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『世界への信頼と希望、そして愛』を読んでは独り言・其の十三

「この国はおかしくなっているよ」

そう仰る患者さんと
お話していた

その方が帰り
会話を振り返っていた

その方はどちらかと言えば細かい方で
他の人が疑問に思わないようなことに対して
「なんでそうなっているの?」
とストレートに訊いてくる

その質問をする際の
表情や声色や声の抑揚から
何となく気難しい人といった印象を抱かせる

そんな方が
「この国はおかしくなっている」
と言っている

若干の呆れや怒りを包含しているように
感じたこともあり
その場であれこれ質問することはできなかった

ふと頭をよぎったのは
何をもって「この国はおかしい」と
考えるようになったのかということだ

その方の疑問を受けて
私の考えが駆動する

そこで思い浮かんだのは
この国がおかしいというよりは
世界がおかしくなっているということだった

もちろん

私は世界の全てを把握しているわけではないし
世界の本の一端も一端しか見えていないと自覚している

それでもなお

COVID-19のパンデミックを境に
何だかおかしくなっているなぁと感じるのだった

そして

そんな世界の中で
どうやって日々を幸せに生きていこうかと
考えながら過ごしている

幸せに生きていくために
自分が心がけているのは
変えられないものは受け入れ
変えられることに対しては
前向きに自分を変化させることだ

その方が気持ちも楽なのだと思う

私自身が心がけていることがあるからこそ
おそらく患者さんの言葉が喉に引っかかった
小骨のように心にしこりを残していたのかもしれない

自分が変わった方が楽なんじゃないかと
無意識に思っていたのだと気付かされる

そして思う

果たしてそうなのかと

自分が変わる方が楽なのかと
それでいいのかと

社会を変えようとする気概を
失っていいのだろうかと

事なかれ主義の自分にはない
強烈な個性を持つ方と対峙する度に
自分自身の内面を問われるのだった

そんなことを思いながら

今日もまた

読んだんだか読んでいないんだか
積んだんだか積んでいないんだか
といった本達の中から一冊紹介し
心の琴線に触れた一節を取り上げ
ゆるりと書き記していきたい

今回はこちらの本を読んでは独り言

本書を取り上げるのも十三回目

250頁ほどの本編を読み終え
100頁ほともある註を読み進めている

その際には
本文を読み返しているのだが
ほとんど忘れていることに気付く

何とも有難い機会である

と言いつつも
おそらくまた忘れてしまうのだろう

そんな感覚もあるのだ

註を読み
本編を読み
また註を読む

そうした読書をした経験は
今まであまりなかったので
私にとっても初めての読書体験である

これまた何とも面白い

そんな貴重な体験をさせていただいている

さてさて

いつものように
引用する必要があるんだかないんだか
本来の引用の意味を考えては
自己ツッコミを入れつつ
noteの引用機能を用いて
引用させていただきたい

「砂漠」と化した世界を「故郷」に変貌させること、それはアーレントが生涯をかけて成し遂げようとした悲願だったと言えるのではないだろうか。なおこのうちの「砂漠」に関して、アーレントが最もまとまった記述を残しているのは、『政治とは何か』の第二部「編者の評註」の第五章「終章と思われる「砂漠とオアシスについて」」に収録された「断片4」である。この断片でとりわけ興味深いのは以下の箇所である。「こうした観念が現代心理学の根底には存している。それは砂漠の心理学であり、また同様に、砂漠における最も恐ろしい幻覚の犠牲である。それはつまり、私たち自身がおかしいのではないかと思い始めてしまう幻覚であるーそしてこうした幻覚が生じるのは、私たちは砂漠での生活という条件のもとでは生きることができず、それゆえ、判断する能力、苦しむ能力、非難する能力を失ってしまうからである。心理学が人間を「手助けし」ようとするかぎり、心理学は人間を、砂漠での生活という条件に「適応する」ことを手助けしている。これは私たちから唯一の希望を、もっと言えば、砂漠の民ではないにもかかわらず砂漠に生きている私たちは、砂漠を人間的な世界に変化させることができるのだという希望を奪い去るものである。心理学はものごとをあべこべにしてしまう。というのもまさに、わたしたちは砂漠という条件のもとで苦しんでいるからこそ、なおも人間的であり、なおも損なわれていないからである。砂漠の本当の住人となり、そこで安らぎを感じること、危険はここに存するのである」(WIP: 181 / 153)。

林大地. 世界への信頼と希望、そして愛 アーレント『活動的生』から考える. みすず書房, 2023, 263p

事なかれ主義の私は
自分を変化させ
社会に適合しようとしているのかもしれない

そんなことを思い知らされる

もしかすると
冒頭の患者さんの方が
より人間的なのかもしれない

引用させていただいた箇所を読み
そう気付かされたのだった

引用させていただいた箇所に続く註には
次のような文言も書かれている

心理学には、社会は「正常」であり、それに適応できない人間は「異常」であるとの前提がある。しかし忘れてはならないのは、「異常」なのは社会であって、それに適応できない人間の方がむしろ「正常」であるという状況も十分にあり得るということである(むしろこうした状況のほうが実際には多いかもしれない)。

林大地. 世界への信頼と希望、そして愛 アーレント『活動的生』から考える. みすず書房, 2023, 264p

私は心理学に詳しくないため
ここに書かれているように
心理学がどうかはさておき

その人が見ている世界によって
社会が異常かどうかは異なるということもあるだろう

しかしながら

社会が異常なのであるということを
どうも私は考えない傾向にあるのだと
無意識に適応した方が楽なのだと
思っている自分を再発見したのであった


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