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【詩】さんかく座の詩

ぼくの言葉が、ただぼくのためだけにあってほしい、 ぜんぶがぜんぶひとりよがりでも、 好きと言うことで煌めいて、 嫌いと言うことで輝いて、 ただ意味もなく、確かにそこで燃え続ける星みたいな。 けれど、そんな風に言うあなたは知らない、 その星明りが毎夜、気付かないうちに誰かを照らしていて、 切り取られた星空のなか、 今日も誰かに線で繋がれていること

    • 【短編小説】母と逃避行

                      ※  出ていってやるという母の言葉を僕は今まで何度聞いてきただろうか。だいたい夜中十時ごろ、母の金切り声が聞こえてくる。ただ黙りこくってしかめ面をしつつも、ずっと日経新聞から目を離さずにいる父に向かって、母はいつも吐き捨てるように、その少ない語彙で罵声を浴びせていた。いつだって母はその瞬間、本気で父を陥れようとしていた。全力で父を傷つけようとしていた。そうして、なかば無理やり幼い僕の腕をつかみ、嵐のように、狭い家の廊下を走り去る。自身の存在

      • 【詩】碧虚

        綺麗かどうかを棚に上げて、 雲によってしか、そこに模様を描くことができないのなら、空もまた虚ろだ 僕と同じようにからっぽ、と言って 死骸の瞳がそうするように、青空を眺めて 空に空という名前をつけた人となら、友達にだってなれるかもしれないと思いながら 本当は、その世界で自分だけ、自分で自分を満たせるくらい、清潔になりたかった。

        • 【詩】堕落の詩

          他人に寄り添うことが、世界を救うのだとしたら、僕は、人類の為に、ずっとずっとひとびとに寄り添っていよう。歌手になるためではなく、ただ心の響きを見せつける為だけに、唄い続け、吹き抜ける風を感じる為だけに、並木道を練り歩く。春が渦巻くなか、思い立ったように立ち止まっては、誰かに共感するように涙を流し、そして、時間が止まらないことを知りながらも、なおのこと泣き続ける。そういう怠惰なきみたちに共鳴して、僕も等しく、怠惰でいてあげる。

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        【詩】さんかく座の詩

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          【詩】泥のように眠、れず

          頭痛。溶解しない沈殿。 もう一生分眠ってしまって、僕は、眼を瞑る口実を見つけられない。 見ないことを選べず、ただ見ることしか出来ない光景を前に、夢を、いつか見ていたことを思い出しながら、 沈殿して往かない意識を、重々しく、頭の重さそのもののようにもたげている。 泥のように眠っても、眠っているから、泥のようであること、なにも気にしなくてよかったのに、眠りにつけなければ、ただ取り残されるのだ、存在、泥のようであること、その事実だけ。 ✕✕✕✕     ✕✕   ✕ 剣を、脳に刺さ

          【詩】泥のように眠、れず

          【詩】海

          どれだけ僻んだって、きみは海。砂浜の砂を少しだけ濡らして、歪んだ月の光を、その淀んだ水面に映し出す、ただ僕に疎らな詩を想起させるだけのもの。 僕はきみのことが好きだけれど、きみを、本当の意味で好きになることなんてないのかもしれないね。みんな、生まれたときから詩人で、目の前にあるものを、象徴的にしたがっている。それはきっと僕も同じで、砂浜で微かに輝く貝殻を拾い集めるみたいに、そして、その音に神経を研ぎ澄ませるように、きみを、遠くから覗き込んでいた。 モチーフに偏重した素人作家み

          【詩】砂粒の詩

          虚ろに、窓の外にある夜を見つめて、 嫌いな人の話をしながらしか、恋ができない。 きみの寝息が聞こえる午前2時、 ただ後ろめたさから、夜空に平和を願って、そして、その願いが、いつか、ふとした瞬間に叶ってしまったとしたら、そのときは僕たち、もっともっと広い世界の話をしよう。 いっしょに空を見上げて、 大きな世界の前で、いつまでも一番の被害者でいよう。

          【詩】砂粒の詩

          【詩】書架の中の孤独

          「ふと思い付いたんだ。ある日、絵本作家の幽霊と友達になって、けれどもただ、絵の描き方、物語の作り方ばかり教えてもらっているような、そんなつまらないひとりの少年の話を。」 嘲笑にすらなれない仄かな笑いを、いつかの発射残渣のように忍ばせて、揺蕩う水面みたく緩やかに進行する、物語未満のもの。喜劇だ、と呟いて、ひとりでに、にやにやにやにや笑っていた。眩暈に襲われるかのように、追っていたページの文字が、つぎつぎと眼の上を滑っていった。すぐ背にある本棚が、大木を模した怪物みたいに大きく思

          【詩】書架の中の孤独

          【長編詩】紅い花

                  Ⅰ 対話するってことは、人に銃口を向けるってことなんだけどなあ。でも快感なのかもしれない。空気を貫いた先、きみの眼の上で、紅く、触手みたいに延びた彼岸花が咲いて、僕は、初めて、僕がきみに与えた影響力について思った。それは愛だね。けれども、きみのことを心から綺麗だと思うのと同時に、きみは、僕にとってただの作用点でしかないこと、僕の一生のうちに起こる幾つかの現象のひとつでしかないこと、僕は気が付いてしまって、だからこそ、なおさら、傷つけることそのもののように、愛

          【長編詩】紅い花

          【詩】原石の詩

          もう今なら、誰でも好きになれる気がする 心からの優しさでひとびとを想って そうして、角を取るように自らを研磨し そのまま身体ごと消えてゆくこと 磨くことがすり減らすことだなんて、考えもしなかったよ 輝かないまるい石なんてつまらないだけだと そんなことにも気づかないまま、大人になってしまって、わたしは、もっと心から、人を嫌いになるべきだった。

          【詩】原石の詩

          【詩】夜行性の詩

          夜にだけ小説を書きたくなるような そういう不定形の生だったとしても。 昼に満たされていたことを忘れ去り、 棚に上げるように劇的に、夜が去ってゆくのを惜しんだのなら、世界一の不幸者になって、僕は、無造作に、欠け落ちた詩を描く。 たとえ、本の形をした物語しか知らなかったとしても。 四等星みたいに綺麗な小説が描きたい。 恒星が周囲を燃やすようにきみたちを、傷つけていたい。

          【詩】夜行性の詩

          【詩】吐瀉物の詩

          すぐ頭上を走ってゆく電車も、 嗚咽して俯いている自分の身体も、 ぜんぶがぜんぶ、このわたしの今いる空間とは関係がないみたいで。 知ってる。あなたたちも、きっと、どこに行けばいいのか、分からなかったのね。 ぐるぐる、叫ばないまま泣き喚いて、迷走するように逆流して、ただ高架下のアスファルトを少し溶かすくらいの影響力。 どうしてか、信号機の緑があたたかく、やさしくて、寒いってわたしの代わりに、終電とか、走り去る車とか、街とかと一緒に言ってくれた気がしていた。体温みたいな言葉で囁いて

          【詩】吐瀉物の詩

          【詩】朝陽

          猫に生まれ変わったってことにして、 朝陽のなか、眠りについている。 車道の上で、灯火をぼんやり映す街灯のように、漫然と突っ立ったまま、けれども切実に誰かに認められたいと思っていて、 だからこそ、また夜を越してしまったんだ、きみは。 そうして、今まで流れてきた何万、何十万という藍色の空の数だけ、きっと、知ってゆく。 たぶん、きっと、ひとりでも生きていけること。 友達だけがいつの間にか、朝陽に火葬されたように消えて、けれども朝陽は、きみの身体を焼かないし、きみを殺さない。この世界

          【詩】脳科学者の詩

          簡単な概念ほど、簡単に否定したくなってしまう。 ずっとずっと馬鹿みたいに笑ってるきみより、わたしのほうがえらいよ、って、いつか叫ぶのが、机から発せられた魔力にいつも縛り付けられてるわたしの夢。 だってわたし、すごーくすごーく深く考えて、きみよりもはるかに難しいことを考えて、それで、ずっと、みんなみんな死ねって思ってるから、世界の重力すべてが集約された教室を、パズルみたいに、わたしの頭のなかで、ぜんぶがわたしの頭のなかで完結しているみたいに、組み替える。 錆びた鎖みたいな数式を

          【詩】脳科学者の詩

          【詩】夜の湖

          映らない。 僕の姿はなにも映らない。 曇った夜に見た湖は、なにも透き通ってなんかいなくて、それは、津波のように暗く淀んでいて、けれど、それでも湖の名残であるみたいに、水面は緩やかに凪いでいた。 自分の存在を確かめられなくなったら、簡単に死んだような気分になれるから、 僕は、夜の湖で、生きたくないけれど、死にたくもないまま、観念的な自殺をする。 夜景と認められないこと、かわいそうって言える人になりたかった。夜の湖、きっと、僕とどこまでも似ていて、それでいて、とてつもなく、つまら

          【詩】夜の湖

          【エッセイ】「軽蔑」を神聖視する僕たち

          「軽蔑」も、「嫌悪」と同じように、なにかしら後ろ向きな感情が作用して、そこから生まれた行為、もしくは発展した感情であることは、間違いないのだけれども、それでも僕は、その二つの感情のあいだには、とてつもなく大きな隔たりがあると思っている。 「嫌悪」というのは、ある種、対等な存在に対して向けるものであり、どちらかと言えば、自分と同じくらいの力、もしくは相手がそれ以上の力を持っていて、自分ではどうにも打開のしようがない状態のときに抱くことが多い。イメージとしては力関係の近い同級生や

          【エッセイ】「軽蔑」を神聖視する僕たち