半径100m

ものがたり。全てフィクション。不定期気まぐれ投稿です。自分のつぶやきは三日で削除してい…

半径100m

ものがたり。全てフィクション。不定期気まぐれ投稿です。自分のつぶやきは三日で削除しています。読んでくださり、ありがとうございます。

マガジン

  • 1〜5分の物語

    1〜5分で読めるオリジナル短編小説を収録。 文体や読後感は、それぞれ違います。 1分で600文字くらい読めるかな、と適当に計算した時間です。

  • 童話と絵本

    童話(だと自分で思っている短い物語)& コラボ絵本。

  • 6〜10分の物語

    6〜10分で読めるオリジナル短編小説を収録。 文体や読後感は、それぞれ違います。 1分600文字くらいで読めるかな、と適当に計算した時間です。

  • 球体の動物園(2023年8月新作•連作短編)

    連作短編です。それぞれ文体を変えた独立した物語なので、どの章からでもお読みいただけます。 読んでいただけたら嬉しいです。 2023.8.26

  • 11〜30分の物語

    11〜30分で読めるオリジナル短編小説を収録。 文体や読後感は、それぞれ違います。 1分600文字くらいで読めるかな、と適当計算した時間です。

最近の記事

目の穴

 わたしは、鳥です。  大きな梅の木、そのてっぺんが、わたしのお気に入りの場所です。  おじいさんとおばあさんが住む古い家の庭に、その木はあります。  わたしが木のてっぺんで羽を休ませていると、おじいさんとおばあさんは木の下でお茶を飲んだり、おにぎりやおまんじゅうを食べたりします。 「今年もきれいに咲いたなぁ」  おじいさんとおばあさんは、梅の木を見上げ、満足そうにほほえみ、顔を見合わせます。  わたしは、木の上から、そんなおじいさんとおばあさんを見るのが大好きでした。  

    • ちりんブルドッグ

       僕がその男と出会ったのは、ちょうど一年前の春だった。  豊島区にある、風がそよっと吹いてもガタガタと揺れそうな木造二階建てのアパートで、隣の部屋に住んでいたのが、その男だった。 「木村と申します。よろしくお願いいたします」   大学進学のために上京した僕が引っ越しの挨拶に行くと、その隣人は、なんと犬の着ぐるみを着て玄関から出てきた。服には耳やしっぽもついていて、首には大きな鈴もぶら下がっていた。 「あ、学生さんかな? こちらこそよろしく」  犬の着ぐるみを着た隣人は、とても

      • ピンクのキープS

         私の頭に、変なものが生えてきた。  にょきにょきにょきにょき、生えてきた。  あなたの頭にも、あるかもよ。 「ん? なに?」  それに気づいたのは、本日は晴天なりって繰り返し言いたくなるような、カーテンから元気いっぱいの太陽光が入ってくる朝だった。  鎖骨あたりまで伸びた私の髪は、朝起きるとぐちゃぐちゃに絡まっているから、毎朝、洗面所を占領して髪を丁寧にとかす。その朝も、女子高生の命である髪を整えていた。  そのときだった。頭頂部で、ブラシが何かに当たった。 「ん?」  

        • かがみよ あなたよ かがみさん

          「ねぇ、お母さん。お父さんのスマホのパスコードなんて、分からないよね」  四十九日だった昨日、遺品の片付けを手伝っていた中学生の娘が、亡くなった夫のスマホを見てそう言った。 「暗証番号? 知らないわねぇ。スマホは解約して、そのまま処分するわ」  私の言葉に、娘は頷いた。 「お父さんスマホさぁ、エッチな写真がいっぱい保存されてたりするかもよ。処分するときは、そんな事も気をつけた方がいいよ」  父親が亡くしてからずっと暗い顔をしていた娘がそう言って笑ったから、私はほっとして、娘よ

        マガジン

        • 1〜5分の物語
          20本
        • 童話と絵本
          7本
        • 6〜10分の物語
          7本
        • 球体の動物園(2023年8月新作•連作短編)
          4本
        • 11〜30分の物語
          2本
        • 詩と詞
          2本

        記事

          飛行日和

          「春と風、良い季節になりましたな。特に今日の風はいい感じだ。風向きも良い」 「木村さん、本当にそうですね。春、そして風。なんだか桜色の花びらに乗ってどこまでも飛んでいけそうですね」 「長谷川さんは、随分とロマンチックなことを言いますなぁ」 「うふふ、今日みたいな日は、本当に飛行日和ですよね」  木村さんと長谷川さんは、草の上にぺたんと座り、空を見上げながら話している。  僕はその横で、飼い猫のスカーレットを膝にのせ、二人の話を聞いている。  一瞬、風が強く吹いた。桜なのか、薄

          飛行日和

          ばあちゃんと 稲穂と どら焼きと

          「私はいつ死んでもええんよ。やることは全部やったけん。思い残すことなんか、なんちゃないけんね」  ばあちゃんは、いつもそう言っていた。  僕の両親は二人とも中学校の教員で、やれ部活だ、やれ補習だと忙しく、僕は幼い頃から同じ敷地内にある祖母の大きな古い家に入り浸っていた。  農業を営むばあちゃんは、玄関からまっすぐに伸びる土間の床に座って、玉ねぎの根を切り落としながら、胡瓜の袋詰めをしながら、ネギを束ねながら、横に座って作業を見ている幼い僕に、手を止めることなく、たくさんの話を

          ばあちゃんと 稲穂と どら焼きと

          ほねかみ

           辰さんの骨を盗んだ。  辰さんの奥さんが、辰さんの足の骨を骨壷に入れている隙に。  他の参列者たちも足の方を向いていたから、辰さんの右手中指の骨をそっとつまんでポケットに入れた私のことなど誰も見ていない、と思った。 「主人がお世話になりました」  葬儀が始まる前、奥さんは辰さんの漁師仲間にそう言い、私にも同じ声色でそう言った。  この小さな漁村では、誰かの葬儀があると、村のほとんどの人が出席して最後までお見送りをする。だから、港の前で小料理屋をやっている私が火葬場に居ても

          ほねかみ

          【童話】迷子の鬼

           布団から出ていっちゃった。  いなくなっちゃった。  鬼は外、なんて言うから。  鬼は外。  あっくんの目に涙がうかんできた。  胸がぐぅと押されたみたいに痛かった。  節分の日。  あっくんの住む街では、福豆を自分の歳の数だけ十字路に置きに行く。  気をつけることは、ひとつだけ。  振り向くな!  振り向くと、鬼がいるから。鬼がついてくるから。鬼の世界に連れて行かれるから。  十字路の真ん中にそっと豆を置いたときから家に戻るまで、振り向いてはいけない。絶対に。 「五つ

          【童話】迷子の鬼

          このギリな世界で(涙)

           覚えてるか? あそこにあった中華屋。老夫婦がやってた子汚ねぇ店。   美味かったよなぁ。これで採算取れてるのかって思うほど安くてよぉ。俺は特に天津飯と回鍋肉が好きだったなぁ。  あの店にいつもネズミがいたの知ってるか? 見たことねぇ? 俺は毎回、めし食いに行くたびに見たぜ。  ああ? いや、ネズミがいるくらい、どうってことないだろ? 俺、ガキの頃、もっときったねぇ家でめし食ってたし。衛生面なんか、ネズミ見たぐらいで気にならなかったな。それを上回る、安さと美味さだったしな。

          このギリな世界で(涙)

          スタンド バイ ユー

          《賢治 Kenji》  僕は先輩から貰ったコンドームをポケットから取り出し、太郎に見せた。 「えっ、何? おぉ、それは」  驚く太郎の目の前で、コンドームの封を切り、中から湿った円形のものを取り出した。  僕も初めて見る避妊具の現物。へぇーこんなに薄いんだと思いながら、それを口にあて、息を吹き込んだ。半透明のコンドームが小さく膨らんだ。  僕はしゃがみ込み、膨らんだコンドームを目の前の川につけて水を入れた。端を結ぶと、小さな水風船が出来上がる。 「へぇ、これに、ちんこ入れる

          スタンド バイ ユー

          あんぱんあはは

           新しいパン屋さん、見つけたよ!   あんぱん求めて半径100km! 「ねぇ、あんぱん、好き?」  誰かにこう訊いたら、 「好き。大好き」「私は粒あん派」「私はこしあんだよ」  ほとんどの人が笑顔になって、こんな風に答えてくれるはずだ。  たまに、甘いものは苦手って言う人に出会っても「でも、お母さんが毎日のように食べてた」なんてことを、またまた笑顔になって言ってくれたりする。  そう、私は、あんぱんほど老若男女問わず愛されて、誰をも笑顔にする存在を知らない。メロンパンもカレ

          あんぱんあはは

          金髪な心意気

           私は公園のベンチに座って煙草を吸っていた。頭を逸らして、天に向かって煙を吐く。  明香、これからどうするつもり? 煙草なんか吸って。だから、あんたは……。 「だから、あんたは……」  朝、親が呑み込んだ言葉を、煙の向こうの青空からするすると引き寄せた。 「……ダメなんだ」  二か月前に離婚して、実家に戻ってきた。離婚のゴタゴタで精神的にぼろぼろで、希望も自信もなくなった。仕事を見つける気力もなく、実家でだらだらとした毎日を過ごしている。 「傷ついてるんだけどな。誰も慰めてく

          金髪な心意気

          あなたに濁点を打つ 

            あなたは女の後をつけていた。狭い路地。髪の長い女の尻を見ながら歩いていた。  ふいに、数メール先の女が足を止めて、振り返った。あなたと女は、向かい合った。  女が何か言ったが、あなたは聞き取れない。逆光で、女の表情も分からない。  女の背後からの光があなたの目を刺す。あなたの視界は白くなる。白いもやのようなもので埋めつくされる。  白濁した世界に小さな黒い点があった。その点に、あなたは目を凝らす。  どこからか、音が聞こえた。  ぴっ、ぴっ、ぴっ。  音は、だんだんと早く

          あなたに濁点を打つ 

          なめる。

           私の好きなもの。それはアイスクリームです。  アイスクリームをなめるときは、目を閉じます。舌から脳へ、舌から手や足の先まで、冷たさや甘さの伝達経路を全身で感じながら味わうのです。  私、舌先が敏感なのです。ふふふ。だから、なめるって行為そのものも好きです。  本当はね、冷たい食べ物は苦手。子供の頃から、ジュースや西瓜などを口にしたあと、決まってお腹が痛くなりましたから。腹部の奥を刺すような痛みで、息が出来ないくらい苦しくなるのですよ。  でも、アイスクリームだけは別なのです

          なめる。

          きみのよろこばせ方

          「クリスマスの夜、愛子にプロポーズをしようと思っている」  公園の木々が色づき始めた秋の終わり頃、僕は来るべき冬の計画、人生最大の決意を健太に伝えた。 「バカじゃね」  幼い頃からの親友は、ひと言で僕の決意をぶった斬った。  ダンサーの僕たちが、集まって練習をする公園の広場。みんなで数曲を踊った後だった。汗をかいた身体が一瞬で冷えた。 「なんでだよ、なにがバカなんだよ。愛子と結婚するなって言いたいのかよ」  僕は汗を拭く手を止めて、語気を強めた。 「いや、結婚は賛成だよ。愛子

          きみのよろこばせ方

          クリスマスの落とし物 

           十二月二十五日、僕は、言葉を拾った。    クリスマスのその日は、午後から雪が降り始めた。テレビでは、ホワイトクリスマスになってロマンチックだ、とかなんとか言っていたけれど、僕には関係のないことだった。  恋人はいない、友達はデートの約束で忙しい、おまけに冷蔵庫が空っぽのクリスマス。  僕は食料を買うためだけに外出した。コートのポケットに両手を突っ込んで、近所のスーパーへと俯いて歩いた。白い雪がアスファルトに溶け込んでいく様子を見ながら、積もる寂しさもこんな風に身体に染み込

          クリスマスの落とし物