげる。大きな一日花が散るとき、その花弁の重さに押しつぶされる家もある。熟れた実からこぼれ落ちる一抱えもあるケ…

藤田雅矢
1日前
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また「終末時計」のマイクロノベル 他3篇 #86

 また終末時計12時過ぎてるやんか、あんたら何考えてんの。ちゃんと脳みそ大きくしてやって宇宙にまで行けるのに、殺しあいするとかアホちゃう。神さんにかて、堪忍袋があ…

藤田雅矢
6日前
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SFカーニバル2024

代官山蔦屋書店にて開催されたSFカーニバル、ブースまで来てくださった方、お会いした皆さん、ありがとうございました!

藤田雅矢
11日前
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「ラショウモンカズラ」のマイクロノベル 他3篇 #85

 鬼女の腕が咲く。花の形から渡辺綱が切り落とした腕に見立てて、ラショウモンカズラと名付けられた。その腕から鬼女本体を再生する技術ができたそうで、そのうち小さな鬼…

藤田雅矢
2週間前
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植物掌景

 このnoteから、よりぬきマイクロノベル20篇のZINE『植物掌景』作りました。冊子で読むとまた違います。 「えほんやなずな」と、 「弥生坂 緑の本棚」で、お取り扱いし…

藤田雅矢
4週間前
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「春風」のマイクロノベル 他3篇 #84

 両手をうーんと伸ばして、両足も上げるんだよ。そうそうその調子、いい感じだ! 春先、眠っていた冬芽たちを機嫌よく起こして、葉を広げたり花を咲かせたりするのが、わ…

藤田雅矢
4週間前
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「黒いケシ」のマイクロノベル 他3篇 #83

 ひなげしの中心にある実となる雌しべの部分、花びらが落ちたあと朱肉をつけて印鑑に使うことがあるのを知っているか。もし、この黒いケシの実の印鑑を求められたら覚悟す…

藤田雅矢
1か月前
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「3」のマイクロノベル 他3篇 #82

「3」が落ちていた。つまり3の差分だけ、これまでとは世界は変わってしまったことになる。裏返しになった3を拾い上げると、3はとても軽かった。そして、小さく鳴いた。3と…

藤田雅矢
1か月前
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「オニシバリ」のマイクロノベル 他3篇 #81

 山道で気づく花の香り、緑の花を咲かせるオニシバリだ。ずいぶん山に木が増えた。迎え撃つ準備を山が知らせてくれている。鬼が攻めてくる日が近い。この木の繊維で綯った…

藤田雅矢
1か月前
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阿弥陀さまのマイクロノベル 他3篇 #80

 今年は仏さまがえらい豊作でな、どんどん生えていらっしゃる。阿弥陀様なんか生えすぎたのを収穫して缶詰にして、下の村で土産物になってる。さっと炒めていただけば、そ…

藤田雅矢
2か月前
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マンホールのマイクロノベル 他3篇 #79

 このマンホールの下には雨のリサイクル工場があって、せっせと雨雲を製造している。砂漠にはそういうものが無いから雨が降らないんだと教わったが、雨の多い熱帯雨林にも…

藤田雅矢
2か月前
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「セツブンソウ」のマイクロノベル 他3篇 #78

 鬼は外の声に、豆が飛んで来る。やめてくれ、どうしてそんな嫌うんだ。逃げる途中、鬼はそっとしゃがんで大きな手でセツブンソウを摘んで去って行く。セツブンソウの花言…

藤田雅矢
3か月前
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霧の向こうのマイクロノベル 他3篇 #77

 霧の向こうからやってきたのは、霧だった。何度振り返っても、通り過ぎてきた霧に包まれて何も見えない。やがて陽が射してくると霧は薄れ、後ろにはこれまで振り返った自…

藤田雅矢
3か月前
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「スズカケノキ」のマイクロノベル 他3篇 #76

 スズカケノキの由来は、山伏の着る鈴懸衣の結袈裟につく球状の飾り――梵天に実が似ているからやそうな。そういえば、近所の烏天狗もときどき取りに来ておるからな。あん…

藤田雅矢
3か月前
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「第二世界」のマイクロノベル 他3篇 #75

 青空の下、警報が鳴り響く。見上げれば、ぽっかりとクジラ雲。あれか。このところ接近度が高く、連日どこかで第二世界との接合面が現れる。あの雲も実体化すれば、巨大な…

藤田雅矢
4か月前
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「ク」の字のマイクロノベル 他3篇 #74

 ある日、道に落ちている「ク」が発見された。その翌日には「ア」、さらに「イ」と「ウ」が見つかった。しかし、その次に見つかったのは「エ」ではなく「ト」であった。「…

藤田雅矢
4か月前
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「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87

「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87

 茎長120mはあるゴライアスヒナゲシが朝焼けに蕾をもたげる。大きな一日花が散るとき、その花弁の重さに押しつぶされる家もある。熟れた実からこぼれ落ちる一抱えもあるケシ粒を拾って帰ると、今日の夕飯になる。

 六十年前、こうしておまえを囚えておけば、この国のどこまでもオレンジ色の花を咲かせることは無かったかも知れない。そして、あの重大な事件も起こらなかったかも知れぬ。ああナガミヒナゲシよ、時を戻して

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また「終末時計」のマイクロノベル 他3篇 #86

また「終末時計」のマイクロノベル 他3篇 #86

 また終末時計12時過ぎてるやんか、あんたら何考えてんの。ちゃんと脳みそ大きくしてやって宇宙にまで行けるのに、殺しあいするとかアホちゃう。神さんにかて、堪忍袋があるんやで。もうええわ、次は鯨に任せるし。

 同じ季節にコスモスとオダマキとチューリップとビオラの花が一直線に並ぶとき、あなたの心の奥底にある願望も、この花の直列に引き寄せられて一気に開花する。そのための特別な開花調節装置、お安くしておき

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SFカーニバル2024

SFカーニバル2024

代官山蔦屋書店にて開催されたSFカーニバル、ブースまで来てくださった方、お会いした皆さん、ありがとうございました!

「ラショウモンカズラ」のマイクロノベル 他3篇 #85

「ラショウモンカズラ」のマイクロノベル 他3篇 #85

 鬼女の腕が咲く。花の形から渡辺綱が切り落とした腕に見立てて、ラショウモンカズラと名付けられた。その腕から鬼女本体を再生する技術ができたそうで、そのうち小さな鬼女が咲きまくって暴れだすから気をつけなよ。

 幸せの黄色いテントウムシ、植物のうどんこ病の菌を食べるのだそうだ。そういえば、となりのスナップエンドウの葉、うどんこ病にやられて白くなっていたな。ありがたい虫だな。さてと、街路樹を切りに行くと

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植物掌景

植物掌景

 このnoteから、よりぬきマイクロノベル20篇のZINE『植物掌景』作りました。冊子で読むとまた違います。

「えほんやなずな」と、

「弥生坂 緑の本棚」で、お取り扱いしております。

「春風」のマイクロノベル 他3篇 #84

「春風」のマイクロノベル 他3篇 #84

 両手をうーんと伸ばして、両足も上げるんだよ。そうそうその調子、いい感じだ! 春先、眠っていた冬芽たちを機嫌よく起こして、葉を広げたり花を咲かせたりするのが、わたしの仕事。もう、春風になってしまったんだ。

 世が乱れたとき、空から降りてくると予言された救世主の瓶詰めを開けるため、いにしえに造られたという栓抜きが、これだ。栓抜きを使うための巨大ロボットはすでに完成しているのだが、救世主はまだ降りて

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「黒いケシ」のマイクロノベル 他3篇 #83

「黒いケシ」のマイクロノベル 他3篇 #83

 ひなげしの中心にある実となる雌しべの部分、花びらが落ちたあと朱肉をつけて印鑑に使うことがあるのを知っているか。もし、この黒いケシの実の印鑑を求められたら覚悟するといい。特別な印鑑は、別世界との契約だ。

 ネアンデルタール人は、ムスカリの花を死者に手向けた。というけれど、土から花粉が見つかっただけだ。自分が昔スナネズミだった頃、あの花が好きで地面の巣穴に貯め込んだものだ。骨が埋まってるとは知らな

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「3」のマイクロノベル 他3篇 #82

「3」のマイクロノベル 他3篇 #82

「3」が落ちていた。つまり3の差分だけ、これまでとは世界は変わってしまったことになる。裏返しになった3を拾い上げると、3はとても軽かった。そして、小さく鳴いた。3と暮らすようになったのは、それからだ。

 3と暮らすいっても、なんということはない。朝起きたら「おはよう」といい、「ただいま」と帰ってくれば、3はちょっと起き上がって応えてくれる。世界の差分が部屋にいるというだけで、外の世界と違う気分に

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「オニシバリ」のマイクロノベル 他3篇 #81

「オニシバリ」のマイクロノベル 他3篇 #81

 山道で気づく花の香り、緑の花を咲かせるオニシバリだ。ずいぶん山に木が増えた。迎え撃つ準備を山が知らせてくれている。鬼が攻めてくる日が近い。この木の繊維で綯った縄は、鬼には切れぬという。縛り上げるのだ。

 冬の空っ風に乾ききった藤の莢がカランと音を立てて落ち、中の種子がバラバラとこぼれる。その様子から未来を予言するのが、藤莢占い師だ。だがそれを攪乱するのは、子供らによる莢の投げ合いだ。それで未来

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阿弥陀さまのマイクロノベル 他3篇 #80

阿弥陀さまのマイクロノベル 他3篇 #80

 今年は仏さまがえらい豊作でな、どんどん生えていらっしゃる。阿弥陀様なんか生えすぎたのを収穫して缶詰にして、下の村で土産物になってる。さっと炒めていただけば、そのまま極楽へと連れて行ってもらえるらしい。

 オランダミミナグサ、漢字で書くと阿蘭陀耳菜草。阿蘭陀のところが、阿弥陀と一字違いで、ありがたい気がして、拝んでいるうち宝くじが大当たりした人がいるらしい。あやかりたいと、道ばたで拝んでいる人も

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マンホールのマイクロノベル 他3篇 #79

マンホールのマイクロノベル 他3篇 #79

 このマンホールの下には雨のリサイクル工場があって、せっせと雨雲を製造している。砂漠にはそういうものが無いから雨が降らないんだと教わったが、雨の多い熱帯雨林にも無いとわかって、疑うことは大事だと知った。

 その鉄板、増えるよね。鉄板に見えるかも知れないけど、それ生きてるよ。裏返したら、脚がいっぱい生えてると思う。やがて大きな鉄板は消え、そのあとに落ちていた小さな鉄板が人を襲いはじめるのは三日後の

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「セツブンソウ」のマイクロノベル 他3篇 #78

「セツブンソウ」のマイクロノベル 他3篇 #78

 鬼は外の声に、豆が飛んで来る。やめてくれ、どうしてそんな嫌うんだ。逃げる途中、鬼はそっとしゃがんで大きな手でセツブンソウを摘んで去って行く。セツブンソウの花言葉は「人間嫌い」、鬼がつけたとも言われる。

 この辺りでは、仏さまはこうやって地面から生えてくるのだよ。たくさんの仏さまがいらっしゃるよう、丹精にこの木を育てるんだ。よかったら、この木の種子をあげよう。この木も、ほかの惑星から持ち込まれた

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霧の向こうのマイクロノベル 他3篇 #77

霧の向こうのマイクロノベル 他3篇 #77

 霧の向こうからやってきたのは、霧だった。何度振り返っても、通り過ぎてきた霧に包まれて何も見えない。やがて陽が射してくると霧は薄れ、後ろにはこれまで振り返った自分が列をなして昇華し、消えていくのだった。

 遊園地にはケムール人が出るから気いつけやと祖父はいうけど、落石注意と同じでどうやって気をつけたらええんや。近づくなというのかも知れんけど、それでは観覧車に乗れへんし。そや!ケムール人になればえ

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「スズカケノキ」のマイクロノベル 他3篇 #76

「スズカケノキ」のマイクロノベル 他3篇 #76

 スズカケノキの由来は、山伏の着る鈴懸衣の結袈裟につく球状の飾り――梵天に実が似ているからやそうな。そういえば、近所の烏天狗もときどき取りに来ておるからな。あんたも、身につけると空飛べるかも知れへんで。

 夜明けとともに、ホトケノザにつく霜の結晶をバケツいっぱいに集めて回る。これを溶かした水で炊いた米は特別だ。にぎり飯にして持っていくと、旨い旨いと阿弥陀さんが召し上がる。ありがたいことだ。南無阿

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「第二世界」のマイクロノベル 他3篇 #75

「第二世界」のマイクロノベル 他3篇 #75

 青空の下、警報が鳴り響く。見上げれば、ぽっかりとクジラ雲。あれか。このところ接近度が高く、連日どこかで第二世界との接合面が現れる。あの雲も実体化すれば、巨大なクジラがこの街に落ちてくる。さあ逃げるぞ。

 並存する第二世界にも遊園地があるらしい。雨あがりに天使の梯子がかかるとき、蜃気楼のようにその姿を見せ、ジェットコースターが走るのが見える。そこへ行くことはできないが、遊ぶ異形の仔たちの歓声が聞

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「ク」の字のマイクロノベル 他3篇 #74

「ク」の字のマイクロノベル 他3篇 #74

 ある日、道に落ちている「ク」が発見された。その翌日には「ア」、さらに「イ」と「ウ」が見つかった。しかし、その次に見つかったのは「エ」ではなく「ト」であった。「テ」は彼らが戻ってくるのを待ち望んでいた。ぼくらはテイクアウトの看板なのだから。

「き」と書いた紙を渡されて列に並ぶ。次に「し」の字、さらに「や」の字を渡される。順番が来て、「では、汽車になってください」というので、「は? 嫌だよ」と答え

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