花丸恵
面白いことを、ちょろっと漏らしがちな夫が登場するエッセイです。面白いだけではなく、たまに哲学的なことも言ったりします。
好きなものやおすすめのもの、おいしかったものなど、既製品でよかったもの、感動した作品などを記事にしたいと思います。「食べたり飲んだり作ったり」とマガジンが重複してしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。
思いつくままに書き留めたジャンルなしの日記やエッセイです。
自作の掌編小説(ショートショート)を集めました。
自分が書いた食べ物やお酒などに関するエッセイをまとめました。 食べた感想だけでなく、食べ物に関して疑問や思ったことなども書いています。 今後もどんどん追加していきます。 食いしん坊ほとばしる雑文ですが、楽しんで頂けたら幸いです。
◇ 頭にきた。もうあんな男とは別れてやる。 電話を切ってから、一時間近く経つのに、この腹立たしさが収まる気配はない。気がつけば、ベッドに座ったまま、膝の…
かつてNHKの朝の連続テレビ小説で、「おんなは度胸」という作品があった。最近つくづく思うのだが、度胸と同じくらい、股関節は大事だ。 40代も中盤になってくると、…
この物語が、あのとき私のそばにあったら、どれほど救われただろう。 ため息とともに吐き出された思いを胸に、私は先ほどまで読んでいた本の表紙を、じっと見つめた。 …
先日、ホームセンターでバランスボールのカバーを買った。 これまではパソコンで作業のときは、椅子に腰かけていたのだが、バランスボールを椅子代わりにしてみたら、…
「楽ちんの《ちん》って何だろうね」 休日の昼下がり、夫がそんなことを言い出した。 聞いていたラジオ番組がショッピングのコーナーになり、 「これがあると、楽ち…
今日、note創作大賞2024の開催が発表されました。 昨年の創作大賞は大いに盛り上がりましたね。 現在も、受賞作品が書籍化されたり、書籍化に向けて準備万端、予約…
その日、何十年かぶりに夫婦でマクドナルドに行った。 久しぶりなのに、昨日も来たような見慣れた店構え。どこのマクドナルドに行っても、店の様子が変わらないのは、…
たまたま見たドラマの、たまたま聞いたセリフが、妙に頭に残ることがある。 そのドラマの主人公である主婦は、目の前にいる夫にこう言った。 「私は毎日、マイナスを…
「そろそろ靴を買い替えたらどう?」 夫が通勤時に履いていく靴が、どうにもくたびれてきた。一年近く前から、そろそろ靴を買い替えようと、夫はネットで検索し、出掛…
私たち夫婦は、とにかく食べ物が好きだ。 それもあって、食事中や晩酌中には、飲食店の厨房に密着した動画をよく見ている。 どこのお店も本当に手際がいい。仕込み、…
目に入れても痛くない。 そんな表現がある。 近頃、SNSなどの影響なのか、 「一生食べていられる」 「神ってる」 「秒でバレた」 などなど、やたら大袈裟な表現が…
1 とうとうこの日がやってきた。 直紀は抑えきれぬ想いを胸に、帳面駅バス停に到着した。駅前の掲示板に貼られた一枚のポスターに目をやる。 春と風林火山号に…
そろそろ新生活に向けての準備を始める人も多かろうと思う。 人生の様々な節目に、引っ越しはつきものだ。新生活に向けて、家電を準備したり、部屋を探したりと、芽吹…
私が餃子を好きになったきっかけは、テレビの深夜番組だった。 高校生の頃、眠れずにテレビをつけると、これまで見たことのない番組をやっていた。刑事ドラマらしく、…
ねむたいと思ったときに、眠れることを幸せと思うか、怠惰と思うかは、そのときによって違う。 やることがなければ幸せと思えるが、やることがあるのに眠ろうとするな…
「ねぇ、これ買ってみようと思うんだけど、どうかな?」 夫が私に買い物の相談をしてきた。わざわざ訊くのだから値段が張るものなのだろう。そう思い、身構えながらパ…
◇ 頭にきた。もうあんな男とは別れてやる。 電話を切ってから、一時間近く経つのに、この腹立たしさが収まる気配はない。気がつけば、ベッドに座ったまま、膝の上で、ずっとこぶしを握りしめていた。開いてみると、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいる。私はティッシュペーパーを一枚引き抜き、手を拭く。それをグシャグシャに丸め、ゴミ箱めがけて投げ入れようとしたが、角に当たってポロリと落ちてしまった。何をやってもうまくいかない。 「真希ちゃん。来週の旅行、ダメになっちゃった」 「
かつてNHKの朝の連続テレビ小説で、「おんなは度胸」という作品があった。最近つくづく思うのだが、度胸と同じくらい、股関節は大事だ。 40代も中盤になってくると、生理前後の体調不良を感じることが増えてくる。何となく調子が悪いという感覚は、積もり積もると、生活に影響が出てくるものだ。 正々堂々休んでしまうのも手なのだが、洗濯物やホコリ、髪くずを見て見ぬ振りでやり過ごすのは、なかなか忍耐力がいる。蓄積されていく家事を横目で見ていると、寝ていても気持ちがちっとも休まらない。
この物語が、あのとき私のそばにあったら、どれほど救われただろう。 ため息とともに吐き出された思いを胸に、私は先ほどまで読んでいた本の表紙を、じっと見つめた。 穏やかな水面のような瞳でこちらを見るナース。 物語を読み終えた今、この表紙のやさしい色合いが、なおさら心に沁みてくる。 長期療養型病棟で看護師として働く、卯月咲笑には、患者の思い残したものが、《視えて》しまうという不思議な力がある。 意識不明の患者のベッドの脇に女の子の姿が視えたり、にらみつけるような表情
先日、ホームセンターでバランスボールのカバーを買った。 これまではパソコンで作業のときは、椅子に腰かけていたのだが、バランスボールを椅子代わりにしてみたら、これが案外よかったのだ。 よかったとなると継続して使いたい。継続して使うとなると、見た目も、肌触りもいいほうがいい。 と、いうわけで、早速買ってきたカバーを被せてみることにした。 私はてっきり、膨らんだバランスボールにこのまま、カバーを着せればいいと思っていたのだが、広げてみると、カバーには15センチほどのフ
「楽ちんの《ちん》って何だろうね」 休日の昼下がり、夫がそんなことを言い出した。 聞いていたラジオ番組がショッピングのコーナーになり、 「これがあると、楽ちんですよ!」 そんな商品紹介をしていたらしい。 確かに、考えてみれば、 「これは楽ですよ!」 で意味は通じる。わざわざそこに《ちん》をつける必要はない。 Xなど文字制限のあるSNSが流行し、何でも略し、簡潔に伝えることが多くなっている昨今、わざわざ 「楽ですね」 で済むことを、文字数を増やしてまで 「
今日、note創作大賞2024の開催が発表されました。 昨年の創作大賞は大いに盛り上がりましたね。 現在も、受賞作品が書籍化されたり、書籍化に向けて準備万端、予約受付てます! といったニュースが続々と発表になっています。むしろ、盛り上がった、という過去形ではなく、盛り上がりが今も続いているといった印象です。 私事ではありますが、昨年、自作の小説を創作大賞の入選に引き上げて頂きました。 皆さんに読んで頂けたことが本当に嬉しく有難く、授賞式でnoteの運営の皆さん
その日、何十年かぶりに夫婦でマクドナルドに行った。 久しぶりなのに、昨日も来たような見慣れた店構え。どこのマクドナルドに行っても、店の様子が変わらないのは、大企業ならでの戦略の一つなのだろうか。 そんなことを思っていると、奥のほうから 「テレレ、テレレ」 ポテトの揚げ上がりを報せる音が聞こえてきた。 この音を生で聞くのも久々なはずなのに、昨日聞いたかのような耳慣れた音に感じる。 私はダブルチーズバーガーにポテト。夫はフィレオフィッシュバーガーにサラダを頼んだ。
たまたま見たドラマの、たまたま聞いたセリフが、妙に頭に残ることがある。 そのドラマの主人公である主婦は、目の前にいる夫にこう言った。 「私は毎日、マイナスをゼロに戻してるの」 足の踏み場が確保されたフローリング。衣装ケースに畳んでしまわれている洋服や下着。温かいご飯。いつの間にか沸いているお風呂。 快適な生活を送るためにある行動の前後には、必ず家事がついて回る。 妻の悲痛な叫びを、夫がどう受け止めたか、その後のドラマの展開は憶えていない。 だが、家事をす
「そろそろ靴を買い替えたらどう?」 夫が通勤時に履いていく靴が、どうにもくたびれてきた。一年近く前から、そろそろ靴を買い替えようと、夫はネットで検索し、出掛けたときに靴屋を見かけると、良さそうな靴はないか、眺めてはいたようだが、どうも、これ、といったものが見つからないらしい。 夫がここまで同じ靴を履きつぶすのは、初めてかもしれない。夫は靴にはうるさいほうで、あれこれ、横文字のメーカー名を口にしては、ここのは靴底が張り替えられるんだ、とか、こういった革靴は足になじんで
私たち夫婦は、とにかく食べ物が好きだ。 それもあって、食事中や晩酌中には、飲食店の厨房に密着した動画をよく見ている。 どこのお店も本当に手際がいい。仕込み、調理、提供で大わらわなはずなのに、厨房がピカピカだったりすると、見ていて胸のすくような気持ちになる。 その日見ていたのは、若い店主が営むお好み焼き屋さんの動画だった。 ジュージュー焼かれる、美味しそうなお好み焼き。その魅惑的な映像を眺めていると、夕飯を食べたばかりのお腹が、きゅるきゅる音を立てた。 どうや
目に入れても痛くない。 そんな表現がある。 近頃、SNSなどの影響なのか、 「一生食べていられる」 「神ってる」 「秒でバレた」 などなど、やたら大袈裟な表現が目立つようになった。 オーバーな言い回しをするほうが、テンションも上がって、会話が楽しいのだろう。 先程、冒頭で記した 目に入れても痛くない。 は、そんな過剰表現の元祖のような気もする。 常識的に考えて、どんなに小さくとも、幼子をぐりぐり目に入れたら痛いに決まっている。しかし、 その常識すら吹
1 とうとうこの日がやってきた。 直紀は抑えきれぬ想いを胸に、帳面駅バス停に到着した。駅前の掲示板に貼られた一枚のポスターに目をやる。 春と風林火山号に乗って新宿に行こう! 弾けるような文字が躍り、そこにはバス乗務員の制服を着た女の子のキャラクターが描かれていた。何度見ても、溌剌とした明るい笑顔が可愛いらしい。 直紀はこれまで、こういった萌え系のキャラクターには全く興味がなかった。それなのに、この女の子には一瞬でグッと心を掴まれてしまった。 このポスターを
そろそろ新生活に向けての準備を始める人も多かろうと思う。 人生の様々な節目に、引っ越しはつきものだ。新生活に向けて、家電を準備したり、部屋を探したりと、芽吹き時というのはどうにも落ち着かない。 新生活というものは何もかもが新しい。 新しく住む町に慣れるまでは、目に映る全てのものが自分に抗っているように感じてしまうものだ。 数年前、埼玉に引っ越すことが決まったとき、東京生まれ東京育ちの私は、故郷から離れる切なさを感じていた。でも、なんだかんだ言って埼玉は東京から近
私が餃子を好きになったきっかけは、テレビの深夜番組だった。 高校生の頃、眠れずにテレビをつけると、これまで見たことのない番組をやっていた。刑事ドラマらしく、張り込みをしているベテランと新米、二人組の刑事が、町の中華屋に入った逃亡犯の様子をじっと窺っている。 逃亡犯は、餃子とライスを注文した。それを見た新米刑事は 「やっぱり餃子にはビールじゃないですか? ご飯なんて邪道でしょう」 と嘯く。だが、ベテラン刑事はその言葉をたしなめるように、餃子はご飯があってこそだと主張す
ねむたいと思ったときに、眠れることを幸せと思うか、怠惰と思うかは、そのときによって違う。 やることがなければ幸せと思えるが、やることがあるのに眠ろうとするならば、怠惰、ということになるのだろう。 昨日(2024年2月15日)は、まだ二月も半ばだというのに、桜がびっくりして咲き出しそうなほどに暖かかった。 つい先日、雪が降ったことが嘘のようだ。 あの日は、最初のうちは粉のように細かい雪が降っていたが、時間が経つにつれ、水分をたっぷり含んだ重たい雪へと変わった。
「ねぇ、これ買ってみようと思うんだけど、どうかな?」 夫が私に買い物の相談をしてきた。わざわざ訊くのだから値段が張るものなのだろう。そう思い、身構えながらパソコンのモニタを覗くと、そこには小さなボトルが、ちょこんと映し出されていた。 「なんだい、これは」 「導入化粧水だって」 「導入……?」 私は思わず渋い顔をした。 正直、私はお肌のケアというものに、かなり無頓着のほうだ。牛乳石鹸でバシャッと洗顔したあとはその辺の油でも塗り込んでおけば充分だと思っている。 薬