マガジンのカバー画像

『四顧溟濛評言録』

20
私、雁琳が書を読み世事を鑑みる中で私かに惟うことを綴りました、中編から長編の文章を載せて参ります。「溟濛」とは薄暗く先の見えないことを指します。どこを見渡してみてもこの暗い世の中… もっと読む
運営しているクリエイター

2020年2月の記事一覧

「欲望」についての走り書き的覚書−「欲望とは〈他者〉の欲望である」

 「欲望とは〈他者〉の欲望である」という有名な言葉がある。
 これはフランスの精神分析家ジャック・ラカンの言葉である。「他者」という言葉に山括弧を付けているのは、それが元のフランス語において大文字(l’Autre)だからである。つまり、それは単に「他人」を指しているのではなく、それをも含めた「他なるもの」、すなわち自己ではないものを指していると考えられる。ラカン派の精神分析においては、この〈他者〉

もっとみる

「地元の名士と若旦那」の豪遊と衰退−JC京都会議の思い出からの連想

 一年に一度、千年の古都の繁華街である祇園と木屋町に札束が降って来る時期がある。高級な背広を着て、胸には同じバッジを付けた大勢の生まれの良さそうな「青年」達が全国からこの街に集まっては、連れ立って夜の街を闊歩し、そこら中でタクシーを飛ばす。彼等は、公益社団法人日本青年会議所(公式略称JCI Japanだが、通例JCと呼ばれている)の会員であり、地方の中小企業の社長であったり、開業医であったり、自分

もっとみる

「女の、女による、女のための意見表明」が「選ばれなかった男達」を圧殺する−作家アルテイシア女史の婚活コラムを読んで

 令和2年2月6日、『現代ビジネス』にて、「「結婚できない女」と「結婚できない男」、その決定的な違いについて そこから見えるジェンダーギャップ」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70208)という文章が公開された。著者は「アルテイシア」と名乗る文筆家であり、『現代ビジネス』のプロフィールには「1976年、神戸生まれ。大学卒業後、広告会社に勤務。夫であるオタ

もっとみる

「人間が薄くなる」中で、「文化への意志」を恢復すること

 つい先日、「嘗ては抽象化の象徴として称揚されていた裸婦像が今では「悪い」「性的欲望の対象」としてしか見られなくなっており、「性欲そのままのもの」と「昇華されたものとしての性欲」という区分すら最早考えられなくなった」という一連の議論をTwitterのタイムライン上にて目にした。そこに更に、「今ではあらゆることが両義性や多義性ではなく「文字通り」に受け取られるようになった」という議論が続く。私は曲が

もっとみる

何故女ばかりが「男でも女でもなく「人間」として見て欲しい」と言うのか

 

 「男でも女でもなく「人間」として見て欲しい」という言葉を何故女性ばかりが言い立てるのか。しばしば「(多くの西欧語でそうなっているように)旧来の価値観では「人間」とは男性であって、女性は「人間」扱いされていないからだ」などと言われるが、女性が「人間」扱いされているか否かは一旦措いておいたとしても、男性身体に基づく身体図式(認識と行為或いは感覚と運動の連関構造による、身体経験を通した自己理解と

もっとみる

「ジェンダー」は何故「セックス」へと舞い戻るのか−猥語と身体

 

 中央アジア、トルクメニスタンはアハル州にあるダルヴァザという村には、「地獄の門」というクレーターがある。1971年に地質学者がボーリング調査をした際、偶然にも天然ガスに満ちた空洞にぶち当たってしまい、採掘現場諸共奈落の底に落ちる落盤事故が起き、直径50mから100mに至る巨大な穴が空いてしまった。有毒ガスの流出を防ぐために火を灯すことになったが、地下から滔々と溢れ出る可燃性ガスのために以来

もっとみる