gorogoroshitai222

日記を書いています。読書の感想を書くこともありますが、書かないこともあります。

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本に出会ったとき、頭の中で起きていること

『昼の家、夜の家』という小説を読み始めました。オルガ・トカチュルクというポーランドの作家が書いた本です。本のカバーを外すと(カバーが素敵な本は、読書中汚してしま…

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走り去るリスの名前を必死に呼んでいた

夜驚症と呼ぶそうだ。睡眠中に突然、恐怖、興奮した表情で悲鳴のような声を上げて覚醒してしまう病気のことである。自分もまさに当てはまる。 近藤聡乃のエッセイ『不思議…

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ミルクティー、ドーナツ、もっと重い魂

ドーナツ屋でロイヤルミルクティーを2杯おかわりした。胸焼けがする。おかわり自由だと知って最初はときめいたが、人間そんなに何杯も濃厚なミルクティーを飲めるものでは…

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かえって理不尽に見える

海辺の街の空にはトンビがよく翔んでいる。姿を見かけるたびに、憎々しい気持ちで胸がいっぱいになる。あのトンビは、いつぞやの私からメンチカツをかっさらったあのときの…

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部屋の窓から無数の星

眠れない夜がある。たとえば今夜。眠りたい。眠れない。どうしたものか。考えるのも億劫だ。眠りたい。眠れない。他に何かをする気にもならない。 本棚から『不安の書』を…

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迷路

夕方、路地裏を散歩する。路上のコンクリートに白墨で描かれた矢印の連続を見つける。→→→だ…。矢印の先を辿ってみると、行き着いた先は稲荷神社だった。 *** マーク…

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何か場違いなもの。

梅雨は明けたのかもしれない。日が暮れ、海岸のそばを走る。大勢の赤ん坊が波際を這い回る姿を見かける。打ち寄せる波に洗われる砂浜。素足で踏みつける。その柔らかさ。 …

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セピア色の初夢

障子紙を張り替える。はがした障子紙を床に広げる。目の前に広がる、はがしたばかりの和紙の紙片。ああ…書き初めがしたい。 硯と筆を金庫から取り出す。紙はある。硯もあ…

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行かないと見れない

野毛山動物園を歩いた。屋外ケージの天井を飛び交うアカエリマキキツネザルの群れを眺めていたら、額に雨粒が落ちてきた。 *** こうして町なかに整然と設計された有用な…

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梨の食べごろ

電車の中を歩いた。窓の外は暗闇で、いまどのあたりを走っているのか確証はない。網棚の上の広告をひとつひとつ読み上げる。脱毛して、発毛して、脱毛して、転職して、また…

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薄暗がり

夜、私たちは海岸通りを歩いた。押し寄せる波の向こうの暗闇、海面に漂う赤い光を見る。それがポツポツ見える。漁船の灯りだろうか。人魂のようで綺麗だった。 *** アル…

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秋の深川

目抜き通りを歩いた。道の両側に、手作り人形が複数、間隔をあけて立っている。子どもくらいの背丈があり、両手を広げている。私たちを通せんぼする案山子のようだった。あ…

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ウィトゲンシュタインの愛人

昼下がり、潮の匂いがあたりに漂う。雨が降る気配。 *** 海のそばを散歩する。波が高い。沖合、サーファーたちが等間隔に並ぶ。押し寄せた波が私たちの足下を奪う。風は…

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高徳院の裏通りはいつも風がとおる。夏の日の午後、そよ風が抜ける。 路地裏に入る。線香の匂いがした。平屋の窓から一筋の煙が昇るのを見た。ゆらゆらと昇って、空に消え…

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夕立

早朝に目が醒める。窓の外を熱波が襲う。山鳩が一羽、植木の影で目をつむっている。向日葵の首が落ちる瞬間を見た。 *** 夕方、2人の同僚とオンラインで会議。文京区在宅…

動物

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本に出会ったとき、頭の中で起きていること

本に出会ったとき、頭の中で起きていること

『昼の家、夜の家』という小説を読み始めました。オルガ・トカチュルクというポーランドの作家が書いた本です。本のカバーを外すと(カバーが素敵な本は、読書中汚してしまわないように、カバーを本から外して金庫に保管します)、表紙に"DOM DZIENNY,DOM NOCNY"とあります。

ポーランド語のタイトルでしょうか。2回繰り返す”DOM”はたぶん『家』という意味でしょう。”NOCNY”は『夜』でしょ

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走り去るリスの名前を必死に呼んでいた

走り去るリスの名前を必死に呼んでいた

夜驚症と呼ぶそうだ。睡眠中に突然、恐怖、興奮した表情で悲鳴のような声を上げて覚醒してしまう病気のことである。自分もまさに当てはまる。

近藤聡乃のエッセイ『不思議というには地味な話』に、ふだんは完全熟睡派の著者が人生で一度だけ、睡眠中に大声で叫んで飛び起きた体験を語っている。

「喉の感覚で覚えてい」るというのは、私も非常に共感するところ。私はいつかの日記に書いたとおり、毎晩、自分の部屋に強盗や殺

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ミルクティー、ドーナツ、もっと重い魂

ミルクティー、ドーナツ、もっと重い魂

ドーナツ屋でロイヤルミルクティーを2杯おかわりした。胸焼けがする。おかわり自由だと知って最初はときめいたが、人間そんなに何杯も濃厚なミルクティーを飲めるものではない。店だってそのことをちゃんと分かっているから、おかわり自由にしているはずだ。

ロイヤルミルクティーは、茶葉をお湯で煮出した後にミルクを加える通常のミルクティーとは異なり、茶葉をミルクで直接煮出す。なぜロイヤルかというと、そのようにミル

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かえって理不尽に見える

かえって理不尽に見える

海辺の街の空にはトンビがよく翔んでいる。姿を見かけるたびに、憎々しい気持ちで胸がいっぱいになる。あのトンビは、いつぞやの私からメンチカツをかっさらったあのときのトンビではないか、と疑ってしまうわけである。

駅前の肉屋で買ったばかりのメンチカツであった。その日の夕飯のおかず(主力選手)になるはずのメンチカツであった。一口かじるだけで肉汁がじわっとほとばしる、真に肉々しいメンチカツであった。

トン

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部屋の窓から無数の星

部屋の窓から無数の星

眠れない夜がある。たとえば今夜。眠りたい。眠れない。どうしたものか。考えるのも億劫だ。眠りたい。眠れない。他に何かをする気にもならない。

本棚から『不安の書』を抜く。眠れない夜のしんがりとして機能するこの本の著者はフェルナンド・ペソア。ポルトガルの詩人・作家で、生前は無名の存在だった。死後、トランクいっぱいの膨大な遺稿が発見され、脚光を浴びた。ポルトガルの国民的作家となり、紙幣の肖像画に選ばれた

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迷路

迷路

夕方、路地裏を散歩する。路上のコンクリートに白墨で描かれた矢印の連続を見つける。→→→だ…。矢印の先を辿ってみると、行き着いた先は稲荷神社だった。

***

マーク・マンダースの《調査のため居住(2007年8月15日)》を東京都現代美術館で目にしたとき、懐かしい気分になった。筆記用具でこしらえた部屋の間取り図。

幼い頃、似たような遊びをした気がする。自分だけの妄想の部屋を想像し、その間取りを地

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何か場違いなもの。

何か場違いなもの。

梅雨は明けたのかもしれない。日が暮れ、海岸のそばを走る。大勢の赤ん坊が波際を這い回る姿を見かける。打ち寄せる波に洗われる砂浜。素足で踏みつける。その柔らかさ。

***

『胎児のはなし』という本を読んでいる。遺伝子解析技術によって、父親のDNAが胎児を介して母親に入っていることが最近になって分かったらしい。

人間の生には未知の領域がまだまだ多いことを知る。胎児と胎盤は同じ受精卵から作られるのに

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セピア色の初夢

セピア色の初夢

障子紙を張り替える。はがした障子紙を床に広げる。目の前に広がる、はがしたばかりの和紙の紙片。ああ…書き初めがしたい。

硯と筆を金庫から取り出す。紙はある。硯もある。筆もある。墨をどうしよう。

私は床に両手と両膝をつき、這いつくばいになる。妻が私の背の上に登り、腕をのばし、天袋の戸を開く。戸の奥の闇から一瓶の墨汁を掴み、瓶、と音を立てて私の鼻先に立てる。貴重な墨汁である。(貴重な物は全て、天袋に

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行かないと見れない

行かないと見れない

野毛山動物園を歩いた。屋外ケージの天井を飛び交うアカエリマキキツネザルの群れを眺めていたら、額に雨粒が落ちてきた。

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こうして町なかに整然と設計された有用な庭園は、わたしには鳥籠のようで、そこには樹や花が色とりどりに自生しているが、なくてもよいだけの余裕しかなく、そこから出なくてもよいだけの余地しかなく、それに属する生命のない美しかないのだ。

フェルナンド・ペソア (著), 高橋 都彦

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梨の食べごろ

梨の食べごろ

電車の中を歩いた。窓の外は暗闇で、いまどのあたりを走っているのか確証はない。網棚の上の広告をひとつひとつ読み上げる。脱毛して、発毛して、脱毛して、転職して、また脱毛して…。

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寝室から妻がやってきた。ウサギの咀嚼音が心地よくて、眠ってしまったらしい。ウサギの咀嚼音て何だ。ウサギが梨をしゅりしゅり齧っている動画を眺めていたら、ウトウトしたらしい。ウサギが梨を食べているだけの動画なんて面白い

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薄暗がり

薄暗がり

夜、私たちは海岸通りを歩いた。押し寄せる波の向こうの暗闇、海面に漂う赤い光を見る。それがポツポツ見える。漁船の灯りだろうか。人魂のようで綺麗だった。

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アルメニア出身のジャズピアニスト、Tigran Hamasyanの最新アルバムを聴きながら本を読んでいると、次の一節が目に入る。

人間の心の営みはすべて薄暗がりのなかの動きだ。われわれは自分が何者なのか、あるいは、自分を何者と思っている

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秋の深川

秋の深川

目抜き通りを歩いた。道の両側に、手作り人形が複数、間隔をあけて立っている。子どもくらいの背丈があり、両手を広げている。私たちを通せんぼする案山子のようだった。あるいは本当に案山子かもしれない。

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街の音楽会を案内するちらしが電柱に貼られている。雨で滲んだ黒のインクで文字が書いてある。とても楽しい音楽会だからみんなで遊びに来てね、と書いてある。

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名物の丼ぶりを店で食べる。身ぶり

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ウィトゲンシュタインの愛人

ウィトゲンシュタインの愛人

昼下がり、潮の匂いがあたりに漂う。雨が降る気配。

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海のそばを散歩する。波が高い。沖合、サーファーたちが等間隔に並ぶ。押し寄せた波が私たちの足下を奪う。風は全く吹かず、湿り気で息が苦しい。

全ての足跡が波に消えたとき、読みかけの『ウィトゲンシュタインの愛人』のことを思い出した。

誰もいない世界に独り残された女性が、タイプライターにキーパンチする言葉の連なり。不確かな記憶から次々と他の

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煙

高徳院の裏通りはいつも風がとおる。夏の日の午後、そよ風が抜ける。

路地裏に入る。線香の匂いがした。平屋の窓から一筋の煙が昇るのを見た。ゆらゆらと昇って、空に消えた。

来ては行くだけでなんの甲斐があろう?
この玉の緒の切れ目はいったいどこであろう?
罪もなく輪廻の環の中につながれ、
身を燃やして灰となる煙はどこであろう?

オマル・ハイヤーム (著), 小川 亮作 (著) 『ルバイヤート』岩波書

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夕立

夕立

早朝に目が醒める。窓の外を熱波が襲う。山鳩が一羽、植木の影で目をつむっている。向日葵の首が落ちる瞬間を見た。

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夕方、2人の同僚とオンラインで会議。文京区在宅の同僚のマイク音声に遠雷の音が入る。やがて激しい雨だれの音。そちらは夕立ですか。こちらはカンカン照りですが。

10分後、江東区在宅のもうひとりの同僚のマイク音声からも雨音が聞こえてくる。雨雲が文京区から江東区に移動したらしい。その

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