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連載小説【正義屋グティ】   第53話・訳アリ合唱団

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】【㊗連載小説50話突破】
前話はコチラ→【第52話・巨大カタツムリ】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第5話・意地悪な】(ジェニー初登場)
     【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(ヨハンとホークの出会い)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】


~登場人物~

グティレス・ヒカル
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
10歳の頃は大人しく穏やかな性格だったが、夢の中で出会った狼の話を聞き『正義』について疑問を抱くようになる。そしてその直後のデパートでの事件を経て自分の『正義』を見つけ、祖父の勧めから正義屋養成所に入学することを決意した。しかし、そのデパート事件で怒りを制御できなくなる病を患ってしまい、もしも怒りの感情を覚えたときグティの体は狼に変貌してしまう……。

ゴージーン・パターソン
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
総合分校時代からのグティの大親友。いつもにこやかで優しい性格であるがそれが故に他人の頼みを断れない大のお人よしだ。10歳の頃にグティの父親と交わした『小さな誓い』を守るために正義屋養成所に入所した。グティの謎の病気のことを知っている数少ない人間の一人である。優秀な頭脳を使いグティを支え続けた末にあるものとは...。

ノヴァ ジェニー
年齢 16歳(正義屋養成所4年生)
身長175㎝という女子にしてはなかなかの巨体で、おまけにガタイの良い。そのため後ろ姿からだとよく男と間違えられる。いつも明るくて元気な性格から密かに『太陽ちゃん』と呼ばれている。そんな彼女にも正義屋を目指す事となった壮絶な過去があると言う。

~前回までのあらすじ~

正義屋養成所襲撃事件からおよそ一年と半年。正義屋養成所の四年生となったグティ達は約65年前に起きた世紀対戦について学び、五神の一人であるコア様がホーク大国に誘拐されている事を知る。当時危機感を持ったカルム国は、世紀対戦の舞台であるスノーボールアイランドに向かい、突如島を覆ったとされている謎の氷を自国に持ち帰り研究を試みた。が、未知の物体をカルム国で研究することの危険性を懸念した政府は、同じ中央大陸連合国のまいまい島にその研究を任せることにした。そして3016年の現代、まいまい島に新しく代わった首長と顔を合わせるためカルム国の外務大臣がまいまい島に向かっていた。その護衛を任されたのが、グティ達だった。

53.訳アリ合唱団

まいまい島。中央大陸連合国の一つであり、十年ほど前からは中央五大国の一国を担っている。気候は万年真夏のような気候であり、太陽の出ている日は溶けるような暑さに耐えながら国民は日々過ごしている。この島は簡単に説明すると巨大なカタツムリのような形をしていてるのだが、国民が住んでいるのはカタツムリの甲羅の部分であり、模様の渦巻きが小さく(内側)になるほど高い場所に位置し、模様が大きくなる(外側)の場所ほど低く位置している。この甲羅の頂上部分には首長が暮らしている王宮があり、今回カルム国の外務大臣が向かおうとしている目的地でもある。全国民が裕福で幸福度の高い国と評判だが、国内の情報はすべて国が介しているため、本当の国民の声を世界はまだ知らなかった。

まいまい島 甲羅港

「ついたぞお前ら」
グリルのワンピース事件からおよそ一時間。甲板で瞼を閉じ、日光浴を楽しんでいたグティ達十人はウォーカー先生の耳障りな低い声でゆっくりと目を覚ました。そこには日光浴を始める前にはあった海上の涼しげな空気はどこにもなく、肌着と体が密着するような嫌な暑さを含んだ空気がグティ達を取り囲んだ。
「あっちい」
一番初めに身を起こしたのはアレグロだった。アレグロは汗ばむ右手を太陽にかざし目を細くすると、同級生たちが暑さで半分気絶しているのに気づき小さなため息をついた。
こいつらはもう起き上がらないのではないか。僅かに頭に浮かんだそんな言葉とは裏腹に、何かに引っぱられるような仕草を見せカザマ、スミス、チュイと順番に立ち上がった。
「なんの騒ぎだい」
次に起き上がったパターソンも港の方から聞こえる陽気な音楽と歌声に釣られ、太陽で熱せられた甲板の柵に手を付け目を丸くした。パターソンの瞳には波が打ち付ける砂浜の上で、五百人を超える人々が見たことのない楽器を演奏している光景が映った。細長くしなった棒に弦を括り付け、さらに細い棒でその弦をたたき鋭い音を出す者や、椅子の上に座り膝で太鼓のようなものを挟み込みリズムよく叩く者。カラフルな穴の開いた石に口をつけ甲高い音色を奏でる者などと、どこを見渡しても興味深いものだらけだ。目を輝かせ居ても立っても居られなくなったパターソンは、未だに転がっているグティの肩を乱暴にゆすり、
「グティ!早く起きて、お祭りだよ!」
と耳元で叫んだ。
「お祭りだって?!」
その言葉にいち早く反応したのは『太陽ちゃん』ことジェニーだった。ジェニーは空にめがけて雄たけびを上げるとパターソンと甲板に設けられた柵を一跳びで超え、三メートルほど下に位置する砂浜に見事に着地した。
「ふーふー!気持ちのいいお譲ちゃんだね」
「えへへ、でも私お祭りには容赦しない主義なので!」
両目を閉じ長い爪をつけ皿の中に張ってある弦を弾いている怪しすぎる初老の男にも気にせずジェニーはそう返答した。男の服装は薄汚れた白の布を上下に羽織っているだけで、右足には銅の錠が巻き付いている。それに気づいたジェニーは男の右足を指さすと、すかさず
「おじさん、これ何?」
と尋ねた。すると男は困ったように頭をポリポリと掻くと、ひきつった笑顔をジェニーに見せる。
「お嬢ちゃんの声から考えるに、きっともう数年ほどで知ることになるさ。わしは目が見えんもんでな」
「そうだったんだ……。でも、私そんな待てないよ」
「安心しろ。そんなことお嬢ちゃんが知ることなく生きていけるようにわしがしてやるでね。ほんでお嬢ちゃん、名前は?」
「ジェニーだよ。おじさんは?」
すると男は顔を少し曇らせ、再び会話を詰まらせた。冷たい海水がジェニーの足にぶつかり、ザバーと楽器に負けないほど大きな音を立てる。いつもは落ち着きのないジェニーでも、この時は男の静かな貫禄に負け、じっとその返答を待った。声色から小さな少女と会話をしていると感じ取った男は、さらに姿勢をを低くして囁いた。
「ハインだ。これは昔の先輩からもらった名前なんだ」
ハインがあまりに低い態勢で話すものだから、ジェニーはせかっくの黒のワンピースで膝をついてその名を耳に入れた。
「パイン。いい名前じゃん!」
が、やはりうまく聞き取れていなかったらしく、ジェニーは「パイン」という名をその場で連呼しながら何度もハインの肩をさすった。
「やっぱり面白いお嬢ちゃんだ。見てみたいもんだ、その顔を」
その言葉を聞いたジェニーは、すこし切なくなったのかパインコールを止め周りの楽器に耳を傾け気を紛らわした。それぞれが形も音色も全く異なる楽器を演奏しているのに、皆の心がどこかで通じているようなその空間がジェニーは大好きだった。そんな時間がしばらく続きジェニーとハインは聞き入っていると、突然カタツムリの頂上付近からとてつもない爆音が轟き、次の瞬間にはグティ達が先ほど通ってきた海に大きな水しぶきが上がった。
「何?!」
ジェニーは水しぶきが上がった方に思わず向くと、今まで流れていた楽し気な音楽がピタリと止み、グティ達が乗っていた船から沖へ一直線に道ができていた。
「なんだ、聞いていなかったのか。奴らがこの港に到着した合図の大砲だよ。あの大砲が海に着弾したら皆が歓迎の演奏を止めて道を作り、そこを国のお偉いさんが……ほれ、聞こえてきた」
ハインがジェニーの耳元であろう位置で小声で話すと、沖の方からやってきた水色に染められたリムジンがその道の真ん中で動きを止めた。
「よくぞ、いらっしゃいました。サンチェス外務大臣」
リムジンから現れたスーツ姿の男は、船を降りた紺色のドレスを着たカルム国の外務大臣、サンチェス・チェリーに深々と頭を下げた。それに続くような形で先ほどまで楽しそうに演奏していた人々も感情を失ったような表情で頭を下げていく。ビーチを埋め尽くすほどの人々が楽器を投げ捨て一人の女性に向けて頭を下げるこの絵は、まさに異様であった。

   To be continued… 第54話・人間を愛したい
カルム国とまいまい島。この両国の間に何があるのか? 2024年2月4日(日)夜投稿予定!まいまい島に上陸したのはいいものの、明らかに何かありますね。グティ達とまいまい島の人々の出会いは何を招くのでしょうか。お楽しみに!!

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