七海

海外記事の個人的な雑翻訳や書評,エッセイみたいなことができたら嬉しいです

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『ナチスは「良いこと」をしなかった論法がジェノサイドを擁護するとき』/補論『現代左翼の反ユダヤ主義』

 前回の記事を書いたあと、健全な知的生活へと戻るためにもこの話題に再び触れるつもりはなかったのだが、 仲正氏が批判的に言及して田野氏の熱心な信者(仲正氏からは「ナチ・プロ」と名付けられた)たちから荒らされていたり、 最近米議会がイスラエルによるパレスチナ人へのジェノサイドを擁護・隠蔽しようとする動きを見て心を痛めていた時に、ふと以下のポストが目についてしまった。  この「意図的な戦争犯罪の兆候はない」という簡潔で美しい一文はどのような意味を持つ言明なのだろうか?  前回

    • 【翻訳】とあるハーバード大学教授とブロガーたち

       約2年前、ハーバード・ビジネス・スクールが、著名な大学教授であるフランチェスカ・ジーノにデータ詐欺の疑いで調査中であると通告した日は、奇しくも彼女の夫の50歳の誕生日でもあった。彼女は予定していた誕生日祝いをキャンセルし、大学警察官が移送を監督する車に乗ってキャンパスまで向かった。  「結局、二人で行くことになった」とジーノ博士は振り返った。「自分一人では行けなかった。よくわからないけど、自分の足元で大地が開いていくような気がしたから」。  心理学、マーケティング、経済

      • ナチスは「良いこと」もしたという主張は、歴史的事実の検証によって否定できない

        ※追記本記事を書き上げた後実際に本書を読んでみたのだが、前政権から引き継いだ政策だから(引き継ぐという判断をしたにもかかわらず)良いことをしていないだの、ろくに良いとされる政策が実際には悪かったことを証明ができておらず、挙げ句の果てに難癖がつけられなくなると「2万人の女性を救ったのは確かに良いことだが、家父長制的干渉主義によるかもしれないから悪いことと言えないか?(明らかに良いことだけど、悪いことだと言いたい、でも上手く言えないのでとりあえず保留にします)」などと主張してすら

        • 【翻訳】「偏見」と「社会正義」を重視する学術文献の増加について

           以前、私は、米国、英国、スペインのニュースメディアのコンテンツに偏見に関する言及が著しく増加していることを記録した。  ここでまとめた研究は、あらゆる学術分野で出版された1億7500万件の学術論文における、偏見を示す言葉の普及ダイナミクスを調査したものである。  1970年から2020年にかけてのSSORC抄録における民族、ジェンダー、性的指向、性自認、少数宗教感情、年齢、体重、障害に対する偏見を示す単語の普及率を定量的に示した。  次に、学術論文における特定の偏見タイ

        『ナチスは「良いこと」をしなかった論法がジェノサイドを擁護するとき』/補論『現代左翼の反ユダヤ主義』

        • 【翻訳】とあるハーバード大学教授とブロガーたち

        • ナチスは「良いこと」もしたという主張は、歴史的事実の検証によって否定できない

        • 【翻訳】「偏見」と「社会正義」を重視する学術文献の増加について

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          『選択と集中』を擁護する:日本の研究力低下は選択と集中をして"いない"からかもしれない

           先日、日本の研究力が過去最低となり、韓国やスペインに抜かれたという記事が出てそこそこ話題となっていた。  こうした日本の研究力低下について、巷では政府による"選択と集中"が原因であるという主張が人気を博している。  そこから派生して一部の研究者や院生たちが財務省や文科省や政府に対して感情的な批判を繰り広げている様は、もはやお馴染みの光景だと思う。  しかし、こうした大衆化された批判というものは常に特有の雑さが伴う。  なので、批判されている選択と集中の定義とは何か、原義

          『選択と集中』を擁護する:日本の研究力低下は選択と集中をして"いない"からかもしれない

          【翻訳】「歴史の終わり」の終焉/ブランコ・ミラノヴィッチ

           戦争とは最も恐ろしい出来事の一つであり、絶対に起きてはならないことである。  全人類の努力は、戦争を不可能にすることに向けられるべきだろう。単に違法というだけでなく、誰も戦争を始めることができないし、始める動機もないという意味での不可能に。  しかし、残念ながら私たちはまだそこに到達していない。人類はそこまで進化していないのである。  私たちは今、非常に死者が多くなるかもしれない戦争の真っ只中にいる。  また、戦争は、(冷徹に見えるかもしれないが)自分の先入観を見直す機

          【翻訳】「歴史の終わり」の終焉/ブランコ・ミラノヴィッチ

          【翻訳】ウクライナ危機の知られざる物語

           大きな戦争とは、時に小さな罪のために始まる。  殺された公爵、怒り狂った教皇、政敵たちが公正に振る舞おうとしていないという孤独な王が抱く信念など。  2021年の疫病期になぜ欧州に軍隊が集結し始めたかを歴史家が研究するとき、その関心はモスクワの孤立した君主の名付け子である10代の少女に向けられるかもしれない。  彼女の名前はダリア。内気な笑顔と大きな茶色の瞳を持つウクライナ人の若者だ。  2004年に生まれた彼女の両親は、当時ロシアに君臨して数年だった友人のウラジーミル・プ

          【翻訳】ウクライナ危機の知られざる物語

          【翻訳】プーチンの「裏切りの1世紀」演説/ブランコ・ミラノヴィッチ

           2022年2月21日、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の承認に際してのウラジーミル・プーチンの演説は、現在、最も異常な政治演説のひとつである。  6,000字以上の単語で構成され、55分以上にわたって紙切れ1枚も使わず、一度も迷うことなく語られた。テレプロンプターも使わなかったと判断できるほどだ。  プーチン自身の歴史哲学をむき出しにし、またそうする意図のもとで行われた演説であった。  この演説では、過去100年のロシアの歴史が網羅されている。  複数の原因、

          【翻訳】プーチンの「裏切りの1世紀」演説/ブランコ・ミラノヴィッチ

          【翻訳】ロジャー・スクルートンからオーストリア学派の経済学者が学べること

          何らかの権威がなければ自由は存在しない。 保守派もリバタリアンも同様に、その権威を適度な規模の仲介機関に求めることができ、良い政府にとって同意や地域性、家族や場所の重要性を認識している。 ロジャー・スクルートン卿の例は、ある種の保守的な文化的条件が、市場ベースの経済を繁栄させることを示している。  部屋の中は楽しい議論、皿や銀の食器を鳴らす音、笑い声、そしてスマートに着飾った給仕が部屋を歩き回る音で賑やかであった。ワインは次々と注がれていく。  最後のコースに入り、デザート

          【翻訳】ロジャー・スクルートンからオーストリア学派の経済学者が学べること

          【翻訳】数学の世界/ジェームズ・フランクリン

          哲学者の中には、数学は神秘的な異次元の世界に存在すると考える人がいる。 しかし、それは間違いである。周りを見渡せば、そのことに気がつくだろう。  数学とは何か?生物学が何であるかという問いの答えは分かっている。それは生物に関することだ。  窓から放り出された猫の動きは物理学の問題だが、その生理機能は生物学の主題である。海洋学は海について、社会学は長期的な人間の行動について、など。すべての科学とその主題を並べたときに、数学が扱うべき現実の側面は残っているだろうか?  これが数

          【翻訳】数学の世界/ジェームズ・フランクリン

          【翻訳】私が保守主義者になった理由/ロジャー・スクルートン

           私が育った時代は、国政選挙で英国民の半数が保守党に投票し、英知識人のほとんどが「保守主義」という言葉を罵倒語とみなしていた時代であった。  保守主義とは、若さと対立する年寄り、未来に抗う過去、革新に反動する権威、自発性や生活に反する「構造」の側に位置するものだと言われていた。  このことを理解した上で、自由な発想を持つ知識人としては、保守主義を否定する以外に選択肢がないことを認識すれば良いとされていた。  残る選択肢は、改革か革命か。少しずつ社会を良くしていくのか、それとも

          【翻訳】私が保守主義者になった理由/ロジャー・スクルートン

          【翻訳】還元不可能性:弱いものと強いもの

           還元不可能性は、間違いなく複雑系科学の主要なテーマの一つである。  この文脈で使われる多くの用語と同様に、この言葉も否定的にとらえられている。つまり、文字通り還元できないものは還元できない、ということだ。 (一般的には「創発」や「創発的性質」という言葉を耳にするが、私は「還元不可能性」の方がより明確に私たちの注意を引くと思っている。 「創発」が動詞と名詞の両方で使われているという事実は、問題を解決するものではない。) (複雑さの研究に密接に関連する他のいくつかの用語は、否定

          【翻訳】還元不可能性:弱いものと強いもの

          行動経済学の没落とエルゴード性経済学の勃興

           少し古いネタではあるが、以下はツイッターで長年続いてきた行動経済学に関連する議論にて、セイラー氏が最近ツイートしたものである。  これには正直驚かされたと言う他はない。行動経済学は、ツイッター上で数年間に渡る応報とそれに関連して紹介された動画、論文、記事や、カーネマンやシラーらの著作を読んだ程度で全く詳しくはないのだが、それでもカーネマンらの主張とセイラーのこの苦し紛れの発言が食い違っているのは分かる。  私は胴元である心理学をそもそも学問として信頼しておらず、2018

          行動経済学の没落とエルゴード性経済学の勃興

          【翻訳】単にアカデミックなだけでなく/ロジャー・スクルートン

           メディアも大学も学校も、異論を許さないソフトな左翼主義の正統派を採用している。  保守的な社会観の基盤となっている基本的な価値観、すなわち国家主権、社会的継続性、政治的自由、キリスト教的遺産は、ヨーロッパの各機関によって非難され、ある意味では犯罪化されているが、わが国の政治家は微塵も抵抗していない。  こうした政治家たちが、私たちの生活様式に違反し、恣意的な変更を加える権利を持っている。  国境と国家資産を他のヨーロッパ諸国に開放し、民意を無視して結婚と家族を再定義し、個人

          【翻訳】単にアカデミックなだけでなく/ロジャー・スクルートン

          【翻訳】ポール・クルーグマンの"オーストリア学派パンデミック"への反論

          ⚫︎クルーグマンによる攻撃 世界で最も有名なケインジアンであるポール・クルーグマンは、ニューヨーク・タイムズ紙の最近のコラムで、オーストリア学派のビジネスサイクル理論(ABCT/景気循環論)を攻撃した。  ABCTは内部矛盾を抱えているという数十年来の主張や、2008年の金融危機をオーストリア学派が誤診したという主張を繰り返すだけでなく、クルーグマンは最新の論文で、2020年のパンデミックはオーストリア学派的な「再配分ショック」だったと論じている。  しかし、ここでもクル

          【翻訳】ポール・クルーグマンの"オーストリア学派パンデミック"への反論

          【翻訳】大学はイデオロギーのために考えることを犠牲にした。だから今日、私は大学を辞めることにした。

          ポートランド州立大学を飲み込んでいる非自由主義に反対の声を上げれば上げるほど、報復を受けるようになってしまった  ピーター・ボゴシアンは、過去10年間、ポートランド州立大学で哲学を教えてきた。  今朝、大学の学長に送られた下記の手紙の中で、彼は辞任の理由を説明している。 親愛なるスーザン・ジェフォーズ学長 私は今日、ポートランド州立大学の哲学助教授を辞任するために、あなたに手紙を書いています。   この10年間、私は光栄にもこの大学で教鞭に立つことができました。 私の

          【翻訳】大学はイデオロギーのために考えることを犠牲にした。だから今日、私は大学を辞めることにした。